ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
15 / 120
学院編

05 戦わずに済むのなら

しおりを挟む
 眼鏡の青年は、カズオミ・クガと名乗った。

「苗字があるってことは、貴族か?」
「僕の家は商家だよ。金で爵位を買ったんだ。平民と変わらないよ」

 カズオミは気が弱いようで、持ってきた食べ物をアサヒに奪われても怒らなかった。あまり清潔とは言えない布に包まれたそれは、肉と野菜を挟みこんだサンドイッチだった。ちょうど二個あるサンドイッチの一個をもらう。

「俺、今日ここに入学したばっかりなんだよ。学生は食事をどうするんだ?」

 サンドイッチはまだ温かくて美味だった。
 綺麗に片付いて別ものになってしまった自室に違和感を感じているのか、猫背を丸めて縮こまっているカズオミを質問攻めにする。

「食堂があるけど……君も三等級テラ?」
「ああ」
「じゃあ肩身が狭いね。食堂は二等級ラーナ以上の人達が、暗黙の了解で席を確保してるんだ。僕は彼らがいない内に食べるか、混んでる時は裏手に回って、食堂のおばさんに頼んでサンドイッチをもらう」

 なるほど。
 食堂で食べられないから持って帰って来ている訳だ。そのおかげでアサヒは食事にありつけたのだが。
 ペロリとサンドイッチを平らげたアサヒは、眼鏡の青年の隣に這っている濃い緑の蜥蜴とかげを眺める。
 虫の羽のような透明な流線型の羽が付いている以外は、イグアナのような姿の蜥蜴だった。胴体から尻尾まで太く長く、足が短い。大きさは腕の長さくらいで少し重そうだった。

「そいつ、お前の竜?」

 イグアナを指してたずねるとカズオミは頷く。

「ゲルドっていうんだ。君の竜は? 姿が見えないけど」

 アサヒのヤモリは普段、服の中に潜り込んでいて姿が見えない。
 体重が軽く肌の上にいる感覚があまり無いので、どこにいるのか時々分からなくなってしまうアサヒだった。
 どこだっけ。
 服の上から探そうとすると、気配を察したらしく腕の方へ這い出してくる。手の甲の上に出てきたヤモリは、登山をしたみたいに満足そうだった。

「あー、こいつ、ヤモリ」
「ヤモリっていうんだ、可愛いねえ。変わった姿の竜だけど、翼が無いの?」
「いや、変身したらある」
「へーえ」

 面倒くさがりのアサヒはヤモリをヤモリだとカズオミに紹介してしまった。どうやらこの先も当分ヤモリに名前が付くことは無さそうだ。
 竜を見せあうと雰囲気が和む。
 不意にやってきた同室者が自分と同じクラスの竜騎士と分かって、カズオミは安心したようだ。
 アサヒは会話をしながら、同室者の顔に掛かった眼鏡が気になった。

「お前が顔に付けてるのって、眼鏡だろ。丸いやつじゃなくて、楕円形のかたちの奴は初めて見た」

 眼鏡は高級品だ。
 アサヒは孤児になってから身の回りの大人が眼鏡をしているのを見たことが無い。また、遠くから金持ちや身分のある人がしている眼鏡を見たことがあるが、地球のものと違って分厚いまんまるいレンズを金具でとめたものが主流だった。どうやら技術がそこまで進んでいないらしい。
 しかし、カズオミがしている眼鏡は薄く軽そうな、地球でよく目にしたものと似ていた。

「これは僕が作ったんだよ」
「え?! 作ったのか? 凄い!」

 アサヒは興奮した。
 自分が作れと言われても、どうやって作るのか想像もできない品物を、このカズオミは自作したというのだ。
 尊敬の視線で見られたカズオミは困惑した様子になった。

「軽蔑しないのかい」
「は? なんで」
「竜騎士なのに、戦えない、戦闘には関係ない道具ばっかり作ってる僕を」

 おどおどしているカズオミは自分に自信が無いようだ。
 アサヒはゴミの山だった部屋を片付けた時に見つけた、何に使うのか分からない道具を思い出す。あれはカズオミの道具だったのだろう。ちなみに道具類は捨てずに部屋の隅に積み上げておいた。
 カズオミを傷付けないように、アサヒは慎重に答えた。

「いや……むしろ戦うしか能が無いよりずっと良いだろ。俺、戦う以外のことも知って、竜騎士以外の仕事も探したいんだ」
「ええ? アサヒ、普通の子供は竜騎士に憧れるものだよ」

 カズオミはきょとんとする。
 竜騎士と言えば栄誉のある職業だが、アサヒの中にはまだ、あの炎の中で逃げ出した時の記憶がある。セイランと出会った一件で前向きに考えられるようになったものの、完全に吹っ切れた訳ではなかった。
 また、平和な地球の記憶もある。

「戦わずに済むなら、それが一番いいんじゃないか」

 そう言ったアサヒに、カズオミは不思議そうな顔をする。
 戦乱が間近にあるこの世界においてアサヒの考え方は少し異質なものだった。


しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

処理中です...