71 / 74
第3章
セディの誓い
しおりを挟む
とても困っています。
なぜだか皆さんが跪いているのです。
それもどうやら私に向かって跪いているのです。
何とか止めていただきたいと静まり返った広間で狼狽える私の耳に、柔らかくよく通る声が小さく優しく呼びかけました。
「シルヴィ」
柔らかな淡い緑の瞳が、優しく私を見つめています。
そして迎えるように両手を広げてくれたのです。
気が付けば足を踏み出していた私は、力強く抱き込まれました。
服を通しても伝わる鍛えられた体の温もりを感じた途端、涙が溢れてきます。
自分でもなぜ涙が止まらないのか分かりません。
殿下の暗殺が未遂に終わった安堵でしょうか。セディが無事だった安堵でしょうか。
苦しい程強く抱きしめてくれるセディの腕に、学園を卒業してから初めて、セディの下に確かに帰ってきたことを感じられます。
もうこの場所から、この温もりから離れたくはありませんでした。
セディの温かな手は、私の頭を優しく撫でてくれます。
会えない日には、セディの顔を遠くからでも見られなかった日には、話したいことが数えきれないほどありました。
ですが、今は、ただ、セディを抱きしめるだけで胸が一杯で、何も浮かびません。
「セディ」
セディの名前だけが口から何度も零れていきます。
セディは、私の髪に、額に、頬に口づけながら、何度も私の名を囁き返してくれます。
私の頬を両手で包み込み、淡い緑の瞳が私を捕らえました。
優しい瞳は、強さと切なさを湛え、私の鼓動は高まりました。
「シルヴィ、僕の誕生日は少し先だけど」
セディは長いまつ毛で瞳を隠し、私の額に額を合わせました。そして、息を吸い込んだ後、囁きました。
『僕の願いを叶えて欲しい』
セディの心の声です。
学園に行く前は、セディに近づくといつも聞くことのできた、セディの心の声でした。
身体に光が駆け抜けた気がしました。私は再び涙を溢れさせながら、頷きました。
「何なりと」
輝くような笑顔をセディは浮かべます。私はあらゆることを全て忘れて見惚れていました。
やがて笑顔は穏やかに収まり、強く熱い眼差しが向けられました。
『私、セドリック・アンドリュー・フォンドは、私の魔力、私の全てをかけて、生涯の愛を誓います』
セディは目を閉じ、ゆっくりと顔を近づけました。顎に柔らかな茶色の髪が触れ、首元に熱く柔らかな唇を感じ、私は自分の脈を感じました。
熱い唇が更に押し当てられたとき、脈に沿ってセディの魔力が私に入り込み、体を駆け巡ったのです。
身体は沸き立つような歓喜をもって、待ちわびていたように魔力を受け入れます。
魔力は隅々に沁み渡り、爪の先までセディの魔力に満たされた感覚がしました。
そして、時間をかけてセディの唇はゆっくりと離れていきました。
離れてしまった熱を私の肌は恋しがっていましたが、見ることはできなくとも、しっかりと刻みつけられた印から、脈打つたびに、セディの魔力を感じ取れます。
私が付けた印も同じようにセディの脈を感じ、魔力が流れていきます。
確かな繋がりがセディと私にできていました。
『シルヴィ、愛してる』
「私も…、…愛し…」
気持ちを確かに言葉にしたいのに、涙で言葉がつかえてしまいます。
セディは目を細めクスリと笑って、私の涙に口づけてくれます。
涙をたどって口づけが頬を滑り、私は触れられた肌が熱く脈を打つ気がしました。
顎まで滑り下りた口づけはそこで止まり、涙を吸われたとき、灼かれたような熱を帯び、私は息を呑みました。
その瞬間、セディは私の口を唇で塞ぎました。
セディの熱い唇は、私の唇まで熱くします。重なった口からお互いの高まった魔力が流れ込み、体を駆け巡ります。
駆け巡る魔力と歓喜の熱で、溶けそうな気がします。私の息は乱れました。
セディも熱い吐息を零しながら、何度も私の唇を啄みます。
セディが私の頭を抱え込み、一際強く唇を押し当てた時、凍りつくような強い魔力と沁み通る声が漂いました。
「いつまで続けるつもりだ」
叔父様です。
我に返り、離れようとしましたが、セディは私を抱え込み、口づけたままです。
私の耳は、広間のいたるところで起きている咳払いを捉えました。
たくさんの人の前で、私は何ていうことを…
今は恥ずかしさで体中から火が出そうな思いです。
気もそぞろになった私を感じ取り、セディがようやく口を解放してくれました。
それでもしっかりと私を抱え込み、髪に口づけています。
叔父様の呆れたような溜息が聞こえた気がしました。
そして、広間に清らかな魔力を満たしながら、美しい歌のように言葉を紡ぎました。
「守護師ハリーは、ここに二人が婚姻の儀を成したことを宣誓する」
先輩から息を呑む音がした後、声が上がりました。
「魔法使いダニエルも宣誓する」
それが合図だったかのように、次々と声が上がります。
「魔法使いトレントも宣誓する」
「魔法使いエレンも宣誓する」
「魔法使いフィリップも宣誓する」
広間にいる皆さんが続々と宣誓し、全員が宣誓し終わると、一瞬の静寂が広間に訪れました。
隣に佇む殿下が、ゆっくりと手を上げました。
「王太子、リチャード・アレクサンダー・ウィンドは、二人の婚姻を認め、祝福を贈る」
広間に声が響き渡った後、一斉に拍手が沸き起こりました。
魔法使いの皆さんは、即席の魔法石を浮かべ広間は色とりどりの光が溢れました。
皆さんがお祝いに駆け寄ってくれます。
そんな中、殿下がひそやかに耳元で囁きました。
「おめでとう、シルヴィ。君の見事な勝利だ」
見上げた殿下の顔は、ふわりと柔らかな、そして晴れやかな笑顔でした。
なぜだか皆さんが跪いているのです。
それもどうやら私に向かって跪いているのです。
何とか止めていただきたいと静まり返った広間で狼狽える私の耳に、柔らかくよく通る声が小さく優しく呼びかけました。
「シルヴィ」
柔らかな淡い緑の瞳が、優しく私を見つめています。
そして迎えるように両手を広げてくれたのです。
気が付けば足を踏み出していた私は、力強く抱き込まれました。
服を通しても伝わる鍛えられた体の温もりを感じた途端、涙が溢れてきます。
自分でもなぜ涙が止まらないのか分かりません。
殿下の暗殺が未遂に終わった安堵でしょうか。セディが無事だった安堵でしょうか。
苦しい程強く抱きしめてくれるセディの腕に、学園を卒業してから初めて、セディの下に確かに帰ってきたことを感じられます。
もうこの場所から、この温もりから離れたくはありませんでした。
セディの温かな手は、私の頭を優しく撫でてくれます。
会えない日には、セディの顔を遠くからでも見られなかった日には、話したいことが数えきれないほどありました。
ですが、今は、ただ、セディを抱きしめるだけで胸が一杯で、何も浮かびません。
「セディ」
セディの名前だけが口から何度も零れていきます。
セディは、私の髪に、額に、頬に口づけながら、何度も私の名を囁き返してくれます。
私の頬を両手で包み込み、淡い緑の瞳が私を捕らえました。
優しい瞳は、強さと切なさを湛え、私の鼓動は高まりました。
「シルヴィ、僕の誕生日は少し先だけど」
セディは長いまつ毛で瞳を隠し、私の額に額を合わせました。そして、息を吸い込んだ後、囁きました。
『僕の願いを叶えて欲しい』
セディの心の声です。
学園に行く前は、セディに近づくといつも聞くことのできた、セディの心の声でした。
身体に光が駆け抜けた気がしました。私は再び涙を溢れさせながら、頷きました。
「何なりと」
輝くような笑顔をセディは浮かべます。私はあらゆることを全て忘れて見惚れていました。
やがて笑顔は穏やかに収まり、強く熱い眼差しが向けられました。
『私、セドリック・アンドリュー・フォンドは、私の魔力、私の全てをかけて、生涯の愛を誓います』
セディは目を閉じ、ゆっくりと顔を近づけました。顎に柔らかな茶色の髪が触れ、首元に熱く柔らかな唇を感じ、私は自分の脈を感じました。
熱い唇が更に押し当てられたとき、脈に沿ってセディの魔力が私に入り込み、体を駆け巡ったのです。
身体は沸き立つような歓喜をもって、待ちわびていたように魔力を受け入れます。
魔力は隅々に沁み渡り、爪の先までセディの魔力に満たされた感覚がしました。
そして、時間をかけてセディの唇はゆっくりと離れていきました。
離れてしまった熱を私の肌は恋しがっていましたが、見ることはできなくとも、しっかりと刻みつけられた印から、脈打つたびに、セディの魔力を感じ取れます。
私が付けた印も同じようにセディの脈を感じ、魔力が流れていきます。
確かな繋がりがセディと私にできていました。
『シルヴィ、愛してる』
「私も…、…愛し…」
気持ちを確かに言葉にしたいのに、涙で言葉がつかえてしまいます。
セディは目を細めクスリと笑って、私の涙に口づけてくれます。
涙をたどって口づけが頬を滑り、私は触れられた肌が熱く脈を打つ気がしました。
顎まで滑り下りた口づけはそこで止まり、涙を吸われたとき、灼かれたような熱を帯び、私は息を呑みました。
その瞬間、セディは私の口を唇で塞ぎました。
セディの熱い唇は、私の唇まで熱くします。重なった口からお互いの高まった魔力が流れ込み、体を駆け巡ります。
駆け巡る魔力と歓喜の熱で、溶けそうな気がします。私の息は乱れました。
セディも熱い吐息を零しながら、何度も私の唇を啄みます。
セディが私の頭を抱え込み、一際強く唇を押し当てた時、凍りつくような強い魔力と沁み通る声が漂いました。
「いつまで続けるつもりだ」
叔父様です。
我に返り、離れようとしましたが、セディは私を抱え込み、口づけたままです。
私の耳は、広間のいたるところで起きている咳払いを捉えました。
たくさんの人の前で、私は何ていうことを…
今は恥ずかしさで体中から火が出そうな思いです。
気もそぞろになった私を感じ取り、セディがようやく口を解放してくれました。
それでもしっかりと私を抱え込み、髪に口づけています。
叔父様の呆れたような溜息が聞こえた気がしました。
そして、広間に清らかな魔力を満たしながら、美しい歌のように言葉を紡ぎました。
「守護師ハリーは、ここに二人が婚姻の儀を成したことを宣誓する」
先輩から息を呑む音がした後、声が上がりました。
「魔法使いダニエルも宣誓する」
それが合図だったかのように、次々と声が上がります。
「魔法使いトレントも宣誓する」
「魔法使いエレンも宣誓する」
「魔法使いフィリップも宣誓する」
広間にいる皆さんが続々と宣誓し、全員が宣誓し終わると、一瞬の静寂が広間に訪れました。
隣に佇む殿下が、ゆっくりと手を上げました。
「王太子、リチャード・アレクサンダー・ウィンドは、二人の婚姻を認め、祝福を贈る」
広間に声が響き渡った後、一斉に拍手が沸き起こりました。
魔法使いの皆さんは、即席の魔法石を浮かべ広間は色とりどりの光が溢れました。
皆さんがお祝いに駆け寄ってくれます。
そんな中、殿下がひそやかに耳元で囁きました。
「おめでとう、シルヴィ。君の見事な勝利だ」
見上げた殿下の顔は、ふわりと柔らかな、そして晴れやかな笑顔でした。
1
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
悪役令嬢と氷の騎士兄弟
飴爽かに
恋愛
この国には国民の人気を2分する騎士兄弟がいる。
彼らはその美しい容姿から氷の騎士兄弟と呼ばれていた。
クォーツ帝国。水晶の名にちなんだ綺麗な国で織り成される物語。
悪役令嬢ココ・レイルウェイズとして転生したが美しい物語を守るために彼らと助け合って導いていく。
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始
婚約破棄された令嬢は“図書館勤務”を満喫中
かしおり
恋愛
「君は退屈だ」と婚約を破棄された令嬢クラリス。社交界にも、実家にも居場所を失った彼女がたどり着いたのは、静かな田舎町アシュベリーの図書館でした。
本の声が聞こえるような不思議な感覚と、真面目で控えめな彼女の魅力は、少しずつ周囲の人々の心を癒していきます。
そんな中、図書館に通う謎めいた青年・リュカとの出会いが、クラリスの世界を大きく変えていく――
身分も立場も異なるふたりの静かで知的な恋は、やがて王都をも巻き込む運命へ。
癒しと知性が紡ぐ、身分差ロマンス。図書館の窓辺から始まる、幸せな未来の物語。
十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】
藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。
そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。
記憶を抱えたまま、幼い頃に――。
どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、
結末は変わらない。
何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。
それでも私は今日も微笑む。
過去を知るのは、私だけ。
もう一度、大切な人たちと過ごすために。
もう一度、恋をするために。
「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」
十一度目の人生。
これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。
白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
瀬月 ゆな
恋愛
ロゼリエッタは三歳年上の婚約者クロードに恋をしている。
だけど、その恋は決して叶わないものだと知っていた。
異性に対する愛情じゃないのだとしても、妹のような存在に対する感情なのだとしても、いつかは結婚して幸せな家庭を築ける。それだけを心の支えにしていたある日、クロードから一方的に婚約の解消を告げられてしまう。
失意に沈むロゼリエッタに、クロードが隣国で行方知れずになったと兄が告げる。
けれど賓客として訪れた隣国の王太子に付き従う仮面の騎士は過去も姿形も捨てて、別人として振る舞うクロードだった。
愛していると言えなかった騎士と、愛してくれているのか聞けなかった令嬢の、すれ違う初恋の物語。
他サイト様でも公開しております。
イラスト 灰梅 由雪(https://twitter.com/haiumeyoshiyuki)様
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる