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十、アリスター、その愛。
1、
しおりを挟む「ああ・・俺のウォル。やっと、帰って来た・・のに」
精霊の証を顕現し、その際に意識を失ったウォルターが、風の精霊王の愛し子となって戻り、しかも精霊王であるヴェントゥス自身と、その右腕で伴侶であるオリヴァーが直々に送り届けに来たということで、一時騒然となった王城内も静まる頃。
アリスターは、広いベッドの中央で、背後からウォルターを抱え込んで、ぶちぶちと不満を零していた。
「アリ様ってば。そんなに気に入らないの?この昇龍花」
「気に入らないに決まっているだろう。俺の許可なく、ウォルターの玉の肌を傷つけるなんて」
『ウォルターの体は、隅々まで俺のものなのに』と呟くアリスターに、ウォルターは呆れてため息を吐く。
「玉の肌、って。アリ様は、大げさすぎ。ぼくは、とってもきれいだと思うんだけど」
「きれいじゃない、とは言わない。ただ、ウォルターに勝手をされたから」
「もう。ぼくの体は、ぼくのものでもあるんだから」
『勝手にも何も』と言うウォルターの首元に顔を埋め、アリスターは思い切り息を吸いこんだ。
「ちょ・・っ!。アリ様、何をしているの!?」
「ウォルターを吸っている」
「ぼくは、吸い込むものじゃないから!ちょっと、離れて!」
「無理。あと、さっきの言葉は『ウォルターが勝手なことをした』と言ったわけじゃない。『俺のウォルターに、勝手なことをした』と言ったんだ」
細かい修正をしたアリスターは、『ああ、そういうこと』と納得した様子のウォルターに安心し、再び息を深く吸った。
「アリ様!だから!」
「嫌だ。俺は今、凄く衝撃を受けているんだ。だから、癒されたい」
顔を埋めたまま、もごもごと言うアリスターの頭を、ウォルターはぽんぽんと叩く。
「そんなに、嫌がるとは思わなかったんだ。ぼくを助けてくれたわけだし、この力を貰えれば、よりアリ様や国の役に立てると思ったんだけど・・ごめんね、アリ様」
自身、昇龍花を刻まれても、美しいとかきれいだとか、これでよりアリスターの役に立てるとかいった、プラスの面しか考えなかったウォルターは、余りのアリスターの嘆き具合に、良心が痛むのを感じた。
「ウォルの命の恩人だし、凄い力をくれたんだって感謝もある。でも、ウォルを少し齧られた感じがして嫌なんだ」
「齧られた、ってなに」
『何、その表現。ぼくは、チーズか何かですか』と、遠い目をしたウォルターが言うも、アリスターは真顔で答える。
「ちょっと取られちゃった感じ、って言えばいいのかな。純粋、混じりっけなしで百パーセント俺の色だったウォルターに、違う色が混ざってしまった、って思うんだよ」
「え?それはそれ、これはこれじゃないの?ぼく、浮気したわけじゃないんだし。今でも、アリ様一色のつもりなんだけど」
驚いたウォルターは、後ろから抱き締めているアリスターを、ぐるんと見上げた。
「・・・俺一色って言い切るウォルター可愛い。最高」
「アリ様。勝手に昇龍花を刻んでもらったのは、ごめんなさい。ぼく、そんな風にアリ様が考えるなんて、思いもしなかったんだ。ただ、喜んでくれると思っていたから」
切々と訴えたウォルターは、見つめるアリスターの瞳が、先ほどとは違う光を宿したことに気付いて首を傾げる。
「アリ様?」
「・・・・懸命な瞳で訴えるウォル、可愛い。最高」
「アリ様?」
つい先ほどまで不満そうだったアリスターが、今度は目をきらきらとさせている。
その落差に、一体何があったのかとウォルターは益々首を傾げた。
「俺一色って、ウォルが言ってくれて嬉しい。そうだよな。風の精霊王の愛し子になるなんて、やっぱり俺のウォルは凄い!」
「あ、アリ様!?」
嬉々として叫んだアリスターに抱き寄せられ、膝の上に抱えあげられて、ウォルターは目を回す。
「ああ、ウォル。お帰り。大好きだよ」
「う、うん。ただいま、アリ様。でも、あの、昇龍花のことは?」
「我儘言って、悪かった。よく見れば、ウォルに凄く似合っている」
最初の主張とは一転、いきなり昇龍花を誉め、はだけさせたウォルターの肩で咲き誇るそれに口づけを落とすアリスターに、ウォルターは呆然となった。
「アリ様・・ぼく、無神経なことしてアリ様に嫌われたかと思ったんだよ?百パーセント、アリ様の色じゃなくなったとか言われた時は、ぼくを思ってくれるアリ様の心に、隙間風が入り込んだかとおも・・・っ!!!!」
「あるわけないだろそんなこと!」
不安を口にしたウォルターの言葉に被せるように叫び、アリスターは強い瞳でウォルターを見つめた。
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