ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)

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九、風の精霊

6、

 

 

 

「ん?今、俺様たちと手を繋いでいるお前も本物、ベッドで婚約者が大事に抱え込んでいるのも、本物のお前ってことだ」 

 『それにしても、本当に大事にされているんだな。俺様は嬉しい』と満面の笑みを浮かべながら、ヴェントゥスが言うのに、オリヴァーがため息を吐いた。 

「まあ、間違いではありませんけれど、それでは、ウォルターもアリスターも納得できないでしょうに」 

 『ウォルターが、心底アリスターに愛されているようで、それは私も嬉しいですが』と付け加え、オリヴァーもにこりと笑う。 

「あっちのぼくも本物、このぼくも、本物。じゃあ、これからは日替わりとかになるの?」 

「なりませんよ。今、私たちと手を繋いでいるウォルターは、いわば精神体です。そして、あちらでアリスターに大事に庇われているウォルターが、器、肉体ということです」 

「精神体?でもぼく、物に触れるよ?オリヴァーとヴェントゥスとも、しっかり手を繋いでいるし」 

 精神体というのなら、それは不可能なのではないかと言うウォルターの髪を、オリヴァーが優しく撫でる。 

「あちらの界・・ヴェントゥスの結界のなかでは、愛し子のウォルターは、精神体だけでも普通に過ごせます。そして、こちらの界でも、私やヴェントゥスが傍に居れば、精神体だけで存在することが可能です。ただその場合、肉体の方には精神が宿っていませんので、器の方のウォルターが動くことは不可能ですが」 

「へえ・・そうなんだ」 

「そうなのですよ」 

 しみじみと言い合うオリヴァーとウォルター。 

 そのふたりの会話に、アリスターの声が割り込んだ。 

「じゃあ、ウォルターは、元通りになるんだな?」 

「ええ。もちろんです。肉体と精神が融合すれば、元通りです」 

「そう・・なのですか」 

 オリヴァーの説明に、ほっと息を吐きだしたアリスターが、抱き込んでいたウォルターをそっとベッドに寝かせ、立ち上がるときちんと礼を取った。 

「数々の失礼を、お許しください」 

「アリ様!」 

 アリスターは王族だ。 

 そのアリスターが、深く頭を下げる姿に、ウォルターは動揺してしまう。 

「別に構わねえよ。気にしてもいねえしな」 

「時間もかかってしまいましたからね。心身ともに疲労しているでしょう」 

「ごめんね、アリ様。時間が、かかっちゃったから」 

 風の精霊の力を顕現させ、その制御に何とか成功したものの、それが不完全であったがためにいびつな形で力をため込んでしまい、結果、それを緩和させ、正常な状態に戻す必要が生じてしまったのだと、ヴェントゥスがアリスターに説明するのを聞いて、ウォルターは申し訳ない気持ちで一杯になった。 

「ウォルが謝ることじゃない・・・でも。無事で、本当に良かった」 

 目を潤ませ、震える声で、それでもしっかりとウォルターの目を見つめて、アリスターは泣き笑いの表情を浮かべた。 

 
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