恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

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第2章

学園2

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「シルヴィ、いつもの席で待ってる!」
 
 今日も元気な声を私に投げかけて、アリスが小走りに、――いえ、今や全速力で――走って食堂へ向かっています。彼女のオレンジに近い鮮やかな髪がたなびいています。
 何でも、今日のお昼には彼女の大好きな苺ソースがかけられたアイスが出るそうです。男女を問わず学園の生徒に大変な人気で、売り切れ必須の品だそうです。
 中にはこっそり魔力を使って歩くスピードを速めたり、魔力の強い上級生の中にはさらにこっそり転移の魔法を使って早い順番を勝ち取ろうとする人もいるとかいないとか…。
 
 学園に入学してから、半年が経ちました。
 ようやく学園に慣れたと言ってもいい気がします。うれしいことにお友だちも二人できました。お友だちと言っても、アリスは私より5歳も年上なのですが、アリス曰く、クラスが一緒なのに「先輩」と呼ばれるのは「絶対に!」嫌なのだそうで、お言葉に甘えてお友だちとしてお付き合いさせていただいています。アリスは見た目だけなら、私と身長があまり変わらない小柄な方なので、お友だちで不自然ではないかもしれません。

「アリスはもう食堂なの?」

 穏やかな声に振り返れば、眼鏡の奥から優しい黒い瞳が私を見ていました。
 もう一人のお友達の、ジェニファー、ことジェニーです。彼女も4歳年上なのですが、「アリスがお友だちなら、私だってそうよね」と、問答無用な形でお友だちとしてお付き合いをさせていただいています。ジェニーは私より頭一つ分は背が高く、女の私でも見惚れるような体形の持ち主です。見た目でもお友だちというには苦しいものがあるのですが、ありがたくお言葉に甘えています。

「少しでも早くに並びたいのですって」
「ふふ、意地を張って魔力を使わないのが、アリスらしいわ」
 
 アリスは短い距離の転移、――瞬間移動が得意なのです。彼女が魔力を使えば、簡単に早い順番を取れるはずなのです。
 素直にそこがいいところだと言わないジェニーもいい勝負だと思うのですが、それは口にしないでおきました。
 生徒であふれた食堂に着くと、窓に近いいつも3人で座るテーブルからアリスがオレンジの光をさっと真上に放ち合図を送ってくれます。彼女の前には、見事、獲得された真っ赤なソースが美しいアイスが置かれています。
 私とジェニーが席に着くと、アリスが満面の笑みを向けてくれました。
「3人で分けて食べようね!」
 スプーンが3つ置かれています。アリスはいつも戦利品を分けてくれるのです。
 ジェニーは頷きながらさっと氷の結界をアイスに張り、溶けないようにしています。
 薄くそして最適な大きさに張られた高度な技にほれぼれしてしまいます。
 結界に見惚れながら
「いつもありがとう。次は、私が…」
 言いかけて、アリスに小さな声で遮られました。
「いいの!クリス先輩の後ろに並べたから…!」
 ジェニーが今度は私たちのテーブルに防音の結界を張りました。本当に素晴らしい早業です。アリスが結界を確認しながら、それでも小さな声で続けます。
「クリス先輩、今度はショコラの日に並ぶって」
「本当に、アリスと好みが合うのですね」
 ジェニーも私の言葉に頷きながら、悪戯めいた光を目に宿らせて、さっとテーブルの結界を解きました。
 え…?

「まだ、アイスを食べてないのかい?今日もソースが美味しかったよ」

 頭の上から、低い柔らかな声が降ってきました。クリス先輩です。
 アリスの頬が少し赤らんでいます。
  クリス先輩は7歳も年上の方で、学園で一番の結界魔法を持つと噂される優秀な方です。ジェニーの従兄弟にあたります。 ジェニーも先輩も黒い艶のあるサラサラの髪がとても綺麗です。
 クリス先輩はアリスにさらにアイスの話をした後、いつものようにアリスの頭を撫でました。別れ際、先輩はいつもそうするのです。
 先輩の手がアリスの頭に触れた瞬間、クリス先輩からもアリスからも魔力が淡く立ち上ります。
 そして、その時の先輩のアリスを見つめる眼差しは、なぜだか見ているこちらが赤らんでしまうほど、優しいものなのです。
 
 セディが私の頭を撫でてくれる時を思い出してほんの少し羨ましくて、こっそりイヤリングを撫でてしまいました。
 セディにはこの半年、全く会えていないのです。
 学園の授業は週二日休みになるのですが、セディや私が住んでいる王都までは馬車で二日かかります。往復すると休み明けに間に合わないのです。
 卒業が間近な魔力の強い先輩の中には、転移で帰省する人もいますが、それでもその距離は馬車で一日ほどの距離が限界です。
 週に一度は、セディが手紙を送ってくれます。
 とてもうれしくて、中身を覚えるくらい何度も読むのですが、でも、会えないことは寂しくて、もっともっと手紙を欲しくなってしまいます。
 ある程度力が強くなれば、手紙ぐらいの軽いものは目印があれば遠くまで、それこそ王都まで移動させられることができます。そのため、今、私が一番練習している魔法の技術は、転移です。   
 これを習得できれば、私から送った手紙がセディに届くまでの日数がなくなります。
 学園に入る前には、予想していなかった魔法の練習ですが、いいのです、何事も役に立つ日が来るはずです。アリスほど極めれば、刺客から逃げることに使えます!
 まだ、隣の部屋ぐらいにしか動かせないレベルです…。今日も、寝る前に練習しましょう。セディの手紙が欲しいのです。どれだけでも頑張ります。
 
 ふと視線を感じると、ジェニーがもの言いたげに私を見つめていました。
 心配させてしまったでしょうか、彼女は色々なことに目を配る人です。
 
「今日は、初めての試合の日なので、少し緊張してしまって…」
 全くの嘘ではありません。今日は朝から試合のことがふとした拍子に頭に浮かんでいます。
 とうとう、学園に入った最大の目的の授業に参加できるのです。

 二ケ月に一度、あらゆる魔法を使っての試合が行われるのです。
 試合といっても、授業の一環としての試合ですので、制限時間が設けられ、先生方の審判と万が一に備えての守護の体制がひかれている安全に配慮したものです。
 そのような安全な試合でも、今までは、私はまだ技術が足りないということで、試合でけがをした人の治癒をする係としてしか参加ができませんでした。
 私には治癒の魔法は生まれつき魔力の使い方が備わっているのですが、それ以外の魔力の使い方は練習を積み重ねて徐々に使えるようになっていくのです。
 結界を張るような守護の魔法は、私の体質と相性が良いようで、学園に入る前に叔父様やシャーリーに教えてもらったおかげで既にある程度習得できています。
 ところが、攻撃の魔法は私にはなかなか難しく、授業が終わっても練習場で練習をしなければ、クラスの皆さんについていけない状態でした。
 
 ですが、先週、とうとう先生から参加を認めてもらえたのです。
 試合は、学園の敷地のかなりの部分を占める円形劇場で行われます。
 学園の生徒を学年で5つのグループに分けて、同じグループの中で戦います。
 私たちは、上から2番目のグループです。私はグループの中では最年少です…。
 ちなみに一年に一度は、一番上の最上級学年のグループでの制限時間のない勝ち抜き戦が行われ、それは大変な盛り上がりを見せるそうです。
 
 ジェニーが、ぽんっと私の肩を叩きました。
「それでは、初試合に行きましょう」
 アリスも大きく頷いて、私たちは準備に向かいました。
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