断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

14 いざ出発

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  ◇

 処刑の延期が決まってから、私の服は華やかになった。
 用意された旅装束も、死刑囚のものとは思えない。

 真紅のワンピースは、裾にフリルがあしらわれて、歩くたびにふわふわと揺れる。
 黒いケープには、艶やかな糸で草花が刺繍されている。

 食事の量も増えた。
 頼めば湯浴みまでさせてもらえる。

 扱いが手厚くなった理由は、たぶん二つ。
 一つは、貴族の心が揺れ始めたのだろう。
 「アナベルこそ聖女かもしれない」と。

 もう一つは、私がヘイルフォード公爵家の人間だから。

 ヘイルフォード公爵、つまりアナベルの父は、前王様の従弟。
 そしてマチルダの義兄でもある。

 家系図を見せれば、ほとんどの貴族がペコペコするはずだ。
 もちろん議会にも参加できる。

 そんな公爵サマが目をかけるのは、アナベルの兄だけ。
 アナベルの記憶の限りでは、彼が娘に話しかけたのは二回。

『私の前で、ペンダントの話は二度とするな』

『お前の婚約者が決まった。レオナルド殿下だ』

 ……以上である。

 アナベルを次期王妃に推薦したのは彼だけど、娘のためじゃない。
 公爵家の地位を盤石にするため。
 それだけだ。
 そうに決まっている。

 その証拠に、出発三日前になってようやく私に会いにきたけど、

『あがくのは勝手だが、公爵家と陛下の足は引っ張るな』

 と、一言で去った。

 正直、イラッとした。
 罪人とはいえ、一緒に暮らしてきた娘なのに。
 少しは心配しなさいよ。

 でも、服については彼の地位に感謝しよう。
 おかげで風邪をひくことはなさそうだ。

 そして──地の精霊を探す日。
 ロングブーツの紐をしっかりと結び、私は塔を降りた。

 合流したリリィには近づかず、だけど挨拶はしようとしたら、

「リリィ様、早く行きましょう」

 と、ギデオンに遮られてしまった。
 リリィも私の方を見ない。
 
 その上、リリィの仲間たちが私の前に立ち塞がる。
 ペンダントを借りたいのに、話しかけられない。

(えっ、なんで?もしかして……これのせい?)

 私は、隣に立つイザークを見た。
 正しくは、彼の腕をがっちりと掴む自分の手を。

 変態だと思われたのかもしれない。
 盲点だった。
 イザークから離れようか。

 ……いや、このままでも問題ないだろう。 
 リリィは、処刑寸前の私すら頼りにした。
 変態にもペンダントを貸してくれるはずだ。

 そう思ったけど、みんなは私を無視し続けた。

 途中の村で、レオナルドが村人から手紙を受け取った時もだ。
 私とイザークは、五人がかりで除け者にされてしまった。

 そう──私とイザークの前を歩くのは五人。
 まずはリリィ、レオナルドとギデオン。

 そしてエリオット。
 長い緑髪と眼鏡が特徴の、国王親衛聖術師だ。
 今朝は私と対面するなり、

「ゆっくり歩いていいですよ。あなたの顔を見ると反吐が出そうになるので」

 と、白いローブがかすむほどの黒い笑顔で言い放った。
 
 青髪の公爵令息ルークは、紫のローブをまとう暗黒術師だ。
 十六歳の彼は、子リスみたいな顔で、怯えるように私を見ていた。

 エリオットとルークも、乙女ゲームの攻略対象者。
 ギデオンとともに、レオナルドとリリィを守り、補佐をするキャラクターだ。

 ちなみに国王が率先して戦っているのは、貴族が聖女の護衛役をレオナルドに押し付けたからだ。
 うん、腐ってる。
 
 当のレオナルドは、リリィやルークのそばで、身を硬くして歩いている。
 三人の前後を守るのは、ギデオンとエリオット。

(この二人も若いよね。エリオットは二十歳だったかな)

 眺めていると、エリオットが声を低めてリリィに話しかけた。

「リリィ様。処刑場での一件は聞き及んでいます。ですが、アナベル様を信用してはなりません」

「……そう、よね……」

「アナベル様の手にペンダントが渡れば、アルデリア国全土がヴァルモント侯爵領のように──私の故郷のように荒れ果てるでしょう」

「そうなった時、エリオットは家族も失ったんだよな……」

 ギデオンが痛ましげに呟くと、エリオットは苦笑いを返した。

「あなたも似たようなものでしょう。ご家族を魔物に殺されて、生き残った弟さんを職人の養子にするなんて」

「それが最善策だろう。弟はまだ三歳。なかなか帰れない俺のことなんか、忘れた方が幸せだ」

 ギデオンが肩をすくめると、今度はルークの顔が陰る。

「二人とも強いね……僕なんて王都でぬくぬくと過ごしてたのに、泣き虫で……」

「でも、ルークは屋敷で一人ぼっちなんだろ?」

 レオナルドが、ルークの肩をぽんと叩く。

「『生まれつき暗黒術を使えた』なんて、くだらない理由で差別されてきたんだ。自信を持てなくて当然だよ」

「レオナルド、ありがとう……」

「そうよ。小さい頃から邪魔者扱いされたら……泣き虫にもなるわ」

 リリィが、まるで我が事のように沈んだ声で言った。
 ルークが涙目でリリィを見つめる。

「リリィ……僕、頑張るよ。聖女の君を守るから」

「私たちも全力を尽くします」

 エリオットの言葉に、ギデオンが「そうですよ」と同意する。
 切なくも温かい光景だ。
 ただ、一つ聞きたい。



 私が本物の聖女だっていう話、どこ行った?



(なんだか意図的に避けられてるような……二週間の間に、私への不信感が再燃したとか?)

 地の精霊が私に懐けば、また考えが変わるだろうか。
 あの子は森を転がり回っているから、じっとしている方が会えるかもしれない。

 思案しているうちに、目的の森が見えてくる。
 そこで、思わず「うわっ」と言ってしまった。

「これは、想像以上におどろおどろしい……」
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