婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ~偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う~

鷹 綾

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第19話: 王宮への帰還

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第19話: 王宮への帰還

魔物の大襲撃から数日後、王宮は異様な興奮に包まれていた。

アプリリアの名が、民衆の間で神聖なものとなり、  
街路には「真の聖女万歳」の声が絶えなかった。  
王妃イザベラは、正式にアプリリアを「王国の守護聖女」として迎え入れる式典を準備していた。

アプリリア、ガイア、リオ、カイル、そしてゼストは、王宮の客室を与えられていた。  
エテルナとヴェゼルは、地下の牢に拘束され、裁判を待つ身となっていた。

朝の光が差し込む廊下を、アプリリアは静かに歩いていた。  
黒髪を優雅にまとめ、淡い青のドレスを纏った姿は、  
かつての公爵令嬢よりも、さらに気品を増していた。

ガイアが、隣を歩く。

「緊張しているか?」

アプリリアは小さく微笑んだ。

「少しね。  
でも、もう昔みたいに怯えたりしないわ」

ガイアが、そっとアプリリアの手を取った。

「俺がいる。  
何があっても、離さない」

その温かさに、アプリリアの心が落ち着く。

二人が広間へ向かうと、すでに貴族たちが集まっていた。

王妃が玉座に座り、重臣たちが並ぶ。  
レオンハルト公爵は、娘の姿を見て目を伏せた。

そして――  
ルキノとエテルナ。

エテルナは鎖で繋がれ、ヴェゼルと共に広間の隅に立たされていた。  
金髪は乱れ、顔は憔悴し、かつての可憐さは影を潜めていた。

ルキノは、玉座の近くに立ち、アプリリアを見るなり視線を逸らした。  
後悔と、罪悪感が、顔に刻まれていた。

王妃が、厳かに宣言した。

「本日、アプリリア・フォン・ロズウェルを、真の聖女として正式に迎え入れる。  
また、婚約破棄の再調査と、エテルナらの罪状について、判決を下す」

アプリリアは優雅に一礼し、広間の中央に立った。

貴族たちの視線が、集中する。

ルキノが、震える声で口を開いた。

「アプリリア……お前が、戻ってきてくれて……嬉しい」

その言葉に、アプリリアは静かに見つめ返した。

「ルキノ殿下。  
お久しぶりです」

冷たく、しかし丁寧な声。

ルキノの顔が、苦痛に歪む。

エテルナが、鎖を鳴らして叫んだ。

「お姉様! どうしてこんなことに……  
私たちは、家族なのに!」

アプリリアは、エテルナに歩み寄った。

「家族?  
あなたは、私を陥れ、暗殺しようとしたわ。  
偽りの力で、王国を混乱させた」

エテルナの瞳に、嫉妬の炎が再び燃える。

「すべて、あなたのせいよ!  
あなたがいなければ、ルキノ殿下は私を選んだ!  
聖女の座も、私のものだったのに!」

その言葉に、貴族たちがどよめく。

ヴェゼルが、震えながら呟く。

「エテルナ様……もう、諦めましょう……」

王妃が、冷たく判決を下した。

「エテルナ・フォン・ロズウェル。  
国家転覆未遂、暗殺未遂、詔勅詐称の罪で、  
領地剥奪、貴族籍剥奪、辺境への永久追放とする。  
ヴェゼル侯爵家も、共犯として家禄半減、侯爵位剥奪」

エテルナが、絶叫した。

「嫌よ! そんな……!  
ルキノ殿下、助けて!」

しかし、ルキノは目を伏せたまま、何も言わない。

アプリリアは、静かに王妃に進言した。

「王妃様。  
追放は、厳しすぎるかもしれません。  
せめて、修道院での贖罪を」

王妃が、驚いたようにアプリリアを見た。

「あなたが……許すのか?」

アプリリアは微笑んだ。

「許すわけではありません。  
ただ、王国に無用な怨恨を残したくないだけです」

その優しさに、貴族たちが感嘆の声を上げる。

エテルナは、信じられない顔でアプリリアを見た。

「……どうして……私を、助けるの?」

アプリリアは、静かに答えた。

「あなたが、私にしたことを、忘れたわけじゃない。  
でも、私はもう、あなたに囚われない」

エテルナの目から、涙がこぼれた。

後悔か、悔しさか。

衛兵が、エテルナとヴェゼルを連れていく。

ルキノが、アプリリアに近づいた。

「アプリリア……俺は、誤っていた。  
お前を捨てたのは、最大の過ちだった。  
もう一度……」

アプリリアは、冷たく首を振った。

「ルキノ殿下。  
もう、遅いです」

ガイアが、アプリリアの隣に立ち、ルキノを睨む。

ルキノは、ガイアの存在に気づき、言葉を失った。

王妃が、アプリリアに微笑んだ。

「あなたは、真の聖女だ。  
王国は、あなたに守られる」

式典は、アプリリアの栄誉を讃えるものとなった。

貴族たちが、次々に忠誠を誓う。

レオンハルト公爵が、娘の前に跪いた。

「アプリリア……すまなかった。  
父は、愚かだった」

アプリリアは、父を見下ろした。

「父上。  
今さら、許せとは言いません。  
でも、これからは、家族としてやり直せますか?」

公爵の目から、涙がこぼれた。

ゼストが、妹を抱きしめた。

「よくやった、アプリリア」

リオが、涙を拭きながら駆け寄る。

「アプリリア様! かっこよかったです!」

ガイアが、静かにアプリリアの手を取った。

王宮への帰還は、  
アプリリアの完全な勝利となった。

ルキノの後悔の視線。  
エテルナの嫉妬と絶望。

すべてが、アプリリアの足元に落ちていた。

だが、彼女は優雅に微笑むだけ。

復讐は、まだ始まったばかり。

これから、もっと華麗に。

王宮の空は、晴れ渡っていた。

アプリリアの帰還が、  
新しい時代の幕開けを告げていた。

(第19話 終わり/約2000文字)
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