ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
68 / 120
ピクシス奪還編

04 土の島リーブラ

しおりを挟む
 土の島リーブラは、サイコロのような四角い立体のかたちをした金属の塊だ。しかも上半分は透き通っていて、太陽の光を浴びる植物の緑が内部にうっすら見える。
 炎竜王の記憶によると、リーブラは島の浮遊角度を竜王の力で適宜調整して、壁面で太陽の光を収集しているらしい。まるで科学技術の結晶のような島だ。
 島は金属の外郭で完全に密閉されているため、出入口が限られる。

「僕の親戚がリーブラにいるんだ。頼んで中に入れてもらおう」
「任せたぞ、カズオミ」

 カズオミが意を決して立ち上がる。
 こちらの接近に気付いてリーブラから竜騎士が二人近付いてきた。

「……そこの竜騎士、どこの島の者でなぜリーブラに来たのか、教えてもらおうか」
「僕はカズオミ・クガ。ピクシスの者です。友達と一緒に親戚に会いに来ました」

 立ち上がったカズオミが返答する。
 ハヤテが最年長だが、アサヒもユエリも同じくらいの年齢なので、友達と連れだって遊びに来たと言えなくもない。

「親戚の名前は?」
「カルセドニーの街の北通りで靴店をしているアベイル・ポアンです」
「確認するから少し待ってくれ」

 リーブラの竜騎士の一人は島に引き返す。もう一人はアサヒたちを念のため見張っているようだ。
 ユエリは眉をひそめると、リーブラの竜騎士に聞かれないくらいの声の大きさで呟く。

「……ピクシスの状況を知らないのかしら」
「一番遠いからな。情報が伝わるのも遅いんじゃないか」

 アサヒはリーブラの様子を伺いながら返答する。
 ヤモリが変身した竜は地味に装っているので、アサヒの正体もばれないだろう。
 しばらく待つと竜騎士が戻ってきた。

「坊主、あらかじめ知らせてなかったのか。ポアンは慌てているようだったぞ」
「すいません、急な用事があって」
「久々に坊主が遊びに来たと聞いて喜んでいた。早く顔を見せてやれ」
「はい!」

 リーブラの竜騎士の態度は好意的だった。
 おそらくアサヒ達が同盟国の竜騎士の子供だからだろう。アサヒはヤモリに出会うのが遅かったから経験が無いが、竜に乗れるようになった子供は、島の間を行き来して知り合いの家に遊びに行くものらしい。
 巨大なリーブラの平らな壁面に圧倒されながら、アサヒ達は島の上部分にある専用出入口から、中に入れてもらった。
 竜から降りて徒歩で移動を開始する。
 
 リーブラは地上が温室のようになっていて、計画的に食料の生産を行っている。人の住む街は地下部分にあった。
 地下に降りてカズオミの親戚がいるというカルセドニーの街へ向かう。
 街は人工の明かりに照らされている。
 天井は高くて暗い。空が見えないというのは落ち着かないな、とアサヒは思った。

「叔父さん!」
「おお、よく来たカズオミ。いきなりでびっくりしたぞ。そちらは竜騎士の友達か」

 小太りした男が笑顔でカズオミを出迎えた。
 彼が親戚のポアンさんらしい。

「うん、そうだよ。しばらく皆をうちに泊めて欲しいんだ」
「大人数だな! 客間の許容人数ギリギリだ。お嬢さんは一人部屋として、男子は相部屋で構わないかな」
「お気遣いなく」

 もとより雑魚寝でも構わないアサヒはしれっと返答する。
 こうしてアサヒ達はカズオミの親戚の家に厄介になることになった。




 夜、ポアンさんが用意してくれた部屋に集まって、アサヒ達は作戦会議をすることにした。4人が入ると部屋は若干手狭だ。

「叔父さんにピクシスの状況を伝えなくて良いかな……?」
「まずは土竜王に会ってからだ。下手に伝えると噂になって、ピクシスに悪い印象を持たれるかもしれない」
「アサヒの言う通りだぜ。ポアンさんを心配させない方が良い」

 カズオミの心配に、アサヒとハヤテは首を振る。
 
「でも、肝心の土竜王はどこにいるのかな」
「今から探しに行くつもりだ。ハヤテ、一緒に来てくれ」
「ああ。っていうか、お前いつの間にか先輩を呼び捨てにしやがって」
「ははは、気にしない気にしない」

 アサヒは席を立った。ハヤテも立ち上がる。

「……私は夕食の片付けを手伝ってくるわ。ポアンさんの奥さんからリーブラの状況を聞いてくる」

 ユエリは女性であることを活かした情報収集をするつもりらしい。

「あれ? 僕は……?」

 最後に残ったカズオミが自分を指差した。
 
「カズオミはポアンさん経由でリーブラの竜騎士の隊長クラスと連絡が取れないか、試してみてくれ」
「う、うん」

 なんだか一人だけ戦力外通告を受けた気がして、カズオミはがっかりした。ユエリはさっさと台所に行ってしまう。
 アサヒとハヤテは颯爽と街へ出て行った。
 見知らぬ島の夜の街に出るのに気負う様子も見受けられない。
 カズオミからしてみると、アサヒの度胸は竜王だと分かる前から並外れていたし、ハヤテは一等級(ソレル)で格が違う。このメンバーの中では自分が一番下だ。

「ああ、僕って何の役にも立たない……」
「どうしたんだカズオミ、つぶれた雲虫みたいな顔をして」
「叔父さん」

 落ち込んでいると、ポアンがやってきた。
 カズオミは身内同然の叔父に気がゆるんで、思わず胸の内を口にする。

「僕は竜騎士なのに戦うことが苦手で、同じ竜騎士の皆に付いていけないんです」
「……」

 ポアンは竜騎士ではない。
 甥っ子の悩みを打ち明けられて彼は唸った。

「うーん……そうだな。とりあえず悩んだ時は手を動かすに限る。作業したら気が紛れるし、良い考えも思い付くさ。そういう訳で靴を作るのを手伝ってくれ」
「はい……」

 肩を落としたカズオミは、叔父に勧められるまま、なめし革を取って靴の型の切り抜きや裁縫を手伝い始めた。
 途中から作業に夢中になりすぎて、アサヒに頼まれたことを忘れてしまったことに気付いた時には、次の日の朝だった。



しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

処理中です...