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5島連盟編
11 影竜の竜騎士
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風の島アウリガでアサヒ達は高級な宿を貸し切りにして、ひとまず旅の疲れを癒すことにした。
「皆、お疲れ様ー」
アサヒはピクシスの竜騎士達をねぎらった。
戦後処理はまだ残っているが、迷惑にしかならないコローナの逃げ遅れた兵士達はアウリガに押し付けた。身代金を要求して貧しいピクシスの財政に少しは貢献したいところだが、交渉は後回しにするとしよう。
宿の一室でピクシスのメンバーだけになったところで、アサヒは同行してくれた人々に礼を言う。
するとピクシスの竜騎士の一人が真面目な顔をして、アサヒに向かって言った。
「炎竜王陛下……」
「何だよ改まって」
陛下呼ばわりされたアサヒはぎょっとした。
最近ようやく慣れてきたものの、様を付けて呼ばれたり陛下と崇められると背筋がかゆくなる。
「正直、こんな小僧が伝説の炎竜王だと聞いてマジかよと思って期待していなかったが」
「本当に正直だな」
「今は付いてきて良かったと思っています。アウリガの奴らが真っ青に慌てふためいて、胸がすく思いでした!」
その中年の竜騎士は笑ってアサヒの肩を叩いた。
他の竜騎士達もアサヒを好意的な目で見ている。
「あなたはピクシスの民のために怒ってくださった」
「それは……」
「ずっと我が島の者は苦汁を飲んできました。貧しいピクシス、火の島は他の島に劣っている。同盟国には見捨てられ、アウリガやコローナに良いようにされても仕方ないと。けれど今は……」
ピクシスの竜騎士で良かったと思える。
そう、彼はアサヒに言った。
「アウリガの風竜王なんてどうでも良いですが、あなたが探したいなら応援しますよ。と言っても私達はもらうものをもらって、先に帰りますけどね!」
「本当に正直だな……」
捕虜を解放した後は飛行船ごと先に帰ってもらうつもりだったから問題ない。ここから先は、アサヒとヒズミ、ピンインとセイランで行動するつもりだった。
「あれ? そういえばスミレは……?」
もうひとり、ピクシスから付いてきたメンバーを思い出してアサヒは首をかしげた。アウリガに降りてから姿を見ていない。
彼女はどこへ行ってしまったのだろう。
その頃、スミレはこっそりユエリの後を付けて、兄妹の会話を盗み聞きしていた。街外れの一軒家は壁が薄く、耳を澄ませれば話が聞こえなくもない。
(やっぱり、ユエリさんを見張って正解でしたわ)
スミレは巫女の能力を持つユエリのことが気になっていた。
これは彼女の勘だったのだが、ユエリは風竜王の関係者ではないかと考えていたのだ。根拠はあまりなかったが、予感は的中した。
「兄様は風竜王がどこにいるか知ってるの?!」
兄グライスの言葉を聞いたユエリが驚いた声を上げる。
「ああ。御前に案内をする前に……そこで隠れている君、出てきてくれるかな」
潜んでいることはバレていたようだ。
スミレは諦めて、壁から離れて表玄関から室内に足を踏み入れた。
「お邪魔しますわ」
「スミレさん?!」
予想外の闖入者に、ユエリは目を丸くする。
構わずスミレは堂々と胸をはった。
「私はアサヒ様のために必要なことをしているだけですわ。ユエリさん、あなたも自分に素直になってはどう? アサヒ様が好きなのでしょう」
「わ、私はそんなんじゃないわ! 私はアウリガの民として国を裏切ったりは……」
「好きという気持ちは神聖なものだ、ユエリ。国を裏切る前に、自分を裏切ってはいけない」
「兄様?!」
スミレを援護するような事を言う兄に、ユエリは絶句する。
「私はそんなんじゃ無いって言ってるでしょ! アサヒのことなんてどうとも思ってないんだから!」
「うん、そういうことにしておくか」
グライスは苦笑しながら続けた。
「実のところ、アネモス様の元へ行くには炎竜王の力が必要だ。手強い門番がいるのでね」
「ユエリさんのお兄さん、あなたは竜騎士ではないのですか?」
痩せて体格の良くないグライスを眺めながら、スミレは聞いた。
彼からは薄く竜の気配はしたが、スミレの知っている竜の気配とはどこか違っていた。
「私は竜騎士ではない。けれど、竜と契約を結んでいる」
「矛盾していますわ。竜と契約していて、竜騎士ではない?」
「影竜は特殊な竜だ……」
グライスが手を差しのべると、黒い蛇が服の裾から這い出してきて頭を上げる。
「この影竜は契約者の生命力と引き換えに力を貸してくれる。私は生まれながらの竜騎士ではないが、影竜は条件を満たせば一般人でも契約可能なんだ」
しゅるしゅると服の下に戻っていく黒い蛇。
ユエリはいつも兄が寝込んでいた理由を理解した。
「生命力を……兄様は影竜を使役していたから、病弱だったのね」
影竜は、人間にとりつく竜の亜種のモンスターである。
命を掛けて影竜を使役するのは相当の覚悟がいる。何か強い願いを持っているのだろうか、とスミレは疑問に思った。
「明日、アネモス様の元に案内しよう。今日のところは、久しぶりに再会したのだから妹の手料理を食べさせてくれ。ユエリ、シチューを作ってくれないか」
「ご相伴しても? 私お腹ペコペコですわ。あ、料理を手伝いましょうか?」
「スミレさんは座って待っていてください!」
ユエリは何故か慌てて手伝いを断った。
そういえば新しい寮の炊事もユエリが率先して引き受けていたのだが、何かスミレの料理に問題があるのだろうか。ユエリはアサヒに手料理を食べさせたいのだとばかり思っていたのだが。
「皆、お疲れ様ー」
アサヒはピクシスの竜騎士達をねぎらった。
戦後処理はまだ残っているが、迷惑にしかならないコローナの逃げ遅れた兵士達はアウリガに押し付けた。身代金を要求して貧しいピクシスの財政に少しは貢献したいところだが、交渉は後回しにするとしよう。
宿の一室でピクシスのメンバーだけになったところで、アサヒは同行してくれた人々に礼を言う。
するとピクシスの竜騎士の一人が真面目な顔をして、アサヒに向かって言った。
「炎竜王陛下……」
「何だよ改まって」
陛下呼ばわりされたアサヒはぎょっとした。
最近ようやく慣れてきたものの、様を付けて呼ばれたり陛下と崇められると背筋がかゆくなる。
「正直、こんな小僧が伝説の炎竜王だと聞いてマジかよと思って期待していなかったが」
「本当に正直だな」
「今は付いてきて良かったと思っています。アウリガの奴らが真っ青に慌てふためいて、胸がすく思いでした!」
その中年の竜騎士は笑ってアサヒの肩を叩いた。
他の竜騎士達もアサヒを好意的な目で見ている。
「あなたはピクシスの民のために怒ってくださった」
「それは……」
「ずっと我が島の者は苦汁を飲んできました。貧しいピクシス、火の島は他の島に劣っている。同盟国には見捨てられ、アウリガやコローナに良いようにされても仕方ないと。けれど今は……」
ピクシスの竜騎士で良かったと思える。
そう、彼はアサヒに言った。
「アウリガの風竜王なんてどうでも良いですが、あなたが探したいなら応援しますよ。と言っても私達はもらうものをもらって、先に帰りますけどね!」
「本当に正直だな……」
捕虜を解放した後は飛行船ごと先に帰ってもらうつもりだったから問題ない。ここから先は、アサヒとヒズミ、ピンインとセイランで行動するつもりだった。
「あれ? そういえばスミレは……?」
もうひとり、ピクシスから付いてきたメンバーを思い出してアサヒは首をかしげた。アウリガに降りてから姿を見ていない。
彼女はどこへ行ってしまったのだろう。
その頃、スミレはこっそりユエリの後を付けて、兄妹の会話を盗み聞きしていた。街外れの一軒家は壁が薄く、耳を澄ませれば話が聞こえなくもない。
(やっぱり、ユエリさんを見張って正解でしたわ)
スミレは巫女の能力を持つユエリのことが気になっていた。
これは彼女の勘だったのだが、ユエリは風竜王の関係者ではないかと考えていたのだ。根拠はあまりなかったが、予感は的中した。
「兄様は風竜王がどこにいるか知ってるの?!」
兄グライスの言葉を聞いたユエリが驚いた声を上げる。
「ああ。御前に案内をする前に……そこで隠れている君、出てきてくれるかな」
潜んでいることはバレていたようだ。
スミレは諦めて、壁から離れて表玄関から室内に足を踏み入れた。
「お邪魔しますわ」
「スミレさん?!」
予想外の闖入者に、ユエリは目を丸くする。
構わずスミレは堂々と胸をはった。
「私はアサヒ様のために必要なことをしているだけですわ。ユエリさん、あなたも自分に素直になってはどう? アサヒ様が好きなのでしょう」
「わ、私はそんなんじゃないわ! 私はアウリガの民として国を裏切ったりは……」
「好きという気持ちは神聖なものだ、ユエリ。国を裏切る前に、自分を裏切ってはいけない」
「兄様?!」
スミレを援護するような事を言う兄に、ユエリは絶句する。
「私はそんなんじゃ無いって言ってるでしょ! アサヒのことなんてどうとも思ってないんだから!」
「うん、そういうことにしておくか」
グライスは苦笑しながら続けた。
「実のところ、アネモス様の元へ行くには炎竜王の力が必要だ。手強い門番がいるのでね」
「ユエリさんのお兄さん、あなたは竜騎士ではないのですか?」
痩せて体格の良くないグライスを眺めながら、スミレは聞いた。
彼からは薄く竜の気配はしたが、スミレの知っている竜の気配とはどこか違っていた。
「私は竜騎士ではない。けれど、竜と契約を結んでいる」
「矛盾していますわ。竜と契約していて、竜騎士ではない?」
「影竜は特殊な竜だ……」
グライスが手を差しのべると、黒い蛇が服の裾から這い出してきて頭を上げる。
「この影竜は契約者の生命力と引き換えに力を貸してくれる。私は生まれながらの竜騎士ではないが、影竜は条件を満たせば一般人でも契約可能なんだ」
しゅるしゅると服の下に戻っていく黒い蛇。
ユエリはいつも兄が寝込んでいた理由を理解した。
「生命力を……兄様は影竜を使役していたから、病弱だったのね」
影竜は、人間にとりつく竜の亜種のモンスターである。
命を掛けて影竜を使役するのは相当の覚悟がいる。何か強い願いを持っているのだろうか、とスミレは疑問に思った。
「明日、アネモス様の元に案内しよう。今日のところは、久しぶりに再会したのだから妹の手料理を食べさせてくれ。ユエリ、シチューを作ってくれないか」
「ご相伴しても? 私お腹ペコペコですわ。あ、料理を手伝いましょうか?」
「スミレさんは座って待っていてください!」
ユエリは何故か慌てて手伝いを断った。
そういえば新しい寮の炊事もユエリが率先して引き受けていたのだが、何かスミレの料理に問題があるのだろうか。ユエリはアサヒに手料理を食べさせたいのだとばかり思っていたのだが。
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