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第3章
決着の日1
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とてもすっきりとした目覚めだった。
いよいよ、今日が決着の日だというのに、心も凪いだ海のように穏やかだ。
シルヴィの魔力が心地よく体を流れている。
まだだ。
まだ、気持ちを委ねてはいけない。
自分にそう言い聞かせて、ベッドから出た。
◇
私はそっと声をかけました。
「おはようございます、殿下」
ゆっくりと金のまつげが持ち上げられ、濃い青の瞳が現れました。
「おはよう、私の天使」
朝から殿下の調子は良さそうです。
ゆったりと体を起こした殿下のお顔は、とても晴れやかなものに感じました。
「いい夢をご覧になったのですか?」
フッと殿下は口元を緩めました。
「そうだね、眠りにつく前に見たのだよ」
どうやら秘密のようです。
殿下はひたと私を見つめて、軽やかにおっしゃいました。
「今日は締め切りの日だ」
セディに印を贈った私は、あることを考えていました。
最高の勝利でなくてもよいのです。そして勝利は正攻法でなくとも得られます。
私にとっての最低限の勝利は、殿下と親王妃派に諦めていただければよいのです。
ゆっくりと殿下に笑顔を返しました。
殿下もゆっくりと笑顔を返されました。
心なしか私の笑顔と似たものを感じました。
何事もなく先輩とセディが部屋に合流し、朝食も済み、いよいよお披露目の会の支度をする時間になりました。
殿下の式典の正装は、殿下の華やかな雰囲気にとても似合っています。
白を基調とした上下に、殿下の艶やかな金の髪と合わせたような金糸の飾りが付いています。
身に着けていらっしゃる剣の鞘も、同じ色調で、国章と国花を模った金の繊細な模様が打ち込まれています。
仕上げとばかりに、服に負けない華やかな笑顔を浮かべて殿下が尋ねました。
「どうだい?これで会場の女性陣の心は手に入れられるだろうか」
私が口を開く前に、先輩が不安そうに答えました。
「守護師からもらった守護石をちゃんと身に着けていらっしゃるんですか」
殿下の顔がやや引きつったものになりました。
「ああ、服の下に忍ばせている」
よく通る声が殿下をとりなしました。
「心は無理だとしても、視線はくぎ付けにできるでしょう。いや、笑顔でも何でも浮かべて視線ぐらいは必ずものにして下さい」
セディが身支度を終え、部屋に戻ってきました。
薄い青の上下は、近衛の制服と同じデザインですが、殿下の横に立つため、飾りが幾分多めに施されています。剣の鞘もいつもの愛用のものですが、式典のため飾りを一か所つけてあります。
全体に飾りを必要最低限に抑えたすっきりした装いは、セディの凛とした美しさを引き立てています。
私は思わず溜息を洩らしました。
「殿下よりも視線を集めるんじゃないか」
ぼそりと先輩が呟きました。殿下の諦めたような微かな溜息が聞こえました。
会場へ移動します。
殿下を挟む形で、前には護衛の騎士、侍従、先輩、後ろには私とセディが並んでいます。
廊下には、騎士と魔法使いが所々に立っています。
話すこともなく静かに6人一団となって進んでいました。
警護の厚い会場より、移動の今が一番敵の襲撃の確率が高いと予想されています。
どうしても廊下の空気は緊張に包まれてしまいます。
「今日現れなかったら、皆の身体が持たないだろうな」
殿下が沈んだ声で囁きました。
――ドンッ!
叔父様と皆さんで張った結界が破られると同時に、吹き飛ばされるような魔力の波動が来ました。
先輩と私が結界を張ります。
それでも押し寄せる混じり気のない悪意が城に溢れ、騎士と侍従が膝をついています。
殿下は銀の光に包まれました。叔父様の守護が発動しています。
「来るっ!」
先輩の叫びと同時に、空間が破られました。
悪意の源と剣を抜いた刺客が飛び出してきました。刺客は3人です。
闇の悪意と赤い光が容赦なく襲い掛かります。騎士と侍従は頭を抱えて悶えています。
二人だけではありません。廊下に控えていた他の騎士も魔法使いも呻いて蹲っています。
敵の刺客は、剣に赤い魔力を乗せて結界へ切り込んできました。赤い光の魔法使いが、剣に魔力を注ぎ加勢します。
セディは剣を構えて殿下の傍に立ちます。殿下も剣を抜きました。
「くそっ。シルヴィ、俺はもう結界が持たない!」
その瞬間、一人が結界を破り、入り込んできました。
残りの刺客が入らないよう、私は魔力を高め結界を強めます。
ですが、一瞬で入り込んだ底なしの悪意が、先輩と殿下をふらつかせています。
刺客が殿下に向かって飛びかかりました。
淡い緑の魔力が立ち上り、セディは鋭く剣を振るいます。セディの動きに乱れはありません。
刺客に動揺が見られました。
「なぜ、平気なのだ」
セディは答えず、魔力を強め刺客を切り伏せました。
刹那、赤い光が激しさを増し、悪意は結界を通しても体にまとわりつくほどになりました。
刺客の二人も膝を付いています。
「先輩、しばらく頼みます!」
私は新たに張った球形結界に3人を閉じ込め、会場へ送りました。
赤い光の魔法使いが続いて転移しようとするのを、私は彼に結界を仕向け、阻みます。
彼の闇の視線が私に向けられました。
魔力の波動が一段と強さを増し、結界を吹き飛ばします。
「そなたが我を予知した者か」
私が口を開こうとしたその時、辺りを払うような銀の光が現れました。
「そなたが探っていたのは私だろう?」
空気に沁みこむようにその言葉は響きました。
いよいよ、今日が決着の日だというのに、心も凪いだ海のように穏やかだ。
シルヴィの魔力が心地よく体を流れている。
まだだ。
まだ、気持ちを委ねてはいけない。
自分にそう言い聞かせて、ベッドから出た。
◇
私はそっと声をかけました。
「おはようございます、殿下」
ゆっくりと金のまつげが持ち上げられ、濃い青の瞳が現れました。
「おはよう、私の天使」
朝から殿下の調子は良さそうです。
ゆったりと体を起こした殿下のお顔は、とても晴れやかなものに感じました。
「いい夢をご覧になったのですか?」
フッと殿下は口元を緩めました。
「そうだね、眠りにつく前に見たのだよ」
どうやら秘密のようです。
殿下はひたと私を見つめて、軽やかにおっしゃいました。
「今日は締め切りの日だ」
セディに印を贈った私は、あることを考えていました。
最高の勝利でなくてもよいのです。そして勝利は正攻法でなくとも得られます。
私にとっての最低限の勝利は、殿下と親王妃派に諦めていただければよいのです。
ゆっくりと殿下に笑顔を返しました。
殿下もゆっくりと笑顔を返されました。
心なしか私の笑顔と似たものを感じました。
何事もなく先輩とセディが部屋に合流し、朝食も済み、いよいよお披露目の会の支度をする時間になりました。
殿下の式典の正装は、殿下の華やかな雰囲気にとても似合っています。
白を基調とした上下に、殿下の艶やかな金の髪と合わせたような金糸の飾りが付いています。
身に着けていらっしゃる剣の鞘も、同じ色調で、国章と国花を模った金の繊細な模様が打ち込まれています。
仕上げとばかりに、服に負けない華やかな笑顔を浮かべて殿下が尋ねました。
「どうだい?これで会場の女性陣の心は手に入れられるだろうか」
私が口を開く前に、先輩が不安そうに答えました。
「守護師からもらった守護石をちゃんと身に着けていらっしゃるんですか」
殿下の顔がやや引きつったものになりました。
「ああ、服の下に忍ばせている」
よく通る声が殿下をとりなしました。
「心は無理だとしても、視線はくぎ付けにできるでしょう。いや、笑顔でも何でも浮かべて視線ぐらいは必ずものにして下さい」
セディが身支度を終え、部屋に戻ってきました。
薄い青の上下は、近衛の制服と同じデザインですが、殿下の横に立つため、飾りが幾分多めに施されています。剣の鞘もいつもの愛用のものですが、式典のため飾りを一か所つけてあります。
全体に飾りを必要最低限に抑えたすっきりした装いは、セディの凛とした美しさを引き立てています。
私は思わず溜息を洩らしました。
「殿下よりも視線を集めるんじゃないか」
ぼそりと先輩が呟きました。殿下の諦めたような微かな溜息が聞こえました。
会場へ移動します。
殿下を挟む形で、前には護衛の騎士、侍従、先輩、後ろには私とセディが並んでいます。
廊下には、騎士と魔法使いが所々に立っています。
話すこともなく静かに6人一団となって進んでいました。
警護の厚い会場より、移動の今が一番敵の襲撃の確率が高いと予想されています。
どうしても廊下の空気は緊張に包まれてしまいます。
「今日現れなかったら、皆の身体が持たないだろうな」
殿下が沈んだ声で囁きました。
――ドンッ!
叔父様と皆さんで張った結界が破られると同時に、吹き飛ばされるような魔力の波動が来ました。
先輩と私が結界を張ります。
それでも押し寄せる混じり気のない悪意が城に溢れ、騎士と侍従が膝をついています。
殿下は銀の光に包まれました。叔父様の守護が発動しています。
「来るっ!」
先輩の叫びと同時に、空間が破られました。
悪意の源と剣を抜いた刺客が飛び出してきました。刺客は3人です。
闇の悪意と赤い光が容赦なく襲い掛かります。騎士と侍従は頭を抱えて悶えています。
二人だけではありません。廊下に控えていた他の騎士も魔法使いも呻いて蹲っています。
敵の刺客は、剣に赤い魔力を乗せて結界へ切り込んできました。赤い光の魔法使いが、剣に魔力を注ぎ加勢します。
セディは剣を構えて殿下の傍に立ちます。殿下も剣を抜きました。
「くそっ。シルヴィ、俺はもう結界が持たない!」
その瞬間、一人が結界を破り、入り込んできました。
残りの刺客が入らないよう、私は魔力を高め結界を強めます。
ですが、一瞬で入り込んだ底なしの悪意が、先輩と殿下をふらつかせています。
刺客が殿下に向かって飛びかかりました。
淡い緑の魔力が立ち上り、セディは鋭く剣を振るいます。セディの動きに乱れはありません。
刺客に動揺が見られました。
「なぜ、平気なのだ」
セディは答えず、魔力を強め刺客を切り伏せました。
刹那、赤い光が激しさを増し、悪意は結界を通しても体にまとわりつくほどになりました。
刺客の二人も膝を付いています。
「先輩、しばらく頼みます!」
私は新たに張った球形結界に3人を閉じ込め、会場へ送りました。
赤い光の魔法使いが続いて転移しようとするのを、私は彼に結界を仕向け、阻みます。
彼の闇の視線が私に向けられました。
魔力の波動が一段と強さを増し、結界を吹き飛ばします。
「そなたが我を予知した者か」
私が口を開こうとしたその時、辺りを払うような銀の光が現れました。
「そなたが探っていたのは私だろう?」
空気に沁みこむようにその言葉は響きました。
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