断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

15 不自然なほどの警戒

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 紫の川はポコポコと泡立つ。
 植物は黒く染まっている。

 時折、溶けた枝葉がどろりと落ちる。
 
「この森はどこも、こんなものだよ」

 レオナルドはため息をつき、ひとりごとのように呟いた。

「魔物が徹底的に荒らしたからね」

「そういえば……魔物に殺された生き物は、土や水を穢すんだっけ」
 
 穢れたこの森に、正常な動植物は一つもなかったはずだ。
 ここにいるのは魔物か、魔物になりそこねた草木ばかり。

 穢れは魔物の餌だから、さらに魔物が集まってくる。
 
「精霊の力で浄化すればいいんだよね」

 そういう設定があった気がする。
 リリィにはできなかったけど、私ならいけるかもしれない。

 すると、エリオットが横目で私を見ながら、

「簡単に言わないでください」

 と、冷たく言い捨てた。
 やっと口をきいてくれたと思ったら、声が棘だらけだ。

「わずか一日で森全体を清めるか、吹き飛ばすかしなくては、穢れが復活するのですから」

「うーん、そうか……って、あそこ!」

 私は左手でイザークの腕をギュッとつかみ、右手で茂みの奥を指した。
 狼型の魔物が二匹、こちらへ向かってくる。

 ギデオンたちが武器を構え、戦闘が始まった。

 私は何もしない。
 というかできない。
 ペンダントもないし。

 せめて、石を投げて援護しようか。
 いや、リリィへの攻撃だと思われるかもしれない。
 イザークに斬られる。

 そのイザークは、私に左腕を掴まれているので動けない。
 というか動こうともしない。

「……イザーク、手伝わないの?強いのに」

「アナベル様の監視が最優先だ、と命じられましたので」

「みんな、魔物と戦ってるけど……国王と、エルディリス家の令嬢もいるよ?」

「まだ問題ありません。それに、私は集団戦に慣れていません。皆様を斬ってしまう危険があります」

「そ、そうなんだ。でも、本気でピンチになったら助けてあげてね」

 そんなことを話している間に、戦闘が終わった。

 五人は肩で息をしている。
 特にダメージが大きいのは、最前衛のギデオンだ。
 鎧は傷だらけ、額からは血が出ている。
 
「あのさ……」

 心配になった私は、五人に声をかけた。

「ペンダントを貸してくれたら、魔物を倒せるけど。地の精霊も寄ってくるかもしれないし」

「馬鹿なことを言わないでください!重罪人に大切なペンダントを渡すと思いますか⁉︎」

 ギデオンはバッと顔を上げ、刺すように私を睨んでくる。

「公爵令嬢だからと言って、誰でも命令を聞くと思わないでほしいですね!」

「い、いや、そんな……」

 眼光の鋭さに、とっさにイザークの後ろへ隠れてしまった。

 だけど心配は心配だ。
 私は怖々と顔を出して言い返した。

「みんなが戦ってるのをボーッと見てるのも、じれったいというか。悪女みたいだし」

 お嬢様な服装で、美青年と腕を組んでいるから余計だ。
 召使いをあごで使っている気分になる。

 肩を丸める私に、エリオットが冷たく言い放った。

「よくわかっていらっしゃる。あなたは悪女ですよ」

「まあ、立場的にはそうなんだけど……辛かったらすぐ言ってよ」

 血の匂いに惹かれる魔物も多い。
 そのこともあって、私は焦っていた。

「無理しちゃ駄目だからね。私と精霊に任せてくれたら、一網打尽なんだから」

「その通りです。すべては聖女様のおかげですが」

 透き通った声が、かすかに聞こえた。
 リリィのペンダントから光るオコジョ、もといナギが現れる。

「あ、精霊様──」

 声をかけようとするリリィを無視して、ナギは私に話しかけてくる。

「聖女様なら、私の力を正しく使ってくださいます。先程の魔物など瞬殺です」

「ああ……うん」
 
 私は曖昧に返事をしつつ、リリィを見た。
 泣きそうな彼女を、レオナルドとルークが励ましている。

「リリィ、気にしなくていいからね」

「……ルーク、ありがとう」

「そうだ、リリィはよく頑張ってる」

「レオナルドも……ごめんね、気を遣わせて」

 彼らの周りには、白い目で私を見るギデオンとエリオット。

 気まずい。
 この空気、早くなんとかしたい。

 私は、大きめの声でナギに話しかけた。

「で、でも、今まではリリィが戦ってたんだしさ! リリィもすごいでしょ?」

「いえ、まったく。この娘に力を貸すたび、胸を掻きむしらんばかりの苦しみが全身を襲うのです」

「…………そう」

 一刀両断とはこのことか。
 もうちょっとリリィをフォローしてくれると思ったのに

 でないと、私がギデオンに一刀両断されそう。
 もしくはエリオットの聖術で燃やされるか。

「まあ、娘の母親よりは百倍マシですがね」

「母親?」

 マチルダのことだろうか。

 聞こうとしたけど、ナギはため息をついてペンダントに戻った。
 どうやら疲れてしまったらしい。

 大丈夫かな、とペンダントを見つめると、リリィがそれを守るように握りしめる。
 続いてギデオンとエリオットが、私とリリィの間に割って入った。

「行こう」

 レオナルドの一言で、みんなはまた歩き出す。
 大げさなほど、私から目を背けて。

 そのことに怒りは湧かない。
 寂しいとも思わない。
 
 ただ強烈な違和感を覚える。
 なぜ、こんなにギスギスしているのだろう。

 特にレオナルドとギデオンは、私が力を使うところを見たはずなのに。

(リリィだって、私にペンダントを貸してくれたのに)

 多少は軟化してもいいはずだ。
 なのに、逆に警戒されている。

(もしかして、何かあった?私の処刑延期から、今日までの間に……)
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