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学院編
05 戦わずに済むのなら
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眼鏡の青年は、カズオミ・クガと名乗った。
「苗字があるってことは、貴族か?」
「僕の家は商家だよ。金で爵位を買ったんだ。平民と変わらないよ」
カズオミは気が弱いようで、持ってきた食べ物をアサヒに奪われても怒らなかった。あまり清潔とは言えない布に包まれたそれは、肉と野菜を挟みこんだサンドイッチだった。ちょうど二個あるサンドイッチの一個をもらう。
「俺、今日ここに入学したばっかりなんだよ。学生は食事をどうするんだ?」
サンドイッチはまだ温かくて美味だった。
綺麗に片付いて別ものになってしまった自室に違和感を感じているのか、猫背を丸めて縮こまっているカズオミを質問攻めにする。
「食堂があるけど……君も三等級?」
「ああ」
「じゃあ肩身が狭いね。食堂は二等級以上の人達が、暗黙の了解で席を確保してるんだ。僕は彼らがいない内に食べるか、混んでる時は裏手に回って、食堂のおばさんに頼んでサンドイッチをもらう」
なるほど。
食堂で食べられないから持って帰って来ている訳だ。そのおかげでアサヒは食事にありつけたのだが。
ペロリとサンドイッチを平らげたアサヒは、眼鏡の青年の隣に這っている濃い緑の蜥蜴を眺める。
虫の羽のような透明な流線型の羽が付いている以外は、イグアナのような姿の蜥蜴だった。胴体から尻尾まで太く長く、足が短い。大きさは腕の長さくらいで少し重そうだった。
「そいつ、お前の竜?」
イグアナを指してたずねるとカズオミは頷く。
「ゲルドっていうんだ。君の竜は? 姿が見えないけど」
アサヒのヤモリは普段、服の中に潜り込んでいて姿が見えない。
体重が軽く肌の上にいる感覚があまり無いので、どこにいるのか時々分からなくなってしまうアサヒだった。
どこだっけ。
服の上から探そうとすると、気配を察したらしく腕の方へ這い出してくる。手の甲の上に出てきたヤモリは、登山をしたみたいに満足そうだった。
「あー、こいつ、ヤモリ」
「ヤモリっていうんだ、可愛いねえ。変わった姿の竜だけど、翼が無いの?」
「いや、変身したらある」
「へーえ」
面倒くさがりのアサヒはヤモリをヤモリだとカズオミに紹介してしまった。どうやらこの先も当分ヤモリに名前が付くことは無さそうだ。
竜を見せあうと雰囲気が和む。
不意にやってきた同室者が自分と同じクラスの竜騎士と分かって、カズオミは安心したようだ。
アサヒは会話をしながら、同室者の顔に掛かった眼鏡が気になった。
「お前が顔に付けてるのって、眼鏡だろ。丸いやつじゃなくて、楕円形のかたちの奴は初めて見た」
眼鏡は高級品だ。
アサヒは孤児になってから身の回りの大人が眼鏡をしているのを見たことが無い。また、遠くから金持ちや身分のある人がしている眼鏡を見たことがあるが、地球のものと違って分厚いまんまるいレンズを金具でとめたものが主流だった。どうやら技術がそこまで進んでいないらしい。
しかし、カズオミがしている眼鏡は薄く軽そうな、地球でよく目にしたものと似ていた。
「これは僕が作ったんだよ」
「え?! 作ったのか? 凄い!」
アサヒは興奮した。
自分が作れと言われても、どうやって作るのか想像もできない品物を、このカズオミは自作したというのだ。
尊敬の視線で見られたカズオミは困惑した様子になった。
「軽蔑しないのかい」
「は? なんで」
「竜騎士なのに、戦えない、戦闘には関係ない道具ばっかり作ってる僕を」
おどおどしているカズオミは自分に自信が無いようだ。
アサヒはゴミの山だった部屋を片付けた時に見つけた、何に使うのか分からない道具を思い出す。あれはカズオミの道具だったのだろう。ちなみに道具類は捨てずに部屋の隅に積み上げておいた。
カズオミを傷付けないように、アサヒは慎重に答えた。
「いや……むしろ戦うしか能が無いよりずっと良いだろ。俺、戦う以外のことも知って、竜騎士以外の仕事も探したいんだ」
「ええ? アサヒ、普通の子供は竜騎士に憧れるものだよ」
カズオミはきょとんとする。
竜騎士と言えば栄誉のある職業だが、アサヒの中にはまだ、あの炎の中で逃げ出した時の記憶がある。セイランと出会った一件で前向きに考えられるようになったものの、完全に吹っ切れた訳ではなかった。
また、平和な地球の記憶もある。
「戦わずに済むなら、それが一番いいんじゃないか」
そう言ったアサヒに、カズオミは不思議そうな顔をする。
戦乱が間近にあるこの世界においてアサヒの考え方は少し異質なものだった。
「苗字があるってことは、貴族か?」
「僕の家は商家だよ。金で爵位を買ったんだ。平民と変わらないよ」
カズオミは気が弱いようで、持ってきた食べ物をアサヒに奪われても怒らなかった。あまり清潔とは言えない布に包まれたそれは、肉と野菜を挟みこんだサンドイッチだった。ちょうど二個あるサンドイッチの一個をもらう。
「俺、今日ここに入学したばっかりなんだよ。学生は食事をどうするんだ?」
サンドイッチはまだ温かくて美味だった。
綺麗に片付いて別ものになってしまった自室に違和感を感じているのか、猫背を丸めて縮こまっているカズオミを質問攻めにする。
「食堂があるけど……君も三等級?」
「ああ」
「じゃあ肩身が狭いね。食堂は二等級以上の人達が、暗黙の了解で席を確保してるんだ。僕は彼らがいない内に食べるか、混んでる時は裏手に回って、食堂のおばさんに頼んでサンドイッチをもらう」
なるほど。
食堂で食べられないから持って帰って来ている訳だ。そのおかげでアサヒは食事にありつけたのだが。
ペロリとサンドイッチを平らげたアサヒは、眼鏡の青年の隣に這っている濃い緑の蜥蜴を眺める。
虫の羽のような透明な流線型の羽が付いている以外は、イグアナのような姿の蜥蜴だった。胴体から尻尾まで太く長く、足が短い。大きさは腕の長さくらいで少し重そうだった。
「そいつ、お前の竜?」
イグアナを指してたずねるとカズオミは頷く。
「ゲルドっていうんだ。君の竜は? 姿が見えないけど」
アサヒのヤモリは普段、服の中に潜り込んでいて姿が見えない。
体重が軽く肌の上にいる感覚があまり無いので、どこにいるのか時々分からなくなってしまうアサヒだった。
どこだっけ。
服の上から探そうとすると、気配を察したらしく腕の方へ這い出してくる。手の甲の上に出てきたヤモリは、登山をしたみたいに満足そうだった。
「あー、こいつ、ヤモリ」
「ヤモリっていうんだ、可愛いねえ。変わった姿の竜だけど、翼が無いの?」
「いや、変身したらある」
「へーえ」
面倒くさがりのアサヒはヤモリをヤモリだとカズオミに紹介してしまった。どうやらこの先も当分ヤモリに名前が付くことは無さそうだ。
竜を見せあうと雰囲気が和む。
不意にやってきた同室者が自分と同じクラスの竜騎士と分かって、カズオミは安心したようだ。
アサヒは会話をしながら、同室者の顔に掛かった眼鏡が気になった。
「お前が顔に付けてるのって、眼鏡だろ。丸いやつじゃなくて、楕円形のかたちの奴は初めて見た」
眼鏡は高級品だ。
アサヒは孤児になってから身の回りの大人が眼鏡をしているのを見たことが無い。また、遠くから金持ちや身分のある人がしている眼鏡を見たことがあるが、地球のものと違って分厚いまんまるいレンズを金具でとめたものが主流だった。どうやら技術がそこまで進んでいないらしい。
しかし、カズオミがしている眼鏡は薄く軽そうな、地球でよく目にしたものと似ていた。
「これは僕が作ったんだよ」
「え?! 作ったのか? 凄い!」
アサヒは興奮した。
自分が作れと言われても、どうやって作るのか想像もできない品物を、このカズオミは自作したというのだ。
尊敬の視線で見られたカズオミは困惑した様子になった。
「軽蔑しないのかい」
「は? なんで」
「竜騎士なのに、戦えない、戦闘には関係ない道具ばっかり作ってる僕を」
おどおどしているカズオミは自分に自信が無いようだ。
アサヒはゴミの山だった部屋を片付けた時に見つけた、何に使うのか分からない道具を思い出す。あれはカズオミの道具だったのだろう。ちなみに道具類は捨てずに部屋の隅に積み上げておいた。
カズオミを傷付けないように、アサヒは慎重に答えた。
「いや……むしろ戦うしか能が無いよりずっと良いだろ。俺、戦う以外のことも知って、竜騎士以外の仕事も探したいんだ」
「ええ? アサヒ、普通の子供は竜騎士に憧れるものだよ」
カズオミはきょとんとする。
竜騎士と言えば栄誉のある職業だが、アサヒの中にはまだ、あの炎の中で逃げ出した時の記憶がある。セイランと出会った一件で前向きに考えられるようになったものの、完全に吹っ切れた訳ではなかった。
また、平和な地球の記憶もある。
「戦わずに済むなら、それが一番いいんじゃないか」
そう言ったアサヒに、カズオミは不思議そうな顔をする。
戦乱が間近にあるこの世界においてアサヒの考え方は少し異質なものだった。
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