断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

16 ツッコミを我慢できない

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 考え込む間もなく、また狼の魔物が襲ってきた。

「今度は八匹だと……!」

「ギデオン、私に任せて!」

 すぐさまリリィがペンダントを握る。
 ナギがポフンと現れ、風の刃が魔物に襲いかかる。

 しかし、勢いがない。
 ナギも苦しそうに咳き込んでいる。

 レオナルドたちの動きも鈍い。
 かなりまずい状況だ。

 私は前のめりになって、
 
「ねえ、すぐ返すからペンダントを貸して!本当に危ないよ!」

 と、叫んだものの。

「集中できない、黙っててくれ!頼むから!」

 レオナルドに怒られてしまった。

 でも……口出ししたい。
 猛烈に。

 ナギやリリィも心配だけど、それ以上にじれったい。
 みんな、そんなに疲れているんだろうか?

 効率が悪すぎる。
 回復役エリオットが敵を殴ったり。
 騎士ギデオンが傷薬係になったり。

 ルークもおかしい。
 狼系は睡眠耐性があるのに、睡眠魔法スリープばかり唱えている。
 
 ツッコミを入れたい。
 でも、声をかけたら邪魔になる。
 我慢だ。

 我慢しないと……

 我慢……




「無理ーっ!!」

 レオナルドたちが硬直する。
 やってしまった……
 
 でも、魔物も固まっている。
 今のうちに言いたいことを言おう!

「リリィは元気な敵から攻撃して!雑魚なら魔法で一撃必殺でしょ!レオナルドも、手当たり次第に斬っちゃ駄目!」
 
「で、でも……」

 リリィがオロオロし始めた。

「どの魔物が弱ってるのか、わからないし……」

「右端の奴は無傷だよ!あいつを倒して!」

 私は手をメガホン代わりにして叫んだ。
 直後、男性陣を見る。

「レオナルドとギデオンは左端の魔物を攻撃!ルークは真ん中に麻痺魔法パラライズ!」
 
 五人とも、ぽかんとして私を見る。
 その間にまた魔物が牙を剥く。

「危ない、前を見て!早く!」

「は、はい!」

 リリィがすばやく魔物に向き直る。
 みんなが私の指示通りに動く。
 魔物は一気に二匹倒れ、一匹は麻痺で動けなくなった。

 これでひとまず安心だ。
 ふう、と息をつくと、すぐ横で平坦な声がした。

「アナベル様は策士の才もあるのですね」

 イザークが私をじっと見ている。
 冷静に評価されると、張り切った自分が恥ずかしくなる。

「いや、その……単にゲームのやりすぎっていうか……」

 ゲームによっては敵の体力が表示されない。
 暗算が当たり前になってしまった。

 レベル上げのために戦いまくっていたら、魔物の耐性くらい嫌でも覚える。

「ゲーム……ボードゲームで戦況を読む力を養ったのですか?」

「ま、まあ、そんな感じ」

 この場で「乙女ゲームが~」と説明してもわからないだろう。

 そうこうしているうちに、リリィたちは戦闘を終えた。
 しかしやはりと言うべきか、さっきよりもボロボロだ。

 私はたまらず、五人に話しかけた。

「みんな、大丈夫?エリオット、聖術はまだ使えそう?まずはギデオンを……」

「何もしていないくせに上から目線とは、いいご身分ですね」

 エリオットが嫌味な笑顔を浮かべる。
 私はムッとして言い返した。

「攻撃の指示、出したじゃない!」

「戦ったのは僕らです。あなたは若い男に抱きついていただけでしょう」

 その一言でカチンと来た。
 私にも事情があるのに!

「そんなに言うなら働けばいいんでしょ!ねぇ、リリィ~。五分だけ、ペンダント貸して?」

 親しげな感じで言ってみたけど、即座にギデオンとエリオットが立ちはだかる。

 どうしたらいいんだろう。
 頭を抱えていると、イザークが口を開いた。

「リリィ様。もう、アナベル様にペンダントを渡すべきだと思います」

「えっ⁉︎」

 と、声を上げたのは私だ。
 
 イザークは「アナベルを殺せ」と命令されているのに。
 命令には従わなくては、と言ったのに。
 どうして私の味方をしてくれるんだろう。

 呆然としていると、ギデオンがうなるように言った。
 
「処刑人……正気か?」

「もちろん。アナベル様の指示は的確でした。それでも皆様は負傷なさった。これ以上の戦闘は危険です。私は、最善の行動を提案しているつもりです」

 イザークの返事を聞いて、私は内心で膝を打った。

 彼はつまり、AIみたいな人なんだ。
 感情に流されず、合理的に判断を下すだけ。

 どうしてそうなったかは謎だけど。

「最善ですって?最悪の間違いでは?」

 エリオットも眼鏡越しにイザークを睨みつける。
 しかしイザークは動じない。

「アナベル様なら、精霊様の力を最大限引き出せます。魔物の討伐をお任せすべきです」

「そうだよ、これ以上怪我をしなくて済むよ!」

 私の力も示せるし、一石二鳥。
 そう思ったけど、ギデオンは赤鬼みたいな顔で怒鳴った。

「どういう意味です?俺には陛下とリリィ様を守れないとでも⁉︎」

 しまった、逆効果だ。
 後ずさる私の隣で、イザークはむしろ攻めていく。

「その可能性が高いです。私が戦えればいいのですが、アナベル様の監視が最優先ですので。容易に手をお貸しできません」

「お、お前の汚れた手など必要ない!」

「二人とも、ちょっと落ち着いた方が……」

 レオナルドがおずおずと声をかけたが。

「陛下がそのように弱気だから、処刑人風情がつけ上がるのです!」

 ギデオンに怒られて、レオナルドは肩を縮こめた。
 彼の後ろにいるリリィとルークまで、しょげている。

 三人はうつむき、何やら小声で相談を始めた。

「ルーク、レオ。私、やっぱりアナベルにペンダントを……」

「そ、そんな、駄目だよ。危険だってば。だからギデオンとエリオットは必死なんだよ」

「リリィ、大丈夫だ。地の精霊様は、僕たちの力で探し出そう。あとのことも僕に任せて。これでも国王なんだから」

 何の話だろう。
 というか、私が危険ってどういうことよ。
 そこで睨み合うギデオンとイザークの方が……



 ──待って。
 違う、私じゃないかも。

 先々週、レオナルドが話していた。
 「魔物以外の脅威」について。

(ひょっとして……私が力を使うと、その脅威が近づく?みんなはそれを警戒してるの?)

 脅威と聞いて思いつくのはマチルダだ。
 とはいえ、マチルダは『危険』という感じじゃない。

(じゃあ何が……えっ⁉︎)

 私は考えるのをやめ、身を硬くした。
 ガサガサと草を分ける音が、こっちへ近づいてくる。
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