38 / 74
第3章
初めてのダンスと殿下
しおりを挟む
今日の舞踏会は殿下主催のものです。
ですが、公的な行事ではなく「ごくごく少数のささやかなもの」とセディから話を聞いていました。
広間に着いた私にはそれでも「かなりの人数」の華やかなものに思えました。
色とりどりのドレスがあちらこちらで花を咲かせているようです。
セディが広間に足を踏み入れた途端、広間の視線がセディに集まり、水を打ったように静まり返っています。
視線も静けさも全く気に留めず、セディは私を連れて真っ先に殿下に挨拶に向かいました。
セディが歩くにつれ、あちらこちらから思わずといったようにため息が漏れているのが耳に入ります。
驚いたことに溜息は男女を問わず漏れているようです。
セディの歩く先に、自然と目が惹き付けられる存在感を放つ金の髪の男性が、幾人かの方から挨拶を受けています。
殿下です。
淡い青を基調とした上下に、白のベスト、飾りは金糸で鮮やかに縫い込まれ、殿下の華やかな外見を引き立てています。
殿下は、ふとセディに気づき、わざわざこちらに歩いてこられます。
ゆったりとした足取りで歩かれる殿下は、周りに自然と道を開けさせる、5年前にはなかった王太子としての風格を漂わせています。
艶やかな金の髪と濃い青の瞳は5年前と変わりません。
眩い笑顔を通り過ぎる全ての女性に振り向けています。
5年前よりも笑顔の振り向け方に、意図を感じる気がします…。
頬を染めたご令嬢たちに、会釈とともに一瞬ご令嬢に甘く視線を絡め、さらにご令嬢の頬を赤く染め上げてゆっくり通り過ぎていきます。
「会いたかったよ、私の天使」
気が付けば、艶めく甘さのある声が間近で聞こえます。
殿下はセディと私の前に立たれていました。
私は我に返り、慌てて作法に適った礼をしようと膝を折ろうとすると、殿下は艶やかな笑顔を見せながら、私の手を取られます。
「今日は行事ではないからね。その天使の顔を私にもっと見せておくれ」
私を引き上げて、一段と笑顔を深めています。ちらりと視線を動かされました。
「この可憐さのお陰だろうか、今日は顔の筋肉が動くようだな、セディ」
胸に痛みが走ります。私だけでなく、殿下に対しても、つまり誰に対しても、何に対しても心が凍りついているのでしょうか。殿下を見つめ返すセディの横顔は、ほんの少し強張ったように感じます。
殿下は私に視線を戻され、囁かれました。
「そんな顔をしないで、天使にそんな顔をされると私も辛い」
5年前と変わらず、可能な限り私のことを「天使」と呼ぶ殿下は、私の手の甲に口づけをなさろうとします。隣のセディからほんの一瞬、魔力が微かに立ち上りました。
「殿下、この明るい曲のうちにシルヴィをダンスに誘いたいのですが」
平淡な声で殿下を遮り、私の肩に手を添えてわずかに殿下から遠ざけました。
殿下は目を見開いて、その後、ふわりと笑顔を浮かべました。
初めて見る、柔らかな自然な笑顔です。
「さすが、天使のこととなると動くのだな」
笑いを含んだ艶やかな声で送り出されました。
「楽しんでおいで、シルヴィ」
二人でダンスの場所まで行くと、音楽が一段と近くなり心も少し沸き立ちます。
既に数組のペアが軽やかにダンスを楽しんでいます。
セディがスッと足を止め、私から一歩離れて姿勢を正しました。
「僕とダンスをお願いできますか、シルヴィア嬢」
胸に手を当て、正式に誘ってくれたのです。
広間はどよめきに包まれました。
一体、何があったのでしょう。
気にするべきことですが、今の私は目の前のセディのことが全てです。
頬が熱くなるのを感じながら、封印石を光らせながら、私はセディに手を差し出しました。
「喜んで」
二人で曲に合わせてステップを踏みだします。
私より背が高く、胸も広くなったセディは、私を包み込むように、守るようにリードしてくれます。
セディはほんのわずかに口角を上げて、私から視線を離さず、私に合わせた歩幅で滑らかにステップを踏み続けてくれます。
ターンするときは、腰に当てた手に少し力を籠め、私をしっかり支えてくれます。
セディの優しさを感じて、再び封印石が光りました。
「セディ、ありがとう」
精一杯の思いを込めて、囁きます。
セディの顔に疑問が浮かびます。
「初めての舞踏会にエスコートしてくれて、初めてのダンスの相手も務めてくれて」
口に出すとさらに思いがこみ上がり、私は頬が緩むのを感じました。
セディは眩しそうに目を細め、ほんの一瞬、手に力を込めた後、よく通る声が降ってきました。
「僕こそ、君の初めての相手を務められて、うれしいと感じている。
こんな状態だけど、確かに胸の中にうれしさがある。あるんだ、シルヴィ」
苦し気に目を細めながらも、懸命に心を取り出してくれるセディの誠実さが温かくて、切なくて私は瞳を閉じて頷いていました。
ダンスでセディと近い距離にいても、その胸にしがみついて距離を縮めたくなる気持ちを抑えて、私はセディのリードに身を任せていました。
気が付けば3曲を踊り続けたとき、艶やかな声が投げかけられました。
「そろそろ、私も天使と躍らせてくれないかい」
ですが、公的な行事ではなく「ごくごく少数のささやかなもの」とセディから話を聞いていました。
広間に着いた私にはそれでも「かなりの人数」の華やかなものに思えました。
色とりどりのドレスがあちらこちらで花を咲かせているようです。
セディが広間に足を踏み入れた途端、広間の視線がセディに集まり、水を打ったように静まり返っています。
視線も静けさも全く気に留めず、セディは私を連れて真っ先に殿下に挨拶に向かいました。
セディが歩くにつれ、あちらこちらから思わずといったようにため息が漏れているのが耳に入ります。
驚いたことに溜息は男女を問わず漏れているようです。
セディの歩く先に、自然と目が惹き付けられる存在感を放つ金の髪の男性が、幾人かの方から挨拶を受けています。
殿下です。
淡い青を基調とした上下に、白のベスト、飾りは金糸で鮮やかに縫い込まれ、殿下の華やかな外見を引き立てています。
殿下は、ふとセディに気づき、わざわざこちらに歩いてこられます。
ゆったりとした足取りで歩かれる殿下は、周りに自然と道を開けさせる、5年前にはなかった王太子としての風格を漂わせています。
艶やかな金の髪と濃い青の瞳は5年前と変わりません。
眩い笑顔を通り過ぎる全ての女性に振り向けています。
5年前よりも笑顔の振り向け方に、意図を感じる気がします…。
頬を染めたご令嬢たちに、会釈とともに一瞬ご令嬢に甘く視線を絡め、さらにご令嬢の頬を赤く染め上げてゆっくり通り過ぎていきます。
「会いたかったよ、私の天使」
気が付けば、艶めく甘さのある声が間近で聞こえます。
殿下はセディと私の前に立たれていました。
私は我に返り、慌てて作法に適った礼をしようと膝を折ろうとすると、殿下は艶やかな笑顔を見せながら、私の手を取られます。
「今日は行事ではないからね。その天使の顔を私にもっと見せておくれ」
私を引き上げて、一段と笑顔を深めています。ちらりと視線を動かされました。
「この可憐さのお陰だろうか、今日は顔の筋肉が動くようだな、セディ」
胸に痛みが走ります。私だけでなく、殿下に対しても、つまり誰に対しても、何に対しても心が凍りついているのでしょうか。殿下を見つめ返すセディの横顔は、ほんの少し強張ったように感じます。
殿下は私に視線を戻され、囁かれました。
「そんな顔をしないで、天使にそんな顔をされると私も辛い」
5年前と変わらず、可能な限り私のことを「天使」と呼ぶ殿下は、私の手の甲に口づけをなさろうとします。隣のセディからほんの一瞬、魔力が微かに立ち上りました。
「殿下、この明るい曲のうちにシルヴィをダンスに誘いたいのですが」
平淡な声で殿下を遮り、私の肩に手を添えてわずかに殿下から遠ざけました。
殿下は目を見開いて、その後、ふわりと笑顔を浮かべました。
初めて見る、柔らかな自然な笑顔です。
「さすが、天使のこととなると動くのだな」
笑いを含んだ艶やかな声で送り出されました。
「楽しんでおいで、シルヴィ」
二人でダンスの場所まで行くと、音楽が一段と近くなり心も少し沸き立ちます。
既に数組のペアが軽やかにダンスを楽しんでいます。
セディがスッと足を止め、私から一歩離れて姿勢を正しました。
「僕とダンスをお願いできますか、シルヴィア嬢」
胸に手を当て、正式に誘ってくれたのです。
広間はどよめきに包まれました。
一体、何があったのでしょう。
気にするべきことですが、今の私は目の前のセディのことが全てです。
頬が熱くなるのを感じながら、封印石を光らせながら、私はセディに手を差し出しました。
「喜んで」
二人で曲に合わせてステップを踏みだします。
私より背が高く、胸も広くなったセディは、私を包み込むように、守るようにリードしてくれます。
セディはほんのわずかに口角を上げて、私から視線を離さず、私に合わせた歩幅で滑らかにステップを踏み続けてくれます。
ターンするときは、腰に当てた手に少し力を籠め、私をしっかり支えてくれます。
セディの優しさを感じて、再び封印石が光りました。
「セディ、ありがとう」
精一杯の思いを込めて、囁きます。
セディの顔に疑問が浮かびます。
「初めての舞踏会にエスコートしてくれて、初めてのダンスの相手も務めてくれて」
口に出すとさらに思いがこみ上がり、私は頬が緩むのを感じました。
セディは眩しそうに目を細め、ほんの一瞬、手に力を込めた後、よく通る声が降ってきました。
「僕こそ、君の初めての相手を務められて、うれしいと感じている。
こんな状態だけど、確かに胸の中にうれしさがある。あるんだ、シルヴィ」
苦し気に目を細めながらも、懸命に心を取り出してくれるセディの誠実さが温かくて、切なくて私は瞳を閉じて頷いていました。
ダンスでセディと近い距離にいても、その胸にしがみついて距離を縮めたくなる気持ちを抑えて、私はセディのリードに身を任せていました。
気が付けば3曲を踊り続けたとき、艶やかな声が投げかけられました。
「そろそろ、私も天使と躍らせてくれないかい」
1
あなたにおすすめの小説
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
好きでした、婚約破棄を受け入れます
たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……?
※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。
婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました
Blue
恋愛
幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる