25 / 105
1章 断罪回避
25 イザークの正体
しおりを挟む
白いシャツに黒のズボン、というシンプルな格好だ。
なのに顔が美しすぎて、着飾った貴族より輝いて見える。
イザークはドアを閉めると、綺麗な姿勢でお辞儀をした。
「陛下が『アナベルと昼食を共にしろ』と仰せです。僭越ながら同席いたします」
「ああ、うん……私が頼んだの。イザークを呼んでって」
「アナベル様が?」
「うん。都合、悪かった?」
「いえ、問題ありません」
「そ、そっか。じゃあ、こっちの椅子にどうぞ」
私がテーブルの椅子を引くと、イザークはなぜかもう一つの椅子のそばへ歩いていった。
その椅子を引き、座るのかと思ったら、立ったまま私を見つめてくる。
「アナベル様が先におかけください」
「えっ、イザークが先に座りなよ」
「私は平民です。アナベル様を立たせたまま、席に着くわけにはまいりません」
本当は平民じゃないでしょ──という言葉を、私は飲み込んだ。
「……じゃあ、お先です」
私がイザークに近づくと、彼は私の手を取り、席の前に誘導してくれた。
私が座るのに合わせて、椅子が押される。
あまりにも自然なので、恥ずかしいとも思わない。
心地良いとすら感じる。
さすが、元王子。
向かいの椅子にイザークが座ると、見張りの兵士が食事を運んでくる。
(私、失言してたなあ……王子っぽいとか、色々。イザーク、嫌だったよね)
テーブルに並ぶお皿を見つめながら、申し訳なさにため息をつく。
──城に戻る前、イザークにしがみついていたことを謝りそびれた。
そのことに気付いて「話す時間を作ってくれない?」とレオナルドに頼んだ時。
レオナルドは困惑しながらこう言った。
『いいけど、イザークを王子っていうの、やめてやってくれないか?イザークは……本当に王子だったんだ、外国の。あまり公にしてないから、言い回らないでくれよ』
王子が他国で処刑人になる──一体、何があったのか。
聞かなくても、波瀾万丈の日々があったと想像できる。
(イザークにしてみたら、私に会うのも苦痛だったりして……でも、レオナルドに『ちゃんと食事してるのか確認してくれ』って頼まれたし)
あとは、あまり男にベタベタ触るなよ、とも言ってたっけ。
失礼な。人を接着剤みたいに。
(まあ、チラ見はしちゃうかもだけど)
そう思いつつイザークを見ると、彫りの深い顔が、まっすぐ私の方を向いていた。
「アナベル様」
感情は読めないけど、冷たくもない声。
以前より優しい気がして、ドキッとしてしまう。
「な、何?」
「なぜ、私を同席させるのですか」
「え」
そこを突っ込まれるとは予想外だった。
どう答えよう。
「……一人でご飯を食べるのが、寂しくなっちゃって!」
思いついたままを口にしたけど、悪くないと思う。
孤独でも不自然じゃない。
だって死刑囚だもの。
しかし、イザークは無表情で追求してきた。
「陛下にそうお伝えすればよろしいのでは?」
「いや、王様が囚人と食事するわけにはいかないでしょ」
「でしたら、ギデオン様やエリオット様、ルーク様なら融通がきくのでは?もしくは見張りの兵士か」
イザークは、お皿を並べ終えて出ようとする中年の兵士──見張りのジョルジュさんに視線を向ける。
「たしかにジョルジュさんとはよく喋るけど、昼休憩は取ってもらいたいよ。ジョルジュさん、食事の支度ありがとう」
私が手を振ると、ジョルジュさんは済まなさそうに部屋を出ていった。
見張り交代の気配を感じながら、私は白いふわふわパンを手に取る。
「それに、いくら仲が良くても、普通は死刑囚と食事なんて嫌でしょ」
と、温かいパンを口に近づけたところで、慌てて付け加えた。
「私と食事してくれる人は、普通より断然優しいってこと!」
「もしくは異質な者ですか。私のように」
イザークはスプーンを手に取り、無表情で続けた。
「国王陛下から、私の素性を聞かれたそうですね。かつて王子だった処刑人は、珍しいでしょう」
なのに顔が美しすぎて、着飾った貴族より輝いて見える。
イザークはドアを閉めると、綺麗な姿勢でお辞儀をした。
「陛下が『アナベルと昼食を共にしろ』と仰せです。僭越ながら同席いたします」
「ああ、うん……私が頼んだの。イザークを呼んでって」
「アナベル様が?」
「うん。都合、悪かった?」
「いえ、問題ありません」
「そ、そっか。じゃあ、こっちの椅子にどうぞ」
私がテーブルの椅子を引くと、イザークはなぜかもう一つの椅子のそばへ歩いていった。
その椅子を引き、座るのかと思ったら、立ったまま私を見つめてくる。
「アナベル様が先におかけください」
「えっ、イザークが先に座りなよ」
「私は平民です。アナベル様を立たせたまま、席に着くわけにはまいりません」
本当は平民じゃないでしょ──という言葉を、私は飲み込んだ。
「……じゃあ、お先です」
私がイザークに近づくと、彼は私の手を取り、席の前に誘導してくれた。
私が座るのに合わせて、椅子が押される。
あまりにも自然なので、恥ずかしいとも思わない。
心地良いとすら感じる。
さすが、元王子。
向かいの椅子にイザークが座ると、見張りの兵士が食事を運んでくる。
(私、失言してたなあ……王子っぽいとか、色々。イザーク、嫌だったよね)
テーブルに並ぶお皿を見つめながら、申し訳なさにため息をつく。
──城に戻る前、イザークにしがみついていたことを謝りそびれた。
そのことに気付いて「話す時間を作ってくれない?」とレオナルドに頼んだ時。
レオナルドは困惑しながらこう言った。
『いいけど、イザークを王子っていうの、やめてやってくれないか?イザークは……本当に王子だったんだ、外国の。あまり公にしてないから、言い回らないでくれよ』
王子が他国で処刑人になる──一体、何があったのか。
聞かなくても、波瀾万丈の日々があったと想像できる。
(イザークにしてみたら、私に会うのも苦痛だったりして……でも、レオナルドに『ちゃんと食事してるのか確認してくれ』って頼まれたし)
あとは、あまり男にベタベタ触るなよ、とも言ってたっけ。
失礼な。人を接着剤みたいに。
(まあ、チラ見はしちゃうかもだけど)
そう思いつつイザークを見ると、彫りの深い顔が、まっすぐ私の方を向いていた。
「アナベル様」
感情は読めないけど、冷たくもない声。
以前より優しい気がして、ドキッとしてしまう。
「な、何?」
「なぜ、私を同席させるのですか」
「え」
そこを突っ込まれるとは予想外だった。
どう答えよう。
「……一人でご飯を食べるのが、寂しくなっちゃって!」
思いついたままを口にしたけど、悪くないと思う。
孤独でも不自然じゃない。
だって死刑囚だもの。
しかし、イザークは無表情で追求してきた。
「陛下にそうお伝えすればよろしいのでは?」
「いや、王様が囚人と食事するわけにはいかないでしょ」
「でしたら、ギデオン様やエリオット様、ルーク様なら融通がきくのでは?もしくは見張りの兵士か」
イザークは、お皿を並べ終えて出ようとする中年の兵士──見張りのジョルジュさんに視線を向ける。
「たしかにジョルジュさんとはよく喋るけど、昼休憩は取ってもらいたいよ。ジョルジュさん、食事の支度ありがとう」
私が手を振ると、ジョルジュさんは済まなさそうに部屋を出ていった。
見張り交代の気配を感じながら、私は白いふわふわパンを手に取る。
「それに、いくら仲が良くても、普通は死刑囚と食事なんて嫌でしょ」
と、温かいパンを口に近づけたところで、慌てて付け加えた。
「私と食事してくれる人は、普通より断然優しいってこと!」
「もしくは異質な者ですか。私のように」
イザークはスプーンを手に取り、無表情で続けた。
「国王陛下から、私の素性を聞かれたそうですね。かつて王子だった処刑人は、珍しいでしょう」
90
あなたにおすすめの小説
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
【完結】婚約破棄された辺境伯爵令嬢、氷の皇帝に溺愛されて最強皇后になりました
きゅちゃん
ファンタジー
美貌と知性を兼ね備えた辺境伯爵令嬢エリアナは、王太子アレクサンダーとの婚約を誇りに思っていた。しかし現れた美しい聖女セレスティアに全てを奪われ、濡れ衣を着せられて婚約破棄。故郷に追放されてしまう。
そんな時、隣国の帝国が侵攻を開始。父の急死により戦場に立ったエリアナは、たった一人で帝国軍に立ち向かうことにー
辺境の令嬢がどん底から這い上がる、最強の復讐劇が今始まる!
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる