ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
17 / 120
学院編

07 売られた喧嘩は買います

しおりを挟む
 カズオミは武術の授業に向かう道中、アサヒにクラス合同授業について教えてくれた。

「僕らは二等級ラーナの人達の技の練習台なんだ。教えるとか練習とかないよ。転ばされるだけ」

 身分の差から三等級は上級クラスの貴族を本気で殴って怪我をさせる訳にはいかず、基本的に魔術や武術も二等級の方が強いので、一方的な展開になるのだそうだ。
 午後、武器を持ってくるように言われて、アサヒはセイランにもらった細身の剣を手に問題の授業に参加した。

「二等級の私達が相手をしてやってるのだ。光栄に思え!」

 カズオミの言う通り、二等級の生徒達は偉そうで三等級の生徒はおどおどしており、勝負にならない。
 実際、技術にも差がある。
 セイランに剣を習ったアサヒにしても、一年程度の剣術で数年以上剣術をやってきた貴族に勝つのは無理だ。
 早々にあきらめて受け身を取ることにした。

「ん?」

 適当に相手の生徒の攻撃を避けて、痛くなさそうな攻撃はわざと食らってその場をしのいでいたアサヒは、同室の友人はどうしているのかと見回して顔をしかめた。

「止めてくれ! 降参だって言ってるのにっ」
「まだ大丈夫だろう、ほら!」

 カズオミは槍を持った二等級の生徒に小突き回されている。
 相手の二等級は明らかに遊び半分で、降参だというカズオミをなぶっていた。周囲の生徒や教師は見てみぬふりをしている。

「分不相応な剣を持ってるな……金だけはあるのか、この売国奴め!」
「あ!」

 戦えない、と言った本人の弁通り、カズオミは剣を持っていたがアサヒから見ても全然かたちになっていなかった。
 二等級の生徒の槍にはねあげられて剣が空に舞う。
 武器を取り落としたカズオミを二等級の生徒はせせら笑った。

「僕は売国奴なんかじゃ」
「商人は国を売る連中だ。他の国と取引して金さえもらえれば何でもする汚い奴らだ! ピクシスが負けたのもお前らのせいだ!」

 アサヒからすれば言いがかりも良いところの理屈だが、周囲の生徒達はおおむね同意見らしい。
 二等級の生徒の槍が尻餅を付いているカズオミをしつように狙う。地面を這って逃げようとする彼を、二等級の生徒達は嘲笑した。
 ……やりすぎだろ。

「仕方ないな」
「えっ?」

 アサヒは力強く踏み込むと、今相手をしている二等級の生徒の剣を叩き落とす。技術は向こうが上なのだが、隙を突けば何とでもなる。
 邪魔な目の前の相手を片付けると、無詠唱の金色の炎を3つ呼び出し、その内の1つをカズオミをなぶっている生徒の槍を持つ手に叩きつけた。

「なんだと?!」
「おい、あいつ今、詠唱なしで……」

 周囲の生徒達がざわめく。
 槍を持った二等級の生徒は、炎が当たった手を抑えながら振り返った。何かの魔術で防御したらしく、その手に火傷など傷を負った様子はない。

「貴様……!」
「すいません、そいつとは友人なので。見ていられなくて」

 アサヒに友人と言われたカズオミは、目を丸くしている。
 二等級の生徒はアサヒを見て狂暴な笑みを浮かべた。

「友人か……なら、こいつの代わりをしろ」
「ぶっ」

 アサヒはその二等級の生徒の顔を見て吹き出した。
 その生徒はピクシス人に多い赤毛に茶色い目の青年だったが、明るい赤毛の眉は重力に反して上に向かってくるりと逆巻いていた。

「くるりん眉毛……」
「黙れ貴様! 叩き潰してやる!」
「あわわわ」

 くるりん眉毛は激昂し、カズオミは慌てる。
 その手の中の槍に炎が宿った。どうやら彼も無詠唱で炎が使えるらしい。
 怒りのまま飛び込んでくるくるりん眉毛を、アサヒは冷静に迎え撃った。

 アサヒが今、同時に放てる炎の弾は3つまで。炎の球は分裂させるほど威力が下がる。しかも3つの内の1つは先ほど使ってしまった。

 可能であれば以前トウマとの戦いでしたように、炎の1つを相手の背後に回り込ませたい。しかし今回は、相手の踏み込みが予想外に速くて間に合いそうになかった。
 で、あれば。

 残る2つの炎を槍の横に叩きつけ、槍の軌道をわずかにずらす。
 狙いの中心から逸れた槍の刃に、剣を合わせた。
 激しい火花が散る。
 二人の武器は拮抗した。
 金色の炎で勢いを削がれた敵の槍と、渾身の力を込めたアサヒの剣はちょうど互角の力を持っていた。

「……三等級テラ風情が調子に乗るなっ!」

 くるりん眉毛の一喝いっかつと共に槍の炎が勢いを増す。
 受けきれないと判断したアサヒは、剣が押される勢いを利用して斜め後ろへ飛ぶ。
 身体に触れるか触れないかのところを、槍の切っ先が通り過ぎた。

「ちっ、ちょこまかと……!」
「何をやっている」

 勢いで、授業の枠を越えた戦いに突入していた二人を制止する声。
 その場にいる者達は冷たい水を浴びせられたように感じる。
 威厳に満ちた声の主は、修練場を通りかかったヒズミ・コノエだった。


しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

処理中です...