断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝

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1章 断罪回避

12 ハードモードにも程がある

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「イザーク、来たか」

 レオナルドが呟いた。
 どうやら彼が呼び出したらしい。
 
 イザークは扉を閉め、こちらへ近づいてきた。
 歩くだけでも様になる。
 アイドルグループへ入れても、ひときわ輝くに違いない。

「いや、アイドルっていうより……王子?」

「アナベル、何を言ってるんだ?」

「イザークさんが王子みたいだな、と思って」

 次の瞬間、場の空気が凍りついた。

(えっ、何?もしかして……レオナルド、イザークさんの方が王子っぽいことを気にしてた?)

 だとしたら、さぞ傷ついただろう。
 私は急いでレオナルドに向き直った。

「でも、レオナルドの方が威厳があるよね。戴冠式の時は急に大人になったと思ったよ。そのうち、オーラだけで貴族も黙るんじゃない?」

 よし、フォローできた。

 ……と思ったけど、息子を励ますお母さんみたいだったかもしれない。
 レオナルド、ちょっと困惑してるし。

 まあいいか。

 今の私、レオナルドの姉とか叔母みたいな気分だから。
 これで婚約者のままだったら、逆に気まずい。
 破棄後に転生してよかった。

「それはそうと、なんで処刑人さんがここに?」

 私の問いに、レオナルドはホッとして答えた。
 なぜかはわからないけど、話がそれて安心したらしい。
 
「僕が呼んだ。改めて挨拶させようと思って。……これから、二人が関わる機会が増えるだろうから」

「二人?」

「君とイザークだよ。議会で決まったんだ。アナベルを外へ出す時は、処刑人に監視させることになった」

「そうなの?イザークさんもたいへ──」

 大変だねと言いかけて、口をつぐんだ。

 彼は、処刑場でマチルダを追求した。
 その罰として、私の監視役をさせられるのかもしれない。

 投獄までいかないのは、強い人材が貴重だからだろう。
 とはいえ、私をかばったせいで仕事が増えたのなら、彼に申し訳ない。

(イザークさん、基本的には暇だろうけど……あまり人前には出たくないよね)

 この国の処刑人は、ある程度は自由だ。
 魔物を討伐する日があれば、本を読みふけることもある。
 それでいて衣食住は保証されている。

 悠々自適に思えるが、羨ましくはない。  
 人々には恐れられ、魔物を倒しても死神扱いなのだから。

 同情を込めてイザークを見つめると、彼は姿勢を正し、頭を下げた。

「本日より、アナベル様が外出される時は、私が同行いたします。逃亡、およびリリィ様への暴行の気配があれば断罪せよ、と命じられております。よろしくお願いいたします」

「いや、こちらこそお手数を……ん? 断罪?」

 私が首をかしげると、イザークは右手を剣の柄に添えた。

「アナベル様を斬る、という意味です」

「ぶえぇ⁉︎」

 驚きすぎて変な声を出してしまった。 
 
「き、斬るって……その剣でバッサリってこと⁉︎」

「はい。逃亡や、リリィ様への暴行の可能性がある時は」

「ひいぃ……」

 ためらいのない口調。
 柄に添えられたままの右手。
 怖すぎる。

 しかし、ふとイザークの「命じられております」が引っかかった。

「ねえ、レオナルド。イザークに命令したのって……」

 レオナルドを見ると、彼は首をすくめた。

「反対する貴族もいたんだよ。でも、マチルダが……」

 やっぱり。
 私はため息をついて、頭を抱えた。
 
「あの人、どれだけ私を殺したいのよ……」

「うん、まあ……相当怒り狂ってたからね。『アナベルは聖女を騙った。万死に値する』って。僕も抵抗しようとしたけど、僕の発言なんてゴミみたいな価値しか、なくて……」

 レオナルドは、がっくりと肩を落とした。
 でも、今は励ます余裕がない。

 どうすればイザークの剣から逃げられるか、考えないと。

「あのー……イザークさん?」

「私はただの処刑人です。イザークとお呼びください」

 彼の無表情が、処刑台にいた時は頼もしく思えた。
 でも、今はそれがひたすら怖い。
 おまけに癖なのか、右手はまだ剣の柄に触れている。

「私が転んで、リリィに手が当たったっていうのは、セーフだよね……?」

「斬ります」

「嘘ぉ⁉︎」

「故意か事故か判断できかねる場合も、首を落とせと命じられています」

「厳しすぎない⁉︎」

「アナベル様は、一度リリィ様からペンダントを奪おうとなさっていますので」

「う……で、でも!イザークは私のこと助けてくれたよね?」

「はい。私個人としては、アナベル様の処刑には反対です。国の損失に繋がりますから」

 じゃあ見逃して、と言おうとしたが、その前にイザークは容赦なく告げた。

「ですが、私はアルデリア国に仕える身。命令には従わなくては」

「そんなぁ……じゃあ、私が足を滑らせて川に落ちても、『逃げた』って見なすの?」

「そのように命じられておりますので」
 
 ハードモードにも程がある。
 最凶な原作だって、もっとマシだった。
 
「ええー……どうすればいいのよ。できるだけリリィから離れて、イザークの腕にしがみついてたら大丈夫?」
 
「そうですね。その状況でしたら、逃亡や暴行の可能性は限りなく低い、と判断できるでしょう」

「ほ、本当⁉︎じゃあずっと一緒にいよう!」

 私は、イザークの前へズバアッ!と手を出した。

「ここを出る時はよろしくね!」

 ちょっと怖いけど背に腹は変えられない。
 生き延びるためだ。
 外にいる間は、意地でもイザークに張り付こう。

「……握手ですか?処刑人の私と?」

「そうだよ、早く!」

 恥ずかしくなってきたから、さっさと終わらせたい。

 イザークは、読み込み中のパソコンみたい固まっている。
 しばらくして、彼は剣から右手を離し、私の手を握った。
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