ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)

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十三、立太子

5、

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「まず。うちのウォルターは、可愛い。とても、すごく」 

「ああ。俺のウォルターは、とても可愛いな。凄く可愛い」 

 ブランドンが真顔で言う言葉に、アリスターもその通りと頷きを返す。 

「性格だって可愛いし、勤勉だし、それに優しい」 

「全面的に賛成だな」 

 我が意を得たりと、アリスターは腕を組んで満足そうに笑みを刷く。 

「見た目の可憐な可愛さと、中身の可愛さ優しさ・・控えめに言って、天使だ」 

「ああ。ウォルは、地上に舞い降りた天使で決まりだな」 

「そのうえ、剣技、体技にも優れている」 

「あの華奢な体で、本当に凄いと思う。ウォルの努力には、頭が下がる」 

 反論すべきことは何もないと、アリスターは強く同意した。 

「そのウォルターが。離れて行くなんて、辛すぎる」 

「ウォルは、俺が必ず幸せにする」 

「そんなの当たり前だろう!」 

 がっくりと肩を落とすブランドンに、婿らしい言葉を掛けるも、そんな当然のことを言うなと、くわっと目を見開かれてしまう。 

「ああ。当たり前だな。そして、兄離れ親離れしていくのもまた、当然のことだ」 

「自分が迎える側だからと、余裕だな」 

 最早臣下としてではなく、長年の付き合いの友人として恨めし気にアリスターを睨んだブランドンは、はあ、と大きなため息を吐いた。 

「俺だって分かっている。ウォルにとって、アリスター殿下と共に在ることが、何よりの幸福だということは。何と言っても、アリスター殿下と居る時のウォルは、俺達家族と居るときとまた違って、可愛さに磨きがかかるというか『ああ、ウォルは本当にアリスター殿下を信頼し、恋い慕っているのだな』と、そんな幸せいっぱいな空気を纏っているのだからな。俺達は、ウォルがアリスター殿下と末永く添い遂げられるよう、助力するのが役目だ」 

 やがて王太子妃となり、王妃となるウォルターの後ろ盾となること。 

 それがエアリー公爵家の役目だと分かっていると、ブランドンは、じっとアリスターを見やる。 

「ウォルは、必ず俺が護る・・とはいえ、様々な場面で、エアリー公爵家の後ろ盾があることは、ウォルターにとってとても大きい。そこは、よろしく頼む」 

「ウォルターのことは、エアリー公爵家の総力をあげて護る。そして、その伴侶となるアリスター殿下のことも同様に護る。それが、ウォルターの幸せだからな」 

 『馬鹿な真似をして失脚などするなよ』と、幼なじみの顔になっていうブランドンに、アリスターはしっかり頷いてみせた。 

「無能などと言われないよう、努力する」 

「それもそうだけど、そうじゃなくて。功を焦って無理にことを進めたりしないように、ということだ」 

 『独断専行するなよ』と言って、ブランドンは、ふっと息を吐きだした。 

「それから、絶対にウォルターを泣かせるな。もし泣かせるようなことがあったら、許さないからな」 

「泣かせるのは、ベッドの上だけ・・いや、それは啼かせるというべきか?だが、すぎて泣くということもあるか」 

「殿下!」 

 真剣に考え出したアリスターに、ブランドンの厳しい声が飛ぶ。 

「ああ、いや、悪い。だが、俺がウォルをなかせるなど、それしか思い浮かばなくてな」 

「他にもあるだろう。妙なオメガに引っかかって、ウォルをないがしろにするとか」 

「有り得ない」 

 即座に言い切ったアリスターは、強い目をブランドンへ向けた。 

「お前だって知っているだろう。俺がどれだけウォルターに執着しているか」 

「知っているが、未来のことは分からないじゃないか。今は盛り上がっているが、そのうち落ち着くだろうし」 

「もっと深い想いになっていくだけだ」 

 静かな声で、確信をもって言い切るアリスターに、ブランドンは『是非ともそうしてくれ』と、真顔で願う。 

「しかしまあ。万が一、そんな愚かなことをした場合は、すぐさま離縁させるからな」 

 一度きりの過ちだとか、魔が差したなんてことを言っても絶対に許さないと言うブランドンに、アリスターは眉を顰めた。 

「ウォル以外となんて、考えるだけで気持ち悪い」 

 なんてことを言うのだと、寒気がすると、腕を摩るアリスターに、ブランドンが苦笑する。 

「そんなにか・・・まあいい。だが、もしもそうなったときには離縁一択だと、覚えておいてくれ」 

「王家で離縁は有り得ない」 

「事実上の離縁なら出来るだろう。療養という名目で、エアリー公爵家の領地へ行けばいい。あそこには、ウォルター名義の屋敷もあるからな。何の問題も無い」 

 ウォルターが泣くのは無しだが、エアリー公爵家の領地で暮らすウォルターもいいと、笑顔で宣うブランドンに、アリスターが、煽るような笑みを浮かべた。 

「想像するだけは自由だが。そんな未来は、絶対に来ないぞ?」 

「・・・・・遊びにくらいは、来させてくれ」 

 エアリー公爵家の領地で暮らすということは、何か問題が発生するということなので、真実には望まない。 

 しかしやはり、数年に一度でもいい。 

 気楽に過ごせる場所で過ごす時間も持たせてやりたいと、ブランドンは頭を下げた。 


~・~・~・~・~・
エール、いいね、お気に入り、しおり、ありがとうございます

 
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