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淡く輝き内側にらせんを光らせる装置を、姫は興味深そうに眺めていた。
「わたくしも、父に同行して食事の席へ出た折、登録をしたことがありますわ。けれど、発動しているところを見るのは初めてです」
ユリウスは軽く目を細めた。
「それは光栄です。姫様もご結婚されましたから、これから外交の場などで使う機会も増えることでしょう」
「そう……そうね。そういった役目も、必要ですものね」
紅茶を口に運んだ姫の指が、かすかに震えた。
つまりそれは、夫婦で出席する機会もあるだろうという含み。
けれど――心の奥で、彼女は別の言葉を飲み込んだ。
けれど、ユリウス。
あなたも知っている通り、わたくしとあの方は三年後には終わる関係。
……どれほどの機会があるのかしら。
***
「今日は特別なお茶を、とっておきのブレンドです」
「ありがとう、とっても美味しいわ」
ユリウスが示したティーセットから、薔薇と果実の香りが立ちのぼる。
白磁のカップが光を受けて柔らかにきらめいた。
一つ、二つ……当たり障りのない話題をやり過ごした後だった。
薔薇の香りが漂う庭園の東屋。白布が風に揺れ、昼下がりの陽光をやわらかく散らしている。
ミレナシアは優雅にカップを傾けながら、けれどその笑みの奥にどこか翳りを残していた。
ユリウス・ド・ベルフォールは、そんな彼女を見て困ったように微笑む。
咳ばらいを一つすると、姫の注意がユリウスへと移った。それを確認して、彼はひっそりと声のトーンを落とす。
この簡易結界の内側にあっても、とびっきりの秘密を明かすように。
「ところで姫様、僕はひとつ――魔法を使えるんです」
「まあ、魔法ですって?」
ミレナシアがおかしそうに微笑んだ。お芝居にのってあげましょうね、という戯れの響き。
その反応にユリウスは満足げに目を細めた。
「ご覧になります?」
「ぜひ」
ユリウスは軽やかに立ち上がると、姫の近くへ歩み寄った。
「それでは、ちょっと失礼して」
紅茶の香りがふわりと揺れる。彼はミレナシアのティーカップを手に取り、花びらの形をした小さな砂糖をひとひら落とした。
つづいてミルクを少し注ぎ、ティースプーンを差し入れる。
器に当てぬよう、スプーンはゆらゆらと前後に揺らす。
ゆっくり、穏やかに――。
きれいなミルクティーが出来上がった。
ユリウスは、姫の手元へとカップを戻す。
──目の前で、奇術が行われているかのよう。
ミレナシアはくすくすと小さな笑い声を漏らしている。
「これは、魔法のミルクティーです」
ユリウスは芝居がかった口調でそう言うと、かしこまった態度で胸に手を当て、お辞儀をした。
「なんと、飲んだ人は嘘がつけなくなってしまう」
「嘘が……?」
その瞬間、ミレナシアの心臓がどくんと鳴った。
ただの冗談だと分かっているのに、その言葉が胸の奥をくすぐる。
ユリウスは何も言わず、自らの席に戻った。
これは、彼からのおまじない──いたずらっぽくウインクをしたユリウスが、ミレナシアの葛藤を慰めてくれる。
「ですから、本当のことを言ってもいいんですよ。大丈夫、この結界の中で話したことは、僕たちにしか聞こえない」
「ユーリ……」
思わず幼い折のあだ名が口をついて出た。彼は特に何も言わず、優雅に片眉のみを上げてみせる。
東屋の中は静まり返っていた。
風の音も、鳥の囀りも遠く感じる。
「どうぞ、ミレナシア」
促されるまま、ミレナシアはゆっくりとカップを取った。
温かな香りが、胸の奥に染みわたっていく。
その味は、どこか懐かしく――そして、少しだけ切なかった。
「わたくしも、父に同行して食事の席へ出た折、登録をしたことがありますわ。けれど、発動しているところを見るのは初めてです」
ユリウスは軽く目を細めた。
「それは光栄です。姫様もご結婚されましたから、これから外交の場などで使う機会も増えることでしょう」
「そう……そうね。そういった役目も、必要ですものね」
紅茶を口に運んだ姫の指が、かすかに震えた。
つまりそれは、夫婦で出席する機会もあるだろうという含み。
けれど――心の奥で、彼女は別の言葉を飲み込んだ。
けれど、ユリウス。
あなたも知っている通り、わたくしとあの方は三年後には終わる関係。
……どれほどの機会があるのかしら。
***
「今日は特別なお茶を、とっておきのブレンドです」
「ありがとう、とっても美味しいわ」
ユリウスが示したティーセットから、薔薇と果実の香りが立ちのぼる。
白磁のカップが光を受けて柔らかにきらめいた。
一つ、二つ……当たり障りのない話題をやり過ごした後だった。
薔薇の香りが漂う庭園の東屋。白布が風に揺れ、昼下がりの陽光をやわらかく散らしている。
ミレナシアは優雅にカップを傾けながら、けれどその笑みの奥にどこか翳りを残していた。
ユリウス・ド・ベルフォールは、そんな彼女を見て困ったように微笑む。
咳ばらいを一つすると、姫の注意がユリウスへと移った。それを確認して、彼はひっそりと声のトーンを落とす。
この簡易結界の内側にあっても、とびっきりの秘密を明かすように。
「ところで姫様、僕はひとつ――魔法を使えるんです」
「まあ、魔法ですって?」
ミレナシアがおかしそうに微笑んだ。お芝居にのってあげましょうね、という戯れの響き。
その反応にユリウスは満足げに目を細めた。
「ご覧になります?」
「ぜひ」
ユリウスは軽やかに立ち上がると、姫の近くへ歩み寄った。
「それでは、ちょっと失礼して」
紅茶の香りがふわりと揺れる。彼はミレナシアのティーカップを手に取り、花びらの形をした小さな砂糖をひとひら落とした。
つづいてミルクを少し注ぎ、ティースプーンを差し入れる。
器に当てぬよう、スプーンはゆらゆらと前後に揺らす。
ゆっくり、穏やかに――。
きれいなミルクティーが出来上がった。
ユリウスは、姫の手元へとカップを戻す。
──目の前で、奇術が行われているかのよう。
ミレナシアはくすくすと小さな笑い声を漏らしている。
「これは、魔法のミルクティーです」
ユリウスは芝居がかった口調でそう言うと、かしこまった態度で胸に手を当て、お辞儀をした。
「なんと、飲んだ人は嘘がつけなくなってしまう」
「嘘が……?」
その瞬間、ミレナシアの心臓がどくんと鳴った。
ただの冗談だと分かっているのに、その言葉が胸の奥をくすぐる。
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これは、彼からのおまじない──いたずらっぽくウインクをしたユリウスが、ミレナシアの葛藤を慰めてくれる。
「ですから、本当のことを言ってもいいんですよ。大丈夫、この結界の中で話したことは、僕たちにしか聞こえない」
「ユーリ……」
思わず幼い折のあだ名が口をついて出た。彼は特に何も言わず、優雅に片眉のみを上げてみせる。
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「どうぞ、ミレナシア」
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その味は、どこか懐かしく――そして、少しだけ切なかった。
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