婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ~偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う~

鷹 綾

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第18話: 真実の兆し

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 第18話: 真実の兆し

魔物の大襲撃が去った王宮の広間は、静寂に包まれていた。

民衆の歓声が遠くに響く中、重臣たちは息を呑んでアプリリアを見つめていた。  
彼女の黒髪は汗で少し乱れていたが、その姿は神々しくさえあった。

王妃イザベラが、ゆっくりと立ち上がった。

「アプリリア・フォン・ロズウェル。  
あなたは今日、王国を救った。  
真の聖女として、ここに迎え入れる」

貴族たちが、次々に膝をつく。

「聖女様……!」  
「神の祝福を……」

ルキノは床に膝をついたまま、顔を上げられずにいた。  
エテルナは衛兵に腕を掴まれ、震えていた。

アプリリアは静かに前へ進み、王妃に一礼した。

「ありがとうございます、王妃様。  
しかし、今日の魔物の襲撃は、決して偶然ではありません」

重臣たちがざわつく。

アプリリアは、予知の力で得たすべてを、穏やかだが確かな声で語り始めた。

「王都近郊に設置された魔力誘導装置。  
刺客の供述。  
そして……エテルナ・フォン・ロズウェルの偽りの聖女の力」

エテルナが、悲鳴のような声を上げた。

「違う! 私は……私は本物の聖女です!  
お姉様の嫉妬よ! また私を陥れようとしているだけ!」

しかし、その声は虚しく響くだけだった。

王妃が、冷たく手を挙げた。

「証拠を見せなさい」

アプリリアは、そっと手を掲げた。

眩い光が広間に広がり、空中に映像のようなものが浮かび上がった。  
聖女の力の応用――記憶と予知を視覚化する魔法。

そこに映ったのは、

・エテルナがヴェゼルと密談し、刺客を雇う場面。  
・偽りの治癒力を保つために、微弱な魔力を薬で補っていた場面。  
・婚約破棄の偽手紙を、エテルナ自身が書いた場面。

すべてが、はっきりと映し出された。

広間が、凍りついた。

エテルナの顔が、真っ白になる。

「こ、これは……偽物よ! お姉様の魔法で作った偽の映像に違いない!」

だが、王妃の側近である大魔導士が、すぐに検証した。

「本物の記憶映像です。  
偽造は不可能」

ヴェゼル侯爵令嬢は、顔を覆って崩れ落ちた。

「エテルナ様……私まで巻き込まないで……」

ルキノが、ゆっくりと顔を上げた。

「……エテルナ。  
お前が……すべてを仕組んだのか」

エテルナは、涙を流しながらすがりつこうとした。

「ルキノ殿下! 信じて!  
私はあなたを愛しているから……  
あの女が邪魔だっただけ!」

ルキノは、冷たくエテルナの手を振り払った。

「……もう、たくさんだ」

王妃が、判決を下した。

「エテルナ・フォン・ロズウェル、ヴェゼル侯爵令嬢。  
国家転覆未遂、暗殺未遂、詔勅詐称の罪で、即時拘束せよ。  
裁判の後、追放とする」

衛兵が、エテルナとヴェゼルを連行する。

エテルナは、最後にアプリリアを睨み、叫んだ。

「お姉様……絶対に許さない!  
いつか、必ず……!」

だが、その声は虚勢に過ぎなかった。

アプリリアは、静かにエテルナを見つめ返した。

「エテルナ。  
あなたが私にしたこと、全部返ってきただけよ」

エテルナは引きずられていき、広間から消えた。

重臣たちが、次々にアプリリアに頭を下げた。

「聖女様、どうかお許しを……  
我々は、誤った判断を……」

アプリリアは優しく首を振った。

「過去は、もういいんです。  
これからは、王国を一緒に守りましょう」

王妃が、微笑んだ。

「アプリリア。  
あなたを、真の聖女として正式に認定する。  
また……ルキノとの婚約についても、再考の余地があるが――」

アプリリアは、静かにガイアの方を見た。

ガイアが、隣で胸を張っている。

「王妃様。  
私は、もうルキノ殿下の王妃にはなりません」

ルキノが、苦しげに顔を歪めた。

アプリリアは、穏やかに続けた。

「私は、自分の道を選びました。  
この王国を、聖女として支える道を」

王妃が、深く頷いた。

「わかった。  
あなたの意志を、尊重する」

民衆の歓声が、再び高まる。

「聖女様! 万歳!」

アプリリアはバルコニーに出て、民に手を振った。

ガイアが、そっと隣に立つ。

「よく、やったな」

アプリリアは、ガイアの手を取った。

「あなたたちがいてくれたからよ」

ゼストが、離れた場所で誇らしげに笑う。

リオが、涙を拭きながら駆け寄る。

「アプリリア様……ほんとに、かっこよかったです!」

レオンハルト公爵が、広間の隅で顔を覆っていた。

娘の輝きに、完全に圧倒されていた。

真実は、すべて明らかになった。

エテルナの偽りは、崩れ落ちた。

アプリリアは、完全に認められた。

王宮に、波紋が広がる。

これで、復讐の序曲は終わり。

次は、本当のクライマックス。

アプリリアは、心の中で静かに決意した。

――ルキノ、エテルナ。

あなたたちの転落は、  
これから本番よ。

優雅に。  
華麗に。

私は、すべてを手に入れる。

聖女として。  
愛する人と共に。

広間の空気が、新たな希望に満ちていた。

真実の兆しは、  
完全に光となった。

アプリリアの逆転が、  
王宮全体を照らし始めた。

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