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第1話 不意の、解放(2)
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「………………違う。違います……」
頭の中で異変が起きたあたしは、起き上がって首を左右に振る。
違う……。そうじゃない……。全部、何もかもが違っています……っ。
「お城で開かれた、誕生日のパーティーでの暴言。あれは、あたしの意思じゃありません……。催眠術(さいみんじゅつ)というものが存在していて、それをかけられていたんです……」
お父様の友人の、アンドレ・ソール様。あの人はお友達じゃなくて、特別な力を持った人。紐を通したコインを使って、人の心を操れる人……っ。
「前日あたしはソール様に、『面白い手品がある』と言われてコインを見つめた。そうしたら不思議な感覚になって、『お城の使用人をけなさないといけない』って刷り込まれたんです……」
今なら、ちゃんと思い出せます。
『お前は使用人を見たら、不遜な態度で容姿をバカにしたくなる』――。あたしはあの時ソール様に、そういう言葉を何度もかけられました。
「だからあの時あたしはああしてしまい、大好きだったフェリクス様に――ううん、違う……っ。それも、ウソです……」
あたしは、フェリクス・ファーフ様を好きではなかった。
フェリクス様は先々月にあった王族と貴族の交流会であたしを見掛け、所謂一目惚れをしたのです。だからあの方のことは殆ど知らなくて、そんな方とは結婚をしたくはなかった。
だけど――。
王太子との結婚、王太子妃の誕生は、ラナラ家の地位を向上させるチャンス。家のために受け入れなさいとお父様とお母様は言い、それでもあたしが逆らっていたらソール様を使って『フェリクス様に恋をしていた』と思い込ませた。
あたしの記憶を捏造させて、婚約を成立させたんです。
「…………そっか。それであたしは――あれ? でもそれなら、どうして婚約が破棄されているのでしょうか……?」
無理やり結婚へと導いていたのに、無理やり中止させる。その意図は、一体……?
「明らかに、矛盾、していますよね……。なんでそんなことに……?」
あれこれ考えてみます。が、おおよその推測すらできません。
地位向上を企んでいた二人にとって、婚約破棄は大きなマイナス要素。実際あたしのせいでラナラ家の評判は以前よりも下がっていて、そうするメリットはどこにもないように思えます。
「…………これは……。情報を集めてみないと、いけませんね……」
今起きている問題は、放ってはおけない問題です。家の方々――は、お父様とお母様の息がかかってるため頼れませんから……。自分で、どうにかしないといけません。
「…………そうする、には……。ソール様、が適役ですね」
あの人がウチを訪れるのは、あたしに催眠術を施す時だけ。したがって今夜は二人きりになれる時間があるので、そこで問いただしてみましょう。
「素直に教えてくれるはずはありませんから、そうできる用意をして……。しばらくは何も気付いていないフリをして、動かないといけませんね……」
今まで演技なんてした経験がないためおのずと緊張感が湧き上がりますが、そういうものに負けてしまえば全て終わり。そのため胸の前で両手を握って自分を鼓舞し、あたしは掃除に戻ったのでした――。
頭の中で異変が起きたあたしは、起き上がって首を左右に振る。
違う……。そうじゃない……。全部、何もかもが違っています……っ。
「お城で開かれた、誕生日のパーティーでの暴言。あれは、あたしの意思じゃありません……。催眠術(さいみんじゅつ)というものが存在していて、それをかけられていたんです……」
お父様の友人の、アンドレ・ソール様。あの人はお友達じゃなくて、特別な力を持った人。紐を通したコインを使って、人の心を操れる人……っ。
「前日あたしはソール様に、『面白い手品がある』と言われてコインを見つめた。そうしたら不思議な感覚になって、『お城の使用人をけなさないといけない』って刷り込まれたんです……」
今なら、ちゃんと思い出せます。
『お前は使用人を見たら、不遜な態度で容姿をバカにしたくなる』――。あたしはあの時ソール様に、そういう言葉を何度もかけられました。
「だからあの時あたしはああしてしまい、大好きだったフェリクス様に――ううん、違う……っ。それも、ウソです……」
あたしは、フェリクス・ファーフ様を好きではなかった。
フェリクス様は先々月にあった王族と貴族の交流会であたしを見掛け、所謂一目惚れをしたのです。だからあの方のことは殆ど知らなくて、そんな方とは結婚をしたくはなかった。
だけど――。
王太子との結婚、王太子妃の誕生は、ラナラ家の地位を向上させるチャンス。家のために受け入れなさいとお父様とお母様は言い、それでもあたしが逆らっていたらソール様を使って『フェリクス様に恋をしていた』と思い込ませた。
あたしの記憶を捏造させて、婚約を成立させたんです。
「…………そっか。それであたしは――あれ? でもそれなら、どうして婚約が破棄されているのでしょうか……?」
無理やり結婚へと導いていたのに、無理やり中止させる。その意図は、一体……?
「明らかに、矛盾、していますよね……。なんでそんなことに……?」
あれこれ考えてみます。が、おおよその推測すらできません。
地位向上を企んでいた二人にとって、婚約破棄は大きなマイナス要素。実際あたしのせいでラナラ家の評判は以前よりも下がっていて、そうするメリットはどこにもないように思えます。
「…………これは……。情報を集めてみないと、いけませんね……」
今起きている問題は、放ってはおけない問題です。家の方々――は、お父様とお母様の息がかかってるため頼れませんから……。自分で、どうにかしないといけません。
「…………そうする、には……。ソール様、が適役ですね」
あの人がウチを訪れるのは、あたしに催眠術を施す時だけ。したがって今夜は二人きりになれる時間があるので、そこで問いただしてみましょう。
「素直に教えてくれるはずはありませんから、そうできる用意をして……。しばらくは何も気付いていないフリをして、動かないといけませんね……」
今まで演技なんてした経験がないためおのずと緊張感が湧き上がりますが、そういうものに負けてしまえば全て終わり。そのため胸の前で両手を握って自分を鼓舞し、あたしは掃除に戻ったのでした――。
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