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第2章
疑問が生まれた日(ダニエル)
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それでいいのか?それで…、刺客を防げるのか…?
◇
あいつは、予想通り体の成長とともに魔力の強さも増していった。
初めの対戦の時には俺の胸の高さよりも低かったあいつは、今では肩に届かんばかりになっている。魔力の容量も増えたのだろう。
俺が必死に練習して、何とか引き分けか運が良ければ勝つ、そんな具合だった。
あいつの成長は予想の範囲内で覚悟もしていたが、もう少し時間がかかると思っていた。
俺はあいつに全力を出させる相手になっているのか、不安になることもあった。
そんな時だった。
突然の模範演技に、俺は足元が崩れるほどの衝撃を受けた。
離れた位置から技をかけあい、お互い位置を移動することもほとんどない「試合」しか経験していない俺には、「現実」の戦いを見せつけられた思いだった。
あいつは立ちあがって震えながら試合を見つめていた。
生きるために訓練しているあいつには、「死」を突き付けられるものだろう。
劇場から逃げるように走り去るあいつの背中を見ながら、俺は自分の不甲斐なさにも打ちのめされた。
俺がもっと強く、あいつの脅威になっていれば、あいつはあそこまでの衝撃を受けずに済んでいただろう。
俺はあいつに「死」を思い浮かばせるほどの攻撃など成功したことがなかったのだ。
俺は自分が情けなかった。
胸の中の苦いものを抑え込んでいると、深く貫くような声が隣から聞こえた。
「お前が、ダニエルか」
もう一人の覆面の男だった。
覆面をしていても、男が誰だかは分かっていた。ウィンデリア国に銀の魔力を持つものは一人しかいない。
ハリー守護師だ。確か、あいつの叔父でもあったはずだ。
「何か御用ですか」
苦いものがまだ抑えきれない俺は、やや億劫に思いながら答えた。
その瞬間、刺さるような銀の魔力が立ち上り、アリソンは後ずさりした。いや、魔力を感じることのできるやつは全員後ずさりしている。劇場は静まり返った。
だが、俺は別のことに意識がとられていた。
確かに、守護師の魔力は人間と思えない量と強さだ。
なのに、俺はたいして驚いていないのはなぜなんだ?
ふと答えがよぎった。
そうだ、初めての試合の時、あいつの魔力の放出を肌に感じる近さで見たからだ。
あいつからも守護師と同じ人間とは思えない魔力を感じた。もちろん守護師より十倍は小さいが、いわば「種」としてはあいつと守護師は同じ種だ。
「なるほど、なかなかの相手のようだな」
深く染みとおるような声が、俺の思考を断ち切った。
「シルヴィはお前に勝てることを目標にしている。あいつの目標になってくれていることに、叔父として礼を言う」
魔力を感じる深い声が、一瞬前まで受け入れがたかった「目標」という位置づけを、事実として受け止めさせられた。
俺は、あいつの「目標」になっていたのか。これでも。
あの騎士の足元にも及ばない、俺が。
複雑な思いで、対戦場をみたとき、騎士の姿はなかった。
魔力の名残がある。転移か?
「ほぼ3年ぶりだからな。しばらくは見逃してやる。しばらくだけだ」
よく分からないことを、再び刺さるような魔力を立ち上らせながら、守護師は呟いていた。
そして、その後、あいつの戦い方が変わった。
始めは、あいつの新しくなった封印石のためかと思ったが、どうやら違った。
勝つために攻撃を加え続けるのでなく、どうも退路を確保することを想定した戦い方をするようになった。
弱くなったわけではない。むしろ魔力の放出の大きさと種類は増えたぐらいだ。
あいつはクリス先輩の結界まで解除できるようになった。
「魔法を魔素まで分解したのです」
さらりと高度な技を言ってのけ、あいつは俺の手を取って、魔法の組み方を誘導してくれた。
あいつのお陰で俺にも何とかわずかに分解できると――本当にわずかだったが――あいつはうれしそうに輝くような笑みを浮かべて俺を見上げた。
―ッ!
俺は初めてあいつのことを可愛いと思った。
アリソンの気持ちが分かる。確かにこの笑顔は可愛い。
隣のアリソンが「あぁっ」ともだえるような声を上げている。
俺は頬が熱くなり何だか思考が飛びそうな気配がしたが、あいつの言葉を何とか聞いていた。
封印石を作った過程で身に着けた方法だとあいつは話し、最後にこう締めくくった。
「封印を変えたので、力の放出に縛りがなくなったのです」
必死に話が終わるまで意識をつなぎ留め、ようやく別れて歩き出したとき、俺は突然足が止まった。
背中にアリソンがぶつかり、文句を言っていたが全く聞いていなかった。
お前、縛りがなくなったのに、全力で攻撃を出していないじゃないか。
新しい封印石での試合で、一度も封印石は光らなかった。
相手に怪我をさせないためではないはずだ。
アレクサンドラ先輩の木に攻撃を加えても先輩に被害は及ばない。
背筋が寒くなるような予想が俺の頭によぎった。
幼いころからの習慣で、無意識に力を抑制することが抜けないのか?
意識して全力を出す技が、身についていないのか?
お前、それでは、刺客に対して…
俺はしばらく動けないままだった。
◇
あいつは、予想通り体の成長とともに魔力の強さも増していった。
初めの対戦の時には俺の胸の高さよりも低かったあいつは、今では肩に届かんばかりになっている。魔力の容量も増えたのだろう。
俺が必死に練習して、何とか引き分けか運が良ければ勝つ、そんな具合だった。
あいつの成長は予想の範囲内で覚悟もしていたが、もう少し時間がかかると思っていた。
俺はあいつに全力を出させる相手になっているのか、不安になることもあった。
そんな時だった。
突然の模範演技に、俺は足元が崩れるほどの衝撃を受けた。
離れた位置から技をかけあい、お互い位置を移動することもほとんどない「試合」しか経験していない俺には、「現実」の戦いを見せつけられた思いだった。
あいつは立ちあがって震えながら試合を見つめていた。
生きるために訓練しているあいつには、「死」を突き付けられるものだろう。
劇場から逃げるように走り去るあいつの背中を見ながら、俺は自分の不甲斐なさにも打ちのめされた。
俺がもっと強く、あいつの脅威になっていれば、あいつはあそこまでの衝撃を受けずに済んでいただろう。
俺はあいつに「死」を思い浮かばせるほどの攻撃など成功したことがなかったのだ。
俺は自分が情けなかった。
胸の中の苦いものを抑え込んでいると、深く貫くような声が隣から聞こえた。
「お前が、ダニエルか」
もう一人の覆面の男だった。
覆面をしていても、男が誰だかは分かっていた。ウィンデリア国に銀の魔力を持つものは一人しかいない。
ハリー守護師だ。確か、あいつの叔父でもあったはずだ。
「何か御用ですか」
苦いものがまだ抑えきれない俺は、やや億劫に思いながら答えた。
その瞬間、刺さるような銀の魔力が立ち上り、アリソンは後ずさりした。いや、魔力を感じることのできるやつは全員後ずさりしている。劇場は静まり返った。
だが、俺は別のことに意識がとられていた。
確かに、守護師の魔力は人間と思えない量と強さだ。
なのに、俺はたいして驚いていないのはなぜなんだ?
ふと答えがよぎった。
そうだ、初めての試合の時、あいつの魔力の放出を肌に感じる近さで見たからだ。
あいつからも守護師と同じ人間とは思えない魔力を感じた。もちろん守護師より十倍は小さいが、いわば「種」としてはあいつと守護師は同じ種だ。
「なるほど、なかなかの相手のようだな」
深く染みとおるような声が、俺の思考を断ち切った。
「シルヴィはお前に勝てることを目標にしている。あいつの目標になってくれていることに、叔父として礼を言う」
魔力を感じる深い声が、一瞬前まで受け入れがたかった「目標」という位置づけを、事実として受け止めさせられた。
俺は、あいつの「目標」になっていたのか。これでも。
あの騎士の足元にも及ばない、俺が。
複雑な思いで、対戦場をみたとき、騎士の姿はなかった。
魔力の名残がある。転移か?
「ほぼ3年ぶりだからな。しばらくは見逃してやる。しばらくだけだ」
よく分からないことを、再び刺さるような魔力を立ち上らせながら、守護師は呟いていた。
そして、その後、あいつの戦い方が変わった。
始めは、あいつの新しくなった封印石のためかと思ったが、どうやら違った。
勝つために攻撃を加え続けるのでなく、どうも退路を確保することを想定した戦い方をするようになった。
弱くなったわけではない。むしろ魔力の放出の大きさと種類は増えたぐらいだ。
あいつはクリス先輩の結界まで解除できるようになった。
「魔法を魔素まで分解したのです」
さらりと高度な技を言ってのけ、あいつは俺の手を取って、魔法の組み方を誘導してくれた。
あいつのお陰で俺にも何とかわずかに分解できると――本当にわずかだったが――あいつはうれしそうに輝くような笑みを浮かべて俺を見上げた。
―ッ!
俺は初めてあいつのことを可愛いと思った。
アリソンの気持ちが分かる。確かにこの笑顔は可愛い。
隣のアリソンが「あぁっ」ともだえるような声を上げている。
俺は頬が熱くなり何だか思考が飛びそうな気配がしたが、あいつの言葉を何とか聞いていた。
封印石を作った過程で身に着けた方法だとあいつは話し、最後にこう締めくくった。
「封印を変えたので、力の放出に縛りがなくなったのです」
必死に話が終わるまで意識をつなぎ留め、ようやく別れて歩き出したとき、俺は突然足が止まった。
背中にアリソンがぶつかり、文句を言っていたが全く聞いていなかった。
お前、縛りがなくなったのに、全力で攻撃を出していないじゃないか。
新しい封印石での試合で、一度も封印石は光らなかった。
相手に怪我をさせないためではないはずだ。
アレクサンドラ先輩の木に攻撃を加えても先輩に被害は及ばない。
背筋が寒くなるような予想が俺の頭によぎった。
幼いころからの習慣で、無意識に力を抑制することが抜けないのか?
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俺はしばらく動けないままだった。
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