ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)

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十三、立太子

4、アリスター視点

 

 

 

「ウォルのことだ。あんな強がりを言っても、今頃、寂しがっているんじゃないだろうか」 

 王城から、エアリー公爵邸へと来た、その日の夜。 

 王子が滞在するに相応しく整えられた一室で、アリスターは、隣室のウォルターを思い、優美な壁紙で飾られた壁へと耳を当ててみた。 

「流石に、壁の向こうの音は聞こえないか・・そうだ。コップを使って、壁向こうの音を聞く方法があると聞いたことがある」 

 ひとり、名案が浮かんだと呟き、アリスターは手ごろなコップを手に取ると、再び壁に身を寄せる。 

「ん?しかし、コップのどちら側を耳に当てればいいんだ?底か?それとも、口を当てる方か?・・・うーん。収音が目的なのだから、底の部分を耳にあてるべきか?」 

 二日後には立太子の儀を迎える尊い身とは思えぬ動作で、アリスターは壁にコップを当て、反対側を己の耳に当てた。 

 しかし、期待も空しく、コップからは何も聞こえては来ない。 

「・・・・・無理か」 

 暫く試してみるも変化なしと、アリスターは、諦めのため息を吐いた。 

「まあ、考えてみれば、当たり前のことか」 

 安宿の薄い壁ならともかく、ここは国でも一、二を争う財と権力を持つエアリー公爵邸であるのだから、当然と言えば当然だと思いつつも残念な思いを拭えないまま、アリスターはソファへと向かう。 

「はあ。部屋を別にされるのは予想通りとはいえ、まさかウォルまで、エアリー公爵家の意向側だとは」 

 立太子の儀を前に、エアリー公爵邸へと帰宅したウォルターに付いて来たアリスターは、エアリー公爵家の面々が、ウォルターと自分を同室にしないだろうことは容易に想像出来ていた。 

 しかし、ウォルターが『アリ様と一緒にいたい』と言い出して、反対されるも聞かずに言い募り、何とかなし崩しに同室に、と思っていたのに、思い切り当てが外れた。 

 まさかのウォルターが、すぐさまアリスターと別室で休むことを希望してしまったのだ。 

 『ごめんね、アリ様。でも、ぼく。アリ様と一緒にいると、いちゃいちゃしたくなっちゃうでしょう?家族も一緒に居る邸で、そういう感じになっちゃうと、その・・そういうことした後で家族に会ったとき、すっごく恥ずかしいから』と、可愛い顔でこそりと言われたのだとしても、理解は出来ても納得は出来なかった。 

「いや、待てよ。『でも、やっぱり寂しい』とか言って、こっちに来る可能性も・・・っ!」 

 往生際悪くアリスターが希望的観測を口にした、その瞬間。 

 扉が静かに叩かれた。 

「ウォル!やっぱりか」 

 憂鬱に満ちていた表情から一転、ぱあっと喜びに満ちた表情を浮かべたアリスターは、それでも何とか落ち着いている風を装い、静かに扉へと向かう。 

 それは、ウォルターがひとりで来るとは限らない、侍従を先導させている場合への配慮である。 

「どうぞ」 

 そして、声を整えて入室の許可を出した。 

 それでも、ウォルターが入って来たらすぐさま抱き締めようと、予備動作・・両腕を広げる準備をして扉が開くのを待ったアリスターは、その向こうから現れた人物に固まった。 

「・・・遅い時間に失礼します・・アリスター殿下」 

「・・・ブランドン・・・いや、構わない」 

 『はあ。お前か』という心の声はきれいに隠し、アリスターは、不測の事態など無かったかのように、やけに力無い様子のブランドンを迎え入れる。 

 

 なんだ? 

 一体、どうしたんだ? 

 

 ブランドンといえば、アリスターがウォルターと婚約してからこっち、会えば嫌味か当てこすりを言うのが常であるのに、今夜は何だか元気がない。 

 というより、思い切り萎れている。 

「ブランドン?どうかしたのか?」 

 勧められ、アリスターに続いてソファに座るも、ブランドンは、どんよりとした目をうつろに彷徨わせたまま、微動だにしない。 

「ブランドン?」 

「・・・・・アリスター殿下。私とて、このような日が来ることは、分かっていたのです・・・ですが、いざ現実になってみると・・・アリスター殿下に、八つ当たりでもしないとやっていられない気持ちになりました」 

 そして漸く語り出したブランドンは、話をしている途中で、うつろだった目に光が宿り、声にも覇気が出て、しかも最後はアリスターを睨むまでの気力を回復していた。 

 

 八つ当たり・・・。 

 いや、恐らく八つ当たりではないのだろうな。 

 

 ブランドンが、静かな怒りとも悲しみともいえる感情を湛えている、その原因はウォルターの態度にあるのだろうと当たりを付けたアリスターは、粛々と聞く体勢を整えた。 

 

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