恋の締め切りには注意しましょう

石里 唯

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第3章

決着の日2

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清らかな銀の光は厳しい程に強まり、闇を払っていきます。
私は、廊下に倒れている騎士や魔法使いたちを会場へ転移しました。
それを見届けたのでしょう。
叔父様の声が頭に響きます。

『私のための約束を守りなさい』

もちろん守ります。これが終わったらですが。

ピクリと肩を揺らした叔父様を横目に、私は叔父様の机の黒い箱を転移させました。
学園で作った私の封印石を取り出します。
こんなときなのに笑いそうになります。
封印石が暴発しないように石の周りに叔父様の結界が張り巡らされています。
私は魔力を使い、石を赤い光の魔法使いへ放ちました。
叔父様が石の封印を解きます。
白金の閃光が放たれ封印が発動しました。
闇が薄まっていきます。
ここから先は叔父様にお任せします。

『叔父様、私のための約束を守ってください』

叔父様に思念を投げかけながら、私は会場へ転移しました。





俺たちがあいつに転移させられた先の会場は阿鼻叫喚の状態だった。
あの赤い光の魔法使いの闇は会場まで届き、容赦なく体も心も蝕んでいる。
招待客の呻き声が上がっていない場所はなかった。
刺客が会場にも3人いたようだが、近衛に取り囲まれる形で蹲っている。
近衛も剣を杖にして膝をついている。


もはや敵は刺客ではなかった。
この底なしの沼のような悪意だ。
あいつの球形結界を通しても染み込んでくるこの悪意にどう攻撃していいのか俺は分からなかった。
会場にいる魔法使いの皆もほとんどが蹲っている。
立っている魔法使いも自分の結界を維持するのに手一杯だ。

「殿下、今は剣を仕舞ってください。結界は狭いですから」
よく通る声が耳に入った。

隣のセドリックが端然とした佇まいで、ふらつく殿下を支えている。
「なぜ、お前は平気なんだ?」
真似が出来れば解決の糸口になると期待し、俺は尋ねた。

淡い緑の瞳が柔らかく輝いた。
「シルヴィの魔力が体に流れているからだと自分では思っている」
俺は納得した。あいつも悪意には呑まれていなかった。
困った、それでは俺が真似することはできない。
いや、自分に治癒をかければいいのか?

セディの顔が、いたずらを見つけられたような表情になった。
「他の要因としては、心を閉ざした状態だからだとも思っている」

地を這うような声が、まだ青ざめた状態の殿下から発せられた。
「…セディ、もしかして、敢えて心を閉ざしたままにしていたのではないか?」

セディはくるりと殿下を振り返り、爽やかな声で返した。
「殿下、まだ顔が青いです。僕は治癒はあまり得意ではありませんが、試してみましょう」
「その前に、答えを返せ」
「今の優先順位は殿下の治癒です」
「セディッ!」

二人は置いておいて、ひとまずあいつの結界を補強しようとしたとき、会場に白金の光の玉が現れ、騎士たちが転移してきた。皆、意識はなかったが。
あいつが防御以外に力を割けた証だ。
守護師があの場に転移したのだろう。
俺は希望が沸き上がった。

そして白金の光とともにあいつが現れた。
と同時に、少し遠くから守護師の魔力の波動が押し寄せた。
城を吹き飛ばすのではないかと思える強さだ。
――これが守護師の本来の力
あまりの強さに俺は総毛立った。

あいつは守護師を心配したのか微かに眉を顰め、首を振り、その後、会場を見て息を呑んだ。
薄い青の瞳がこちらに向く。
ゆっくりとあいつが俺たちに向かって歩き出した。
一足進むごとにあいつから白金の光が立ち上り、強さを増していく。
あいつが通り過ぎた場所では呻き声が弱まっていく。
そして、シルヴィは俺たちの前に立った。あいつの白金の髪は強い光で見えなくなっていた。

「セディ、暴走はしません」
シルヴィは真摯な思いを告げた。俺の隣でセドリックが胸に手を置いて頷く。
「信じているよ」
ふわりと花が綻ぶようにシルヴィが笑った。
久しぶりのその顔に、こんな時でも俺は胸が高鳴った。
シルヴィは俺にも目を向けた。
「先輩、私を護ってください」
俺は一瞬鼓動が止まった気がした。何をする気だ?
それでもこいつの頼みは断れない。
俺は頷いた。
シルヴィはもう一度ふわりと笑みを浮かべると、一歩下がった。

薄い青の瞳はゆっくりと閉じられ、静かな囁きが聞こえた。

「私、魔法使いシルヴィア・ルシル・ハルベリーは、私の全ての魔力を治癒に解放します」

言葉が終わった瞬間、すべてが白金の光で埋め尽くされた。

俺はこの瞬間を、この感覚を生涯忘れない。

目を閉じても光は入り込んでくる。
シルヴィの魔力の波動が押し寄せた。
それは強かった。強さが分からない程強かった。

それは守護師の何もかも薙ぎ払うような強さとは違った。
何もかもに浸み込む強さだった。

あいつの魔力が俺の体にも浸み込んでくる。
俺の身体はあらゆるところが隅々まで癒され、満たされ、喜びに震えた。
身体の喜びとともに、自分の存在を許され、祝われた心地がした。

これが、あいつの『真の力』
守護師、貴方の予知は正しかった。
俺はこの瞬間を、この感覚を生涯忘れない。いや、忘れることなどできないだろう。

白金の光と銀の光が重なり合う。
祝福と清浄さが満ち溢れ、仙郷に招かれた思いだった。
俺は何もかも忘れて、ただこの至福の浄福に全てを委ねた。

そして、光が収まった。
身体に至福の余韻を残しながら、この世に引き戻された俺は、薄っすらと白金の魔力を身にまとったシルヴィアが目に入った。
皆を癒せたことにふわりと笑みを見せたその顔は、守護師とよく似た、打たれるような神々しさがあった。

俺があいつを護る必要はなかった。
会場にいる人間は、刺客も含めて皆、あいつに向かって跪いて畏敬の念を示していた。

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