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学院編
06 学院初日(2017/12/6 新規追加)
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翌朝、アサヒはカズオミと一緒に学校に登校した。
校舎に入ると目につくのは二等級(ラーナ)以上の生徒ばかりだ。三等級の生徒は、上級の生徒の顔色をうかがうように脇にのいて壁際に寄っている。
竜騎士の生徒は小型化した竜を肩に乗せているので、すぐに分かる。ちなみにアサヒの相棒は気分で服の下に隠れたりするので、肩の上に乗っていない。
廊下では竜騎士を中心とした生徒が集まって雑談をしていた。
生徒達の真ん中にいるのは、深紅の髪に金の瞳の、鋭さと気品を持った男だった。見覚えがある。アケボノに来た最初の夜、ユエリと戦っていたヒズミという男だ。
やはり学院の竜騎士だったのか。
ヒズミの制服の襟元には太陽のバッジがある。
立ち止まって遠くから眺めるアサヒに、カズオミが声をひそめて耳打ちする。
「……彼はヒズミ・コノエ。コノエは公爵家で女王の縁戚にあたる。身分も凄いけど……彼は炎竜王じゃないか、って言われてるんだ」
「炎竜王……あいつが?」
竜騎士の生徒達の中で、ヒズミは頭ひとつ飛び抜けている雰囲気があった。それは、王者の余裕と威厳のようなものだった。
雑談をしているヒズミがちらりとアサヒを見た気がしたが、アサヒは気のせいだと思った。
取り巻きから離れて廊下を歩いていたヒズミは、一等級のバッジのついた制服を着た蜂蜜色の髪の少女を見つけて、顔をしかめた。
ユエリ・フウ。
水の島アントリアからの留学生と偽っているがその実、アウリガから潜り込んできた間者である。
「疾く去れ、と言ったはずだが……」
声をかけると彼女は勝気な視線でヒズミを見返した。
アサヒと会ったあの夜、ヒズミは彼女に温情を掛けてやるから即島から去れと警告したのだ。
「そんなすぐに出航できる飛行船は無いわ。私は覚悟の上でここにいるのよ」
空に浮かぶ島を自由に出入りできるのは竜騎士だけ。
島と島の間には激しい気流が流れていて、普段は一般の飛行船が行き来できない。一年に二回、風が穏やかになる凪(なぎ)の時期に他島との交流が活発になり、学院は新入生を受け入れる。
今は凪の時期ではあるが、飛行船が出入りするのは一週間に一回程度で、準備の都合や天気によって予定が遅れることもある。今日明日、島を出ていくということは不可能だ。
挑むように見てくる彼女の視線を受け止めて、ヒズミは黄金の瞳を細める。
「なら、次の定期便で島を出ていくがいい」
「見逃してくれる訳?」
「次はない」
冷酷そうな厳しい表情を崩さない男の顔を眺めて、ユエリは不思議に思った。
自分が見逃される理由が分からない。
なぜだろうと思い返してみて、ヒズミが態度を変えたのはアサヒの介入の直後からだと気付く。
「あのアサヒという生徒に血を見せたくないのかしら。炎竜王らしい情の深さね」
「……私の気が変わらないうちに、と言ったはずだ」
勘が良いユエリの言葉に、ヒズミは眉を寄せて警告する。
「分かったわ」
アウリガの少女は頷くと背を向ける。
姿勢の良い彼女が角を曲がって消えたのを確認して、ヒズミも歩き出した。
学院に入学したばかりのアサヒは、同じ時期に入学した三等級の数人と一緒に自習させられていた。教師は本を渡して読めと言って去っていく。
教室にいる生徒の半数は、同じように課題を渡されて自習しているようだ。
最近、読み書きを習得したアサヒにとって、本はやや難解な内容だった。どうやら魔術の基礎について書かれているらしい。本とにらめっこしながら、図書室はあるのかなと思う。
ひたすら机にしがみついて文字と戦うより、図書室に行って自分で本を選んで自由に勉強する方が有益に思える。
他の生徒も本とのにらみ合いにげんなりしているようだ。
あちこちでため息が聞こえる。
集中力が切れてきて座り直すと、たまに背中からヤモリがずれ落ちてくる。腕の上や肩を行ったり来たりする相棒を手慰みにつかまえて撫でたりしつつ、アサヒはひたすら文字を目で追った。
本と向き合うこと数時間。
午前の終わりを示す鐘が鳴る。
アサヒはカズオミと一緒に教室を出た。
「ああ……午後の授業は武術か。憂鬱だなあ」
「武術? 身体動かせるのか」
運動をしたかったアサヒは喜ぶ。
だがカズオミの方は浮かない顔だ。
「今日の武術の授業は二等級と合同なんだ」
「? 何か問題があるのか」
「授業を受けてみれば分かるよ……」
憂鬱そうなカズオミに、アサヒは頭の上に疑問符を浮かべた。
校舎に入ると目につくのは二等級(ラーナ)以上の生徒ばかりだ。三等級の生徒は、上級の生徒の顔色をうかがうように脇にのいて壁際に寄っている。
竜騎士の生徒は小型化した竜を肩に乗せているので、すぐに分かる。ちなみにアサヒの相棒は気分で服の下に隠れたりするので、肩の上に乗っていない。
廊下では竜騎士を中心とした生徒が集まって雑談をしていた。
生徒達の真ん中にいるのは、深紅の髪に金の瞳の、鋭さと気品を持った男だった。見覚えがある。アケボノに来た最初の夜、ユエリと戦っていたヒズミという男だ。
やはり学院の竜騎士だったのか。
ヒズミの制服の襟元には太陽のバッジがある。
立ち止まって遠くから眺めるアサヒに、カズオミが声をひそめて耳打ちする。
「……彼はヒズミ・コノエ。コノエは公爵家で女王の縁戚にあたる。身分も凄いけど……彼は炎竜王じゃないか、って言われてるんだ」
「炎竜王……あいつが?」
竜騎士の生徒達の中で、ヒズミは頭ひとつ飛び抜けている雰囲気があった。それは、王者の余裕と威厳のようなものだった。
雑談をしているヒズミがちらりとアサヒを見た気がしたが、アサヒは気のせいだと思った。
取り巻きから離れて廊下を歩いていたヒズミは、一等級のバッジのついた制服を着た蜂蜜色の髪の少女を見つけて、顔をしかめた。
ユエリ・フウ。
水の島アントリアからの留学生と偽っているがその実、アウリガから潜り込んできた間者である。
「疾く去れ、と言ったはずだが……」
声をかけると彼女は勝気な視線でヒズミを見返した。
アサヒと会ったあの夜、ヒズミは彼女に温情を掛けてやるから即島から去れと警告したのだ。
「そんなすぐに出航できる飛行船は無いわ。私は覚悟の上でここにいるのよ」
空に浮かぶ島を自由に出入りできるのは竜騎士だけ。
島と島の間には激しい気流が流れていて、普段は一般の飛行船が行き来できない。一年に二回、風が穏やかになる凪(なぎ)の時期に他島との交流が活発になり、学院は新入生を受け入れる。
今は凪の時期ではあるが、飛行船が出入りするのは一週間に一回程度で、準備の都合や天気によって予定が遅れることもある。今日明日、島を出ていくということは不可能だ。
挑むように見てくる彼女の視線を受け止めて、ヒズミは黄金の瞳を細める。
「なら、次の定期便で島を出ていくがいい」
「見逃してくれる訳?」
「次はない」
冷酷そうな厳しい表情を崩さない男の顔を眺めて、ユエリは不思議に思った。
自分が見逃される理由が分からない。
なぜだろうと思い返してみて、ヒズミが態度を変えたのはアサヒの介入の直後からだと気付く。
「あのアサヒという生徒に血を見せたくないのかしら。炎竜王らしい情の深さね」
「……私の気が変わらないうちに、と言ったはずだ」
勘が良いユエリの言葉に、ヒズミは眉を寄せて警告する。
「分かったわ」
アウリガの少女は頷くと背を向ける。
姿勢の良い彼女が角を曲がって消えたのを確認して、ヒズミも歩き出した。
学院に入学したばかりのアサヒは、同じ時期に入学した三等級の数人と一緒に自習させられていた。教師は本を渡して読めと言って去っていく。
教室にいる生徒の半数は、同じように課題を渡されて自習しているようだ。
最近、読み書きを習得したアサヒにとって、本はやや難解な内容だった。どうやら魔術の基礎について書かれているらしい。本とにらめっこしながら、図書室はあるのかなと思う。
ひたすら机にしがみついて文字と戦うより、図書室に行って自分で本を選んで自由に勉強する方が有益に思える。
他の生徒も本とのにらみ合いにげんなりしているようだ。
あちこちでため息が聞こえる。
集中力が切れてきて座り直すと、たまに背中からヤモリがずれ落ちてくる。腕の上や肩を行ったり来たりする相棒を手慰みにつかまえて撫でたりしつつ、アサヒはひたすら文字を目で追った。
本と向き合うこと数時間。
午前の終わりを示す鐘が鳴る。
アサヒはカズオミと一緒に教室を出た。
「ああ……午後の授業は武術か。憂鬱だなあ」
「武術? 身体動かせるのか」
運動をしたかったアサヒは喜ぶ。
だがカズオミの方は浮かない顔だ。
「今日の武術の授業は二等級と合同なんだ」
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憂鬱そうなカズオミに、アサヒは頭の上に疑問符を浮かべた。
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