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ピクシス奪還編
15 人質の解放
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空へ旅立つ叔父の竜騎士アリトを、ハルトは複雑な気持ちで見送った。
光竜王にレイゼン家にアントリア侵攻を命じられた手前、引き延ばしにも限度がある。まだかまだかと急かされて、のらりくらりとかわしていたアリトはついに今日、竜騎士の部隊を連れてアントリアに出発してしまった。
アントリアは同盟国であり、何の恨みもない。
無益な戦いに赴くため、レイゼン家が率いる竜騎士達の士気はだだ下がりの状態だ。
それでもアントリアの竜騎士達が無抵抗でないかぎり、死傷者は出るだろう。生き残るには戦うしかしかないのだから。
「まだか、アサヒ……!」
空を見上げるハルトは、霧竜王ラードーンと戦うと言って出て行ったアサヒとの会話を思い出しながら歯噛みする。
王城に竜騎士の出立の見送りにきた家族が帰っていく中で、ハルトはひとり彼らを避けて城の庭へと歩き出す。
城の庭には地下牢への出入口があった。
少し前にアウリガの間者であるユエリが収監されていたことを思い出しながら、ハルトは地下牢につづく階段の前で立ち止まった。
地下牢にはアマネ女王が囚われている。
貴人を罪人と一緒に地下牢に閉じ込めた光竜王に怒りをおぼえながら、ハルトは地下牢に続く階段の前に立って地下の暗闇をにらんだ。
その時、騒がしい足音と共に地下から誰かが上がってきた。
「っ、貴様は……!?」
地下から現れたのは、青い長髪で片目を隠した青年だった。
一等級のハヤテ・クジョウだ。
どさくさに紛れて行方をくらましていた彼が、なぜここにいるのか。
目が合ったハヤテは愉快そうに口の端を吊り上げる。
「よう、ハルト・レイゼン。久しぶりだな」
彼の後ろから、長い黒髪をした巫女服の女性と、見覚えのない剣を構えた茶髪の優男が現れる。
彼らが背後に守っているのは、少し汚れた恰好とはいえ気品あふれる空気を発散している初老の女性だった。暗い赤の髪を高く結い上げて胸をはっている彼女こそは、地下牢に囚われていた代理の女王アマネである。
「貴様ら、アマネ女王を……」
「どうする、ハルト? 光竜王に報告するか?」
レイゼンが同胞をうらぎって光竜王についていることを皮肉るように、ハヤテはおどけた調子で言った。
「さあ、いつかの返事を聞かせてもらおうか、ハルト。レイゼン家の都合に従うか、竜王の意思に従うか、どちらを選ぶ?」
アサヒが島を出る少し前。ハヤテは同じ台詞でハルトに問いかけた。家の繁栄のためなら竜王さえ利用しようとするレイゼン家の方針と、竜騎士として仕えるべき主である炎竜王、どちらを優先して行動するか、と。
問いかけられたハルトは年上の青年をにらみ返す。
「決まっている……」
物音を聞きつけたのか、城を占拠しているコローナの兵士が数人、こちらに向かって走ってくる。
「俺は、火の島の竜騎士だ! 火の島の王はただひとり、面倒で無鉄砲なアイツに決まっている!」
竜の炎がハルトの周囲で燃え上がる。
炎はハルトの手元に集まって槍となった。
「はっ!」
コローナの兵士に向かって、ハルトは炎の槍を投げつける。
飛行船に乗ってきた一般のコローナの兵士達はなすすべなく炎に巻かれた。もの言わぬ亡骸となった兵士達を眺めて、ハルトは炎を消す。
ハヤテはひゅうっと口笛を吹いた。
「おお、やるじぇねえか。家の七光りだけが頼りのお坊ちゃんかと思ってたぜ」
「御託はいい。どうするつもりだ?」
「ミツキ姫はどこか知ってるか。彼女を確保すれば俺達は勝ったも同然だ。あとはアサヒとヒズミがなんとかしてくれるさ」
約束どおり、炎竜王は戻ってくるらしい。ぎりぎり間に合ったと、ハルトは安堵する。レイゼン家は炎竜王と光竜王、どちらの勝利になっても都合が良いように立ちまわっていた。ミツキ姫の身辺にもレイゼン家の関係者を付けて、いざという時に備えている。
準備が無駄にならずに済んだとハルトは胸をなでおろした。
「……こっちだ」
ハヤテ達を連れて、巫女姫のミツキが囚われている王城内部へと案内する。
途中でコローナの兵士と行き会ったが、土の島の竜騎士だという茶髪の優男ケリーが即座で剣で斬り捨ててくれた。彼は白兵戦が得意な竜騎士らしい。
姿を隠したりせずに正面から巫女姫が囚われている王城の最上階に踏み込む。
王城の廊下を走るハヤテ達を、コローナの兵士はともかくピクシスの人々は止めなかった。コローナを良く思っていないので当然だろう。敵に占拠されたと言ってもピクシスの民の数の方が圧倒的に多い。
「巫女姫を返してもらおう!」
バンっと扉を開けて宣言すると、コローナの兵士は唖然とする。
中には手練れの竜騎士も配置されていたようだが、速攻を掛けたハヤテとケリーによってあえなく倒される。ぼんやりした様子の巫女姫と侍女たちは、戸惑った様子で悲鳴を上げたりうずくまったりした。
彼女達は特に抵抗する様子がない。
ハヤテは制圧した部屋を見回して言った。
「よし、籠城の準備をするぞ。ケリーさんも手伝ってくれ」
コローナの増援が来ないうちに、部屋の扉を閉めて椅子や机でバリケードを作る。
もちろん、空から竜騎士は止められないので、ハルトとハヤテは相棒の竜を実体化させて、バルコニーから王城の空へ飛び立った。ケリーは念のため部屋の中で防備を固めてもらう。
空に上がると、騒ぎに気付いたコローナの竜騎士が飛んでくるのが見えた。
「こりゃあ、はやいとこ援軍が来ないと俺達だけじゃ厳しいぜ」
依然、敵の数の方が多い。
ピクシスの竜騎士部隊の主力はアントリアへの遠征に旅立ってしまっているからだ。
ハルトは相棒の火竜リールーを駆って、炎のブレスで敵を追い払いながら答える。
「臆したか、ハヤテ・クジョウ!」
「まさか。アサヒが帰る前に俺達だけで片付けてやろうぜ!」
王城の最上部に敵を近づけないように、ハルト達は敵の竜騎士と空中戦を繰り広げた。
光竜王にレイゼン家にアントリア侵攻を命じられた手前、引き延ばしにも限度がある。まだかまだかと急かされて、のらりくらりとかわしていたアリトはついに今日、竜騎士の部隊を連れてアントリアに出発してしまった。
アントリアは同盟国であり、何の恨みもない。
無益な戦いに赴くため、レイゼン家が率いる竜騎士達の士気はだだ下がりの状態だ。
それでもアントリアの竜騎士達が無抵抗でないかぎり、死傷者は出るだろう。生き残るには戦うしかしかないのだから。
「まだか、アサヒ……!」
空を見上げるハルトは、霧竜王ラードーンと戦うと言って出て行ったアサヒとの会話を思い出しながら歯噛みする。
王城に竜騎士の出立の見送りにきた家族が帰っていく中で、ハルトはひとり彼らを避けて城の庭へと歩き出す。
城の庭には地下牢への出入口があった。
少し前にアウリガの間者であるユエリが収監されていたことを思い出しながら、ハルトは地下牢につづく階段の前で立ち止まった。
地下牢にはアマネ女王が囚われている。
貴人を罪人と一緒に地下牢に閉じ込めた光竜王に怒りをおぼえながら、ハルトは地下牢に続く階段の前に立って地下の暗闇をにらんだ。
その時、騒がしい足音と共に地下から誰かが上がってきた。
「っ、貴様は……!?」
地下から現れたのは、青い長髪で片目を隠した青年だった。
一等級のハヤテ・クジョウだ。
どさくさに紛れて行方をくらましていた彼が、なぜここにいるのか。
目が合ったハヤテは愉快そうに口の端を吊り上げる。
「よう、ハルト・レイゼン。久しぶりだな」
彼の後ろから、長い黒髪をした巫女服の女性と、見覚えのない剣を構えた茶髪の優男が現れる。
彼らが背後に守っているのは、少し汚れた恰好とはいえ気品あふれる空気を発散している初老の女性だった。暗い赤の髪を高く結い上げて胸をはっている彼女こそは、地下牢に囚われていた代理の女王アマネである。
「貴様ら、アマネ女王を……」
「どうする、ハルト? 光竜王に報告するか?」
レイゼンが同胞をうらぎって光竜王についていることを皮肉るように、ハヤテはおどけた調子で言った。
「さあ、いつかの返事を聞かせてもらおうか、ハルト。レイゼン家の都合に従うか、竜王の意思に従うか、どちらを選ぶ?」
アサヒが島を出る少し前。ハヤテは同じ台詞でハルトに問いかけた。家の繁栄のためなら竜王さえ利用しようとするレイゼン家の方針と、竜騎士として仕えるべき主である炎竜王、どちらを優先して行動するか、と。
問いかけられたハルトは年上の青年をにらみ返す。
「決まっている……」
物音を聞きつけたのか、城を占拠しているコローナの兵士が数人、こちらに向かって走ってくる。
「俺は、火の島の竜騎士だ! 火の島の王はただひとり、面倒で無鉄砲なアイツに決まっている!」
竜の炎がハルトの周囲で燃え上がる。
炎はハルトの手元に集まって槍となった。
「はっ!」
コローナの兵士に向かって、ハルトは炎の槍を投げつける。
飛行船に乗ってきた一般のコローナの兵士達はなすすべなく炎に巻かれた。もの言わぬ亡骸となった兵士達を眺めて、ハルトは炎を消す。
ハヤテはひゅうっと口笛を吹いた。
「おお、やるじぇねえか。家の七光りだけが頼りのお坊ちゃんかと思ってたぜ」
「御託はいい。どうするつもりだ?」
「ミツキ姫はどこか知ってるか。彼女を確保すれば俺達は勝ったも同然だ。あとはアサヒとヒズミがなんとかしてくれるさ」
約束どおり、炎竜王は戻ってくるらしい。ぎりぎり間に合ったと、ハルトは安堵する。レイゼン家は炎竜王と光竜王、どちらの勝利になっても都合が良いように立ちまわっていた。ミツキ姫の身辺にもレイゼン家の関係者を付けて、いざという時に備えている。
準備が無駄にならずに済んだとハルトは胸をなでおろした。
「……こっちだ」
ハヤテ達を連れて、巫女姫のミツキが囚われている王城内部へと案内する。
途中でコローナの兵士と行き会ったが、土の島の竜騎士だという茶髪の優男ケリーが即座で剣で斬り捨ててくれた。彼は白兵戦が得意な竜騎士らしい。
姿を隠したりせずに正面から巫女姫が囚われている王城の最上階に踏み込む。
王城の廊下を走るハヤテ達を、コローナの兵士はともかくピクシスの人々は止めなかった。コローナを良く思っていないので当然だろう。敵に占拠されたと言ってもピクシスの民の数の方が圧倒的に多い。
「巫女姫を返してもらおう!」
バンっと扉を開けて宣言すると、コローナの兵士は唖然とする。
中には手練れの竜騎士も配置されていたようだが、速攻を掛けたハヤテとケリーによってあえなく倒される。ぼんやりした様子の巫女姫と侍女たちは、戸惑った様子で悲鳴を上げたりうずくまったりした。
彼女達は特に抵抗する様子がない。
ハヤテは制圧した部屋を見回して言った。
「よし、籠城の準備をするぞ。ケリーさんも手伝ってくれ」
コローナの増援が来ないうちに、部屋の扉を閉めて椅子や机でバリケードを作る。
もちろん、空から竜騎士は止められないので、ハルトとハヤテは相棒の竜を実体化させて、バルコニーから王城の空へ飛び立った。ケリーは念のため部屋の中で防備を固めてもらう。
空に上がると、騒ぎに気付いたコローナの竜騎士が飛んでくるのが見えた。
「こりゃあ、はやいとこ援軍が来ないと俺達だけじゃ厳しいぜ」
依然、敵の数の方が多い。
ピクシスの竜騎士部隊の主力はアントリアへの遠征に旅立ってしまっているからだ。
ハルトは相棒の火竜リールーを駆って、炎のブレスで敵を追い払いながら答える。
「臆したか、ハヤテ・クジョウ!」
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