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第2話 確認、開始(1)

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 あれから誰にも悟られないよういつものように掃除や歓迎の準備を行い、およそ十時間が経過。現在あたしは来訪したソール様に呼ばれ、二人きりで客室にいます。
 テーブルを挟んだソファーに座っている中年男性は、お父様の旧友じゃあない。お父様が、あたしを操るために雇った人です。

(……ミーナ、落ち着いて……。落ち着いて……)

 目の前にいるのは、あたしを滅茶苦茶にしようとした敵の一人。必然的に心音が速くなりますが、動揺していたら怪しまれてしまいます。そのため何度も何度も自分に言い聞かせ、どうにかいつもの速さに戻りました。

「ミーナちゃん、わざわざ来てくれてありがとう。何かと忙しいのに悪いね」
「いえ。お気になさらないでください」

 ここへの立ち入りは、あたしの希望でもあります。真実を知るためでしたら、何時間でもお付き合い致しますよ。

「そう言ってもらえると、助かるよ。……まあ、そう返すように仕込んであるんだけどな」

 指をパチンと鳴らしたソール様の、表情と雰囲気が急激に変化。温厚だったソレらは鳴りを潜め、罪人を想起させる悪質なものへと変わりました。
 これは、あたしを催眠状態にする合図。今のあたしはコントロールされていると思い込んでいるから、本性を出したようです。

「さてと、今夜も一仕事するとしようか。ミーナ、こいつをじっくり見つめてくれよ」

 ソール様は重厚なケースから紐がついたコインを取り出し、あたしの顔の前に垂らしました。
 この道具は、やけに大切に保管されています。ということは、催眠術にはこれが必要不可欠なのですね。

「…………はい。畏まりました」

 書斎で考えた行動を起こすのは、まだ。あたしは残っていた記憶を頼りに催眠状態を演じ、ボーっとした顔と声音を作りました。

「よし、いい子だ。左右に揺れるこいつを、5秒見つめるんだぞ」
「はい……。ソール様……」

 金色の不思議なコインを直視しないようにして前方を眺め、1、2、3、4、5秒が経ちました。過去の記憶によるとこれは下準備のようで、ここから更に深い催眠を――あたしにさせたい行動を、刷り込むようです。

「それじゃあ、本題に入るとするか。ミーナ、よーく聞け」
「…………はい、ソール様。なんでございましょう?」
「お前は今日から婚約破棄を今まで以上に嘆いて悔やむようになり、その感情は日に日に大きくなる。そうして一か月後。お前はその念に耐え切れなくなって、服毒自殺をする」
「あたしは今日から婚約破棄を今まで以上に嘆いて悔やむようになり、その感情は日に日に大きくなる。そうして一か月後。あたしはその念に耐え切れなくなって、服毒自殺をする」

 これまでの例に則り、ぼんやりと反芻します。
 お父様達はあたしを一か月かけてジワジワと追い込み、不自然ではない形で自殺させようとしている……。あの時偶然催眠術が解けていなければ、酷い最期にされるところでした……。

(無理やり婚約させたあとで無理やり破棄をさせるようにして、無理やり殺す)

 ここまで滅茶苦茶なら、推測なんてできない。関係者に、聞くしかありません。
 なのであたしは、

「しっかりと、かかったようだな。これで、俺の仕事は終わりで――」
「終わり、ではありませんよ。貴方には色々と教えていただきます」

 大事にしている紐付きのコインを奪い取り、懐に隠し持っていた果物ナイフを突きつけたのでした。
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