悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲

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27.近距離の貴方に自覚する

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ヒューゴ様にあーんされてからの記憶が曖昧だ。

気が付いたら家に帰ってきていてヒューゴ様は私の隣で私の顔を覗き込んでいる。
「ヒュ、ヒューゴ様?」
「おっ戻ってきたな。ずっと赤い顔で上の空だったから心配したぞ」
心配したと言う割には楽しそうに笑っていて少しムッとした。


「揶揄いましたね!?」
「ははっすまない。君があまりにも可愛らしくて」「もうっ!!」

ここに来たばかりの頃に明るい笑顔にこれ以上怒る気になれず腹いせに彼の頬を人差し指で突っつく。

「わっ!!はははっすまない!すまなかったやめてくれ。地味に痛いっ」
「ふんっ、今回はこれで許してあげますわ」


(あれ?なんか一連の出来事ってまるでラブラブな恋人みたい)


距離が近くてドキドキしてアワアワしてでも楽しくて嬉しくて幸せで。

このままヒューゴ様とずっと。


(あぁ…どうしましょう)

「イヴァ?どうしたんだ?」
「いえ、考え事してただけですわ」

(貴方を好きになっちゃった)


彼は多分人として私を大事にしようとしてくれているだけ、王命で成立しているこの婚約に愛だの恋だの芽生えるとは限らない。



「ヒューゴ様、よろしければ今度私と父の仕事に付き添いませんか?」
「っ!いいのか!…婚約者とはいえ俺は部外者だろ?」
さっきの楽しそうな笑顔から一転下がり眉になり苦しそうな顔になる。

「いいんですよ…私達、将来的には夫婦になるのですから」
「っ!そ、そうだなこれから君の婿になるのだからしっかり勉強しなくてはな」
私の言葉に頬を少し赤らめ照れたように笑った。
そう私の婿になる場合次のクレマー辺境伯はヒューゴ様になる。
簡単に言ってしまえばヒューゴ様は軍人から商人にならなくはいけない。


(これから商人として1から学ぶのはなかなか大変だろうとは思いますが…そこは私が全面的にバックアップするだけですわ!!)


「では父にその事を伝えてきますわ」
「あぁっ!よろしく頼む」
彼の部屋の前で別れお父様の書斎へ向かった。その足取りは軽く早い。


しかし。


(好きな人と結婚する事が決まっているなんて幸せな事でしょう…彼が私をどう思っているかはわからなくても共に生きる事を願ってくれているのだから

私はそれだけでいい)
その胸の内は決して軽いものではなくほんの少し痛む。


コンコンコンッ
「お父様、今よろしいですか」
「あぁ構わないよ」
お父様の書斎に入ってヒューゴ様を連れて行きたい事を伝えた。

「そうだねそろそろ彼に商会の仕事を覚えてもらおうか。ガンダー公爵家とは全く違う仕事だからゆっくりやっていこう」
父は穏やかに笑って了承してくれる。

「お父様、少し私の話を聞いてくれませんか?」「…私だけでいいのかい?」
何かを察したのか母も呼ぶかと聞いてくれて私は頷いた。


母が来て部屋には私と両親だけ。
「話がしたいって聞いたのだけれど…何かあったの?」
母が心配そうに私を見つめてくる。


「お母様、別に深刻な悩みがあるという訳ではないんです。



私、ヒューゴ様の事好きになったの」

両親の前で口にするのは案外簡単だった。
でも照れ臭くて誤魔化すように笑ってみせる。

「まぁ!そうなのぉ!」
「そうか彼を好きに…娘が恋する乙女に」
喜び一色のお母様となんだか天を仰いでいるお父様。
私の両親はこういう所が反対なのだ。

「あら喜びなさいよ!娘が良い男を好きになったんだからっ!」
「そりゃヒューゴくんは良い子だけどそれはそれとして複雑なんだよ。娘を持つ父親の心が」
両親は想像よりずっとヒューゴ様を見ていてくれた様子。


「それで…ヒューゴ様がこの婚約に対してどう思ってるかは分からなくて、でももし元の状態に戻れるとしても私との婚約を継続したいと言ってくれたんです」
「そうなの!?イヴァ!やだ脈ありよ!脈あり!」
きゃあきゃあと恋バナを楽しむ母に隣に座る父は苦笑いである。


「それは、ないと思いますわ」

(だって彼はただ)

「ヒューゴ様は誠実で真面目な方ですもの。婚約者となった私だから大事にしてくださっているんですわ」
きっとそうだ。
だからあんなに優しくしてくれる、私が婚約者だから。


私の思考が堂々巡りになっていきそうになっていると。

「それはどうだろう?」
父の言葉で思考が止まった。


「確かにヒューゴくんはとても真面目で真っ直ぐな子だと思うけれどそれと同時に今、婚約者だからと言って何とも思っていない相手に思わせぶりな態度を取るような子ではないではないと思うんだ」
「おっ思わせぶりだなんて!

あっ…」

今日の事を思い出す。
今日の彼の言動は思わせぶりに該当するのでは?

(いやでもヒューゴ様がそんな事)

「思わせぶりな態度に覚えがあるんだね?でも彼は気持ちがない人間にそんな事をする人間じゃない…それを1番よく知ってるのはきっと


イヴァなんじゃないかい?」
「…もしかして」
(ヒューゴ様の行動には単なる優しさ以外の何かがあるという事?)

「おっとこれ以上は野暮だね。後は自分で考えなさい」
「あなたったら…なんだかんだ言って応援してるんじゃない!」

和やかに話す両親を見つめながら私は考え込んだ。


(もし本当にそこに"何か"あるなら聞かないと…彼と話さないと)

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