断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

17 地の精霊

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 レオナルドたちが武器を構える。
 イザークも私の前へ出て、腰の剣に手を伸ばす。

 全員が茂みに注目する。

 空気がひりつく中、茶色い物体がポフンと転がり出てきた。
 小型犬くらいのそれは、私たちの輪の中心で止まった。
 
 ……毛玉だ。
 犬でも猫でもなく、本当にただの毛玉。

 そこから小さな手足が生えた。
 そして「うんしょ」と立ち上がる。

 何とも言えない空気が、あたりに漂う。

「……何だ、これは?」

 ギデオンが怪訝そうに呟く。
 ほかのみんなも、イザークまでもが呆然としている。
 私は首を傾げた。

「あれ?わからないの?」

 明らかに魔物とは違う。
 それなら答えは一つしかない。

 それにしても、ゲームで見た以上に毛玉だ。

「アナベルさんはわかるんですか?」

 ルークがムッとしたように尋ねてくる。
 私は「うん」と頷き、毛玉のそばでしゃがみ込んだ。
 
「あなた、地の精霊だよね?」

「は⁉︎」
 
 エリオットが驚きの声を上げる。
 全員、まじまじと毛玉を凝視する。

 みんなに見つめられる中、地の精霊は黒豆みたいな目を開いた。
 足をちょこちょこと動かして、私の足元まで歩いてくる。
 
「……聖女さま」

 やっぱり可愛い……
 立ち絵の時もやわらかそうだったけど、動くとさらに、もっふもっふしている。

 地の精霊はモジモジしながら私に言った。

「聖女さま、ずっと待ってた。うれしい」

「そ、そうなんだ」

「ボク、コハクっていうの」

「うん、そっか、コハクだね」

 無意識に手が伸びて、地の精霊──コハクをなで回してしまう。
 指が、もふりと毛の中に埋まった。

 コハクは、さらにモジモジしている。

「疲れちゃったから、ペンダントに入りたい……でも」

 そう言って、小さな目でリリィを見た。

「そっちはもっと疲れそうだから、行きたくない」

「……!」

 リリィが息をのみ、涙ぐむ。

 コハク、かわゆい姿でなんてことを……
 ますますペンダントを借りにくくなった。

(かといって、無理に奪ったらイザークに一刀両断されるし)

 どうして私はこんなにも命の危機なんだろう。
 世界の強制力とやらが働いているんだろうか。

 ……死刑囚だからかな。

 それはともかく、このままではコハクが仲間になってくれない。
 どうやってペンダントを借りよう。

(リリィたちが切羽詰まったら、貸してくれるかな。また魔物が襲ってくるのを待つとか? でもボス狼が出てきちゃったら、あっという間に胃袋の中だもんなあ)

 しゃがみ込んだまま思案していると、コハクが肩によじ登ってくる。

 頬がフワフワとくすぐったい。
 にやけそうになった時、突然背中を叩かれた。
 イザークかと思って後ろを見ると──

「ひぇっ⁉︎」

 ベソをかいたリリィが、背後に立っていた。

 私は飛び上がり、イザークの腕に抱きついた。
 落ちかけたコハクも、私にしがみつく。
 
 私たちのコントみたいな行動を、リリィはまるで気に留めず、か細い声で尋ねてくる。

「アナベル……アナベルにペンダントを渡せば、地の精霊様が一緒に来てくださるのよね?」

「う、うん。私なら精霊をすぐ仲間にできるし、魔物の群れも即殲滅だよ」

 どうしたんだろう。
 ペンダントを貸してくれるんだろうか。

 ドキドキしながらリリィを見つめ返すと、レオナルドが彼女の肩を掴んだ。

「やめろ、リリィ! 迂闊うかつなことをしたら殺されるぞ!」

「だから何なの⁉︎」

 リリィは噛み付くように叫ぶと、レオナルドの手を払い落とした。
 別人のような振る舞いに、私は息をのみ、レオナルドは後ずさる。

「殺すなら殺せばいいわ!どうせ、何もかも私が悪いんだから!」

 リリィは自分の髪を鷲掴み、喚き散らしている。

「魔物を倒せないのは私のせい!みんなが殺されたのは私のせいよ!」

 そこまで言ったリリィは、ぐしゃっと顔をゆがめた。
 倒れ込むように地面へ突っ伏し、ワアッと声を上げて泣き始める。

 レオナルドとギデオン、エリオットとルークは立ち尽くし、泣き喚くリリィを見下ろしている。

「えっと……お取り込み中に申し訳ないけど、説明してくれない?」

 なぜ、私にペンダントを渡すとリリィが殺されるのか。
 誰に殺されるのか。

 一番話が通じそうなレオナルドを見つめる。
 彼は、黙って荷物から何かを取り出した。

 それは手紙だった。
 ここへ来るまでに通った村で、村人に渡されたものだ。
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