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学院編
10 決闘 vs. ハルト
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決闘までの間、アサヒがしたことは手に入れた白水晶の剣を振ることだけだった。数日頑張ったところで、いきなり剣術が上達する訳がないが、せめて武器に慣れておくことにしたのだ。
そして決闘当日。
「……覚悟はできたか、三等級! 無礼な貴様を今日この場で学院から叩き出してやる!」
「くるりん眉毛、湿度が低いと眉毛が伸びて微妙……」
「おのれっ、この期に及んでまだそんな口をきくかっ」
晴れが決闘日和だとすれば、今日は絶好の決闘日和だった。
午後、教師の許可のもと、学院の修練場で向かい合うアサヒとくるりん眉毛ことハルト。
ちなみに肩の上に乗せると戦いの邪魔になるので、ハルトの相棒の竜は別な場所で観戦している。アサヒの方の相棒ヤモリはどこにいるか分からないくらいの存在感の無さなので、そのままだ(たぶん背中に貼りついている)。
決闘の見物には三等級と二等級だけでなく、一等級の生徒がいる。それというのも決闘を命じた当人である、一等級のヒズミ・コノエが観戦しているからだ。
決闘前に口でやりあっていたアサヒとハルトだったが、ヒズミが厳かな声を出したので黙る。
「両者とも、準備はできたか」
本来は教師が監督するべきなのだが、教師達はヒズミの威厳に圧されてすっかり場外で見物客になってしまっている。
「己の正しさを武でもって証明せよ……はじめ」
開始の合図と共に、アサヒは鞘から剣を抜く。
中心が透明な白い剣が姿を現した。
「ん? なんだその剣は……」
通常の鉄製の武器とは違う雰囲気に、対戦相手のハルトも槍を準備しながら怪訝そうにする。
アサヒは答えず、二本の指を剣身に走らせた。
無詠唱で金色の炎を喚ぶ。
手元で燃え上がった金色の炎は、指先に沿って剣身に入り込んだ。白水晶の剣の中に炎が宿る。剣は中心から朱金に染まった。
これがアサヒが密かに試したいと思っていたこと。
最初は他の竜騎士のように武器に炎を付与しようとしたが、途中で剣の中心が空洞のように見える白水晶の剣には、炎を中に入れることができるのではないかと思い付いた。
朱金の炎を宿した剣の姿に、観客からため息がもれる。
「……ほう。剣にまとわせるのではなく、剣の中に炎を込めるとは」
「単なる剣の強化ではないのですか、ヒズミ様」
ヒズミの感嘆の声に、取り巻きが聞く。
用意された椅子に腰かけて王者然とくつろぎながら、ヒズミは取り巻きに答える。
「武器の強化は二種類ある。武器の外側を魔術で強化する方法と、武器の内側に魔術を込める方法。一般的なのは前者だ。しかし、武器の中に魔術を込めるためには武器自体が器として機能すること、中に入れるために魔術を調整することが必要だ」
彼は淡々と言って、頬に笑みを浮かべる。
「武器の内側に魔術を込める場合の魔力消費は、条件次第で少なくて済む。三等級の少ない魔力量で戦うには良い工夫だろう」
解説を聞いた生徒は分かったような分からないような顔になった。
対戦中の二人は当然、ヒズミの解説は聞こえていない。
「こけおどしを! すぐにその剣、叩き壊してくれる!」
ハルトは叫んで、槍を鋭く前方のアサヒに向かって突き出す。
一撃目はかわしたアサヒだが、二撃目は避けられず、剣で槍を払おうとした。
炎を込めた白水晶の剣は軽い。水晶は重いものだが、魔術が想定外の効果を生み、アサヒにとってちょうどいい重さに変化していた。
槍と剣が激突する。
「え?」
ちょっと固いものを斬った感覚が伝わって、剣は呆気なく振り抜かれる。ついで、槍の刃の切っ先が宙を飛んだ。
白水晶の剣が槍の先を斬り飛ばしたのだ。
「ま、マジで?!」
斬り飛ばした当人のアサヒは混乱した。
この剣は数日前にもらったばかりで実戦に使うのは初めてだ。練習で木の枝くらいは試し斬りしたが、相手の武器を斬るほどの切れ味になるなど思ってもみなかった。
「な……」
初っぱなから武器を壊されたハルトも呆然とする。
彼は信じられないものを見るように手元の槍を見て少し沈黙すると、次の瞬間、怒りに顔を染めて壊れた槍を投げ捨てた。
「貴様……よほどこの俺の本気を見たいようだな!」
これから本気だと宣言するハルト。
いや、勿体ぶらないで最初から本気出せよ、とアサヒは思った。
「外なる大気、内なる魔力、無敵の刃となり堅固なる盾となれ! 炎装充填!」
詠唱と共に、ハルトの周囲に陽炎のように炎が渦を巻いて立ち上がる。
炎の線が複雑な模様を描き、ハルトの胴体を中心に身体を囲む魔法陣のようなものが浮かび上がる。渦巻いた炎は彼の手に吸い込まれて、槍の形となる。
盾と武器を炎の魔術で作り出したハルト。
圧倒的な魔力が熱気となってアサヒに襲いかかる。
「くっ、なんだよこれ。魔力を派手に消費してやりたい放題だな……」
アサヒは敵の魔術を見て顔をしかめる。
同じことをやれと言われても今のアサヒには無理だ。
得意な無詠唱の金色の炎は、1日に三回程度使うと魔力が底をつく。白水晶の剣に炎を込めるので魔力を消費したので、今日はあと二回だ。
「俺を怒らせたことを後悔するがいい!」
紅の炎で構成された槍を手に向かってくるハルト。
アサヒは白水晶の剣で迎え撃つ。
しかし、形の無い炎の槍はアサヒの剣と噛み合わず、すり抜けた。身体に迫る炎の槍を、アサヒは全力で後方に飛んで逃れようとする。
飛散する火の粉がアサヒの腕を焼いた。
そして決闘当日。
「……覚悟はできたか、三等級! 無礼な貴様を今日この場で学院から叩き出してやる!」
「くるりん眉毛、湿度が低いと眉毛が伸びて微妙……」
「おのれっ、この期に及んでまだそんな口をきくかっ」
晴れが決闘日和だとすれば、今日は絶好の決闘日和だった。
午後、教師の許可のもと、学院の修練場で向かい合うアサヒとくるりん眉毛ことハルト。
ちなみに肩の上に乗せると戦いの邪魔になるので、ハルトの相棒の竜は別な場所で観戦している。アサヒの方の相棒ヤモリはどこにいるか分からないくらいの存在感の無さなので、そのままだ(たぶん背中に貼りついている)。
決闘の見物には三等級と二等級だけでなく、一等級の生徒がいる。それというのも決闘を命じた当人である、一等級のヒズミ・コノエが観戦しているからだ。
決闘前に口でやりあっていたアサヒとハルトだったが、ヒズミが厳かな声を出したので黙る。
「両者とも、準備はできたか」
本来は教師が監督するべきなのだが、教師達はヒズミの威厳に圧されてすっかり場外で見物客になってしまっている。
「己の正しさを武でもって証明せよ……はじめ」
開始の合図と共に、アサヒは鞘から剣を抜く。
中心が透明な白い剣が姿を現した。
「ん? なんだその剣は……」
通常の鉄製の武器とは違う雰囲気に、対戦相手のハルトも槍を準備しながら怪訝そうにする。
アサヒは答えず、二本の指を剣身に走らせた。
無詠唱で金色の炎を喚ぶ。
手元で燃え上がった金色の炎は、指先に沿って剣身に入り込んだ。白水晶の剣の中に炎が宿る。剣は中心から朱金に染まった。
これがアサヒが密かに試したいと思っていたこと。
最初は他の竜騎士のように武器に炎を付与しようとしたが、途中で剣の中心が空洞のように見える白水晶の剣には、炎を中に入れることができるのではないかと思い付いた。
朱金の炎を宿した剣の姿に、観客からため息がもれる。
「……ほう。剣にまとわせるのではなく、剣の中に炎を込めるとは」
「単なる剣の強化ではないのですか、ヒズミ様」
ヒズミの感嘆の声に、取り巻きが聞く。
用意された椅子に腰かけて王者然とくつろぎながら、ヒズミは取り巻きに答える。
「武器の強化は二種類ある。武器の外側を魔術で強化する方法と、武器の内側に魔術を込める方法。一般的なのは前者だ。しかし、武器の中に魔術を込めるためには武器自体が器として機能すること、中に入れるために魔術を調整することが必要だ」
彼は淡々と言って、頬に笑みを浮かべる。
「武器の内側に魔術を込める場合の魔力消費は、条件次第で少なくて済む。三等級の少ない魔力量で戦うには良い工夫だろう」
解説を聞いた生徒は分かったような分からないような顔になった。
対戦中の二人は当然、ヒズミの解説は聞こえていない。
「こけおどしを! すぐにその剣、叩き壊してくれる!」
ハルトは叫んで、槍を鋭く前方のアサヒに向かって突き出す。
一撃目はかわしたアサヒだが、二撃目は避けられず、剣で槍を払おうとした。
炎を込めた白水晶の剣は軽い。水晶は重いものだが、魔術が想定外の効果を生み、アサヒにとってちょうどいい重さに変化していた。
槍と剣が激突する。
「え?」
ちょっと固いものを斬った感覚が伝わって、剣は呆気なく振り抜かれる。ついで、槍の刃の切っ先が宙を飛んだ。
白水晶の剣が槍の先を斬り飛ばしたのだ。
「ま、マジで?!」
斬り飛ばした当人のアサヒは混乱した。
この剣は数日前にもらったばかりで実戦に使うのは初めてだ。練習で木の枝くらいは試し斬りしたが、相手の武器を斬るほどの切れ味になるなど思ってもみなかった。
「な……」
初っぱなから武器を壊されたハルトも呆然とする。
彼は信じられないものを見るように手元の槍を見て少し沈黙すると、次の瞬間、怒りに顔を染めて壊れた槍を投げ捨てた。
「貴様……よほどこの俺の本気を見たいようだな!」
これから本気だと宣言するハルト。
いや、勿体ぶらないで最初から本気出せよ、とアサヒは思った。
「外なる大気、内なる魔力、無敵の刃となり堅固なる盾となれ! 炎装充填!」
詠唱と共に、ハルトの周囲に陽炎のように炎が渦を巻いて立ち上がる。
炎の線が複雑な模様を描き、ハルトの胴体を中心に身体を囲む魔法陣のようなものが浮かび上がる。渦巻いた炎は彼の手に吸い込まれて、槍の形となる。
盾と武器を炎の魔術で作り出したハルト。
圧倒的な魔力が熱気となってアサヒに襲いかかる。
「くっ、なんだよこれ。魔力を派手に消費してやりたい放題だな……」
アサヒは敵の魔術を見て顔をしかめる。
同じことをやれと言われても今のアサヒには無理だ。
得意な無詠唱の金色の炎は、1日に三回程度使うと魔力が底をつく。白水晶の剣に炎を込めるので魔力を消費したので、今日はあと二回だ。
「俺を怒らせたことを後悔するがいい!」
紅の炎で構成された槍を手に向かってくるハルト。
アサヒは白水晶の剣で迎え撃つ。
しかし、形の無い炎の槍はアサヒの剣と噛み合わず、すり抜けた。身体に迫る炎の槍を、アサヒは全力で後方に飛んで逃れようとする。
飛散する火の粉がアサヒの腕を焼いた。
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