119 / 120
番外編
湯治に行こう! 前編
しおりを挟む
5島の力を集結して謎の石柱を倒した後、しばらく寝込んでいたアサヒだが、ようやく身体が回復したので外を出歩けるようになった。
回復してすぐ、アサヒは姉と慕う巫女姫ミツキを訪ねた。
ミツキは王城の一角で暮らしている。
敵の魔術によって一時的に自我を封じられていたミツキだが、今は意識を取り戻して通常の生活を送っていた。
「ミツキ、調子はどう?」
護衛の竜騎士はアサヒの正体について知っているため、王城は顔パスで出入りできる。
質素だが上品な内装の部屋で、たおやかに椅子に座るミツキは、アサヒの記憶にある涼やかな笑みを浮かべた。
「私は大丈夫よ。アサヒこそ熱を出して寝込んでいたそうだけど、大丈夫なの?」
「へーき。もう治った。ところでヒズミと何かあった? あいつ、様子が変だったけど」
向かいあって座る二人の間に、侍女がお茶を運んでくる。
ミツキはティーカップはそのままに、頬をふくらませて唇を尖らせた。
「久しぶりに温泉に行きたいって言ったら、お前一人で行けって……酷くない?」
「……ぶはっ」
アサヒは思わず茶を吹き出しそうになった。
小さな頃は二人で一緒にお風呂に行ったのだろうか……いや、ミツキは巫女姫だしヒズミは良家の坊っちゃんだから、そこまでオープンでは無かったはず。
しかし、いずれにしても成長した男女の二人が一緒にお風呂、という訳にはいかないのは道理である。ヒズミはどんな顔をして断ったのだろう。
「アサヒ、ねえ、一緒に温泉に行きましょうよ。あなたは断ったりしないわよね?」
ミツキにそう言われて、笑いをこらえていたアサヒは顔を上げた。
不敵に微笑んでみせる。
「もちろん。俺がミツキの頼みを断る訳がないじゃないか」
そう宣言しながら。
アサヒは内心、どうしようかと思っていた。
ここピクシスは、火山が中央にある島だ。
火山は地球で言うところの休火山に近く、噴火するかどうかは炎竜王の気分次第だが今のところその予定はない。
温められた地熱により王都アケボノ近郊には、天然の温泉があちこちに涌き出ていた。ピクシス名物、露天風呂である。
ところでアサヒが調べたところによると、現在のピクシスでは男女混浴の習慣は無いらしい。つまりミツキと一緒に入浴する必要はない訳で、ひとまず安心するアサヒだった。
嫌がる兄を引っ張り出すために、アサヒは兄の親友ハヤテの手を借りた。ハヤテは面白いことが大好きなのでアサヒの策略に乗ってくれる。
かくしてミツキと侍女、孤児時代に知り合った妹分のハナビも引っ張りだして、アサヒは温泉ピクニック企画を立てたのである。
「……私は忙しい」
「知ってるよ。だから日頃の疲れを癒したらどうか、って提案だろ」
馴れ馴れしく肩を抱く青い髪の友人を、ヒズミは嫌そうに振り払った。そうは言っても結局ハヤテの言うことは聞いてくれるようなので、謎の友人関係だと思う。
街の外れでお忍びの格好をしたミツキ達と合流した瞬間、ヒズミは一瞬固まった後に首を回してアサヒを睨んだ。
「アサヒ……お前の仕業か……!」
「知らないなー。俺は何も知らないなー」
しらばっくれるアサヒを忌々しそうに見るヒズミの背を、ハヤテは「わお、綺麗なお姉さんがいっぱいで俺は嬉しいね!」と言って強引に押した。
一行は女性陣と男性陣に分かれて、少し距離を置いて隣り合う二つの露天風呂にそれぞれ入ることにした。お風呂が終わった後は合流して、近くの料亭で食事をすることになっている。
「さすがに今回は覗きに行けないな……」
「ハヤテ、覗きに行ったことあるの?」
「ふっ。俺の風竜はこういう時のための相棒なんだよ」
絶対ちがうと思う。
ハヤテは風竜の竜騎士である。風竜の常で、彼の相棒は透明化して近くにいるようだったが、アサヒにもどこにいるかは分からない。
アサヒはお湯に浸かりながら年上の男達の裸を眺めた。
ヒズミもハヤテも、バランスの良い身体に筋肉がしっかり付いていて、上腕部に巻き付くような竜紋が大きく目立っている。
実は竜王のアサヒだが、筋肉が付きにくいのか鍛えてもムキムキにならないし、竜紋は小さいのでちょっぴりジェラシーを感じる。竜王として大気を使う魔術に長けているアサヒだが、竜騎士としては並以下の魔力しか持っていないのだ。
「……もう絶対、ヒズミが竜王で良いと思うんだ」
「何を言っている」
「ミツキとだってお似合いだと思う」
頭の上に乗ったヤモリが欠伸をした。
岩の上に頬杖を付いているアサヒを振り返り、ヒズミが訝しげに言う。
「私に押し付けるな。ミツキはお前の婚約者だろう」
…………は?
どこかでカポーンとししおどしが鳴った音がした。
回復してすぐ、アサヒは姉と慕う巫女姫ミツキを訪ねた。
ミツキは王城の一角で暮らしている。
敵の魔術によって一時的に自我を封じられていたミツキだが、今は意識を取り戻して通常の生活を送っていた。
「ミツキ、調子はどう?」
護衛の竜騎士はアサヒの正体について知っているため、王城は顔パスで出入りできる。
質素だが上品な内装の部屋で、たおやかに椅子に座るミツキは、アサヒの記憶にある涼やかな笑みを浮かべた。
「私は大丈夫よ。アサヒこそ熱を出して寝込んでいたそうだけど、大丈夫なの?」
「へーき。もう治った。ところでヒズミと何かあった? あいつ、様子が変だったけど」
向かいあって座る二人の間に、侍女がお茶を運んでくる。
ミツキはティーカップはそのままに、頬をふくらませて唇を尖らせた。
「久しぶりに温泉に行きたいって言ったら、お前一人で行けって……酷くない?」
「……ぶはっ」
アサヒは思わず茶を吹き出しそうになった。
小さな頃は二人で一緒にお風呂に行ったのだろうか……いや、ミツキは巫女姫だしヒズミは良家の坊っちゃんだから、そこまでオープンでは無かったはず。
しかし、いずれにしても成長した男女の二人が一緒にお風呂、という訳にはいかないのは道理である。ヒズミはどんな顔をして断ったのだろう。
「アサヒ、ねえ、一緒に温泉に行きましょうよ。あなたは断ったりしないわよね?」
ミツキにそう言われて、笑いをこらえていたアサヒは顔を上げた。
不敵に微笑んでみせる。
「もちろん。俺がミツキの頼みを断る訳がないじゃないか」
そう宣言しながら。
アサヒは内心、どうしようかと思っていた。
ここピクシスは、火山が中央にある島だ。
火山は地球で言うところの休火山に近く、噴火するかどうかは炎竜王の気分次第だが今のところその予定はない。
温められた地熱により王都アケボノ近郊には、天然の温泉があちこちに涌き出ていた。ピクシス名物、露天風呂である。
ところでアサヒが調べたところによると、現在のピクシスでは男女混浴の習慣は無いらしい。つまりミツキと一緒に入浴する必要はない訳で、ひとまず安心するアサヒだった。
嫌がる兄を引っ張り出すために、アサヒは兄の親友ハヤテの手を借りた。ハヤテは面白いことが大好きなのでアサヒの策略に乗ってくれる。
かくしてミツキと侍女、孤児時代に知り合った妹分のハナビも引っ張りだして、アサヒは温泉ピクニック企画を立てたのである。
「……私は忙しい」
「知ってるよ。だから日頃の疲れを癒したらどうか、って提案だろ」
馴れ馴れしく肩を抱く青い髪の友人を、ヒズミは嫌そうに振り払った。そうは言っても結局ハヤテの言うことは聞いてくれるようなので、謎の友人関係だと思う。
街の外れでお忍びの格好をしたミツキ達と合流した瞬間、ヒズミは一瞬固まった後に首を回してアサヒを睨んだ。
「アサヒ……お前の仕業か……!」
「知らないなー。俺は何も知らないなー」
しらばっくれるアサヒを忌々しそうに見るヒズミの背を、ハヤテは「わお、綺麗なお姉さんがいっぱいで俺は嬉しいね!」と言って強引に押した。
一行は女性陣と男性陣に分かれて、少し距離を置いて隣り合う二つの露天風呂にそれぞれ入ることにした。お風呂が終わった後は合流して、近くの料亭で食事をすることになっている。
「さすがに今回は覗きに行けないな……」
「ハヤテ、覗きに行ったことあるの?」
「ふっ。俺の風竜はこういう時のための相棒なんだよ」
絶対ちがうと思う。
ハヤテは風竜の竜騎士である。風竜の常で、彼の相棒は透明化して近くにいるようだったが、アサヒにもどこにいるかは分からない。
アサヒはお湯に浸かりながら年上の男達の裸を眺めた。
ヒズミもハヤテも、バランスの良い身体に筋肉がしっかり付いていて、上腕部に巻き付くような竜紋が大きく目立っている。
実は竜王のアサヒだが、筋肉が付きにくいのか鍛えてもムキムキにならないし、竜紋は小さいのでちょっぴりジェラシーを感じる。竜王として大気を使う魔術に長けているアサヒだが、竜騎士としては並以下の魔力しか持っていないのだ。
「……もう絶対、ヒズミが竜王で良いと思うんだ」
「何を言っている」
「ミツキとだってお似合いだと思う」
頭の上に乗ったヤモリが欠伸をした。
岩の上に頬杖を付いているアサヒを振り返り、ヒズミが訝しげに言う。
「私に押し付けるな。ミツキはお前の婚約者だろう」
…………は?
どこかでカポーンとししおどしが鳴った音がした。
35
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる