ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)

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十四、お茶菓子は、愛情たっぷりマフィン・・・いびつなうえに、しっとり感皆無だけど。

2、

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「本日は、お招きいただき、ありがとうございます」 

「ありあとう、ごじゃいましゅ」 

 招待客のうち、先頭切って現れたのは、ヘンウッド伯爵家の兄弟、エイベルとベイジルだった。 

 ウォルター付きの護衛でもあるエイベルだが、今日は招待客側ということで、茶会に相応しい装いに身を包んでいる。 

「ようこそ、おいでくださいました・・・ジル。きれいなお花を、ありがとう」 

 そしてウォルターは、ベイジルの背の高さに合わせて言葉を掛け、嬉しそうに差し出された花束を受け取った。 

 その隣で、アリスターも優しい笑みを浮かべる。 

「うぉるしゃまに、よくにあうと、おもいまちた」 

「ジルが選んでくれたのか。ありがとう。早速、飾らせてもらうね」 

 ウォルターがそう言えば、ベイジルは益々嬉しそうに瞳を輝かせて兄であるエイベルを見上げ、控えているアリスター付きの侍従頭フレッドは、他の侍従に合図して、彼の手によって、花束は恭しく運ばれて行く。 

「さあ、ふたりとも。こちらへどうぞ」 

「失礼いたします」 

「しちゅれい、ちまち」 

 今日、ウォルターが茶会の席を設けたのは、アリスターとウォルターの専用厨房に続く部屋。 

 つまりは、ふたりの完全なるプライベート空間で、今後も、親しい者しか入れない場所であると知っているエイベルは、緊張気味に歩みを進めた。 

「それほど、緊張しなくともよい。今日は客なのだから、存分にもてなされてくれ」 

「殿下。畏れ入ります」 

 見かねたアリスターが、苦笑気味に言うも、エイベルは硬い表情のまま頷くことしか出来ない様子。 

「ベイジル。元気にしていた?」 

「あい!」 

 一方、大好きなウォルターに久しぶりに会えたうえ、変わらず親しく話しかけられて、嬉しくて仕方がないと、隠すことなく満面の笑みで答えたベイジルは、ウォルターが着けているブローチを見て、益々瞳を輝かせる。 

 それはあの日、ベイジルがウォルターに贈ったヘンウッド伯爵家の紋章の入った品。 

 そしてベイジルの胸には、当然のようにウォルターから贈られた剣を模したピンブローチが誇らしげにその存在を主張している。 

「ベイジル。そのピンブローチを着けてくれて、ありがとう」 

「うぉるしゃまも!そえを、着けてくえて、ぼく・・わたちも、うれちいでしゅ!」 

「これは。可愛いお客様に先を越されましたか」 

 そして、エイベルとベイジルが席に着いたところでチェスターが現れ、飄々とした様子で声を掛けて来た。 

「チェスター、よく来てくれた」 

「エアリー公爵子息。本日は、お招きありがとうございます。おふたりの、完全なるプライベート空間に招かれること、光栄に存じます」 

 しかし、アリスターとウォルターが、揃って出迎えに行けば、一転。 

 チェスターは姿勢を正して、見事な礼と共に挨拶をした。 

「ヘンウッド卿。本日は、よろしくお願いします」 

「ウィルクス伯爵子息。こちらこそ、よろしくお願いします。こちらは、弟のベイジルです」 

「べいじる、れしゅ。よろちく、おねがいちまち」 

 そしてテーブルへと案内されたチェスターは、先客であるふたりが立ち上がるのに合わせて、挨拶を交わす。 

「エアリー公爵子息。イーストン侯爵子息がお見えになりました」 

 エイベルとベイジル、そしてチェスターが和やかに会話を始めたのを見届けたウォルターは、侍従の言葉に従い、再び扉へと向かい、同じように挨拶を交わすと、クライヴが感嘆の声を漏らした。 

「あたたかみのある、落ち着いた空間ですね。まるで、エアリー公爵子息そのもののようです」 

「ありがとう、イーストン侯爵子息。この部屋をウォルターに選んだのは、私なのだ」 

 ほっこりと微笑み言ったクライヴに、アリスターが食い気味に言えば、クライヴは余裕の笑みを浮かべる。 

「殿下。アルファの嫉妬は醜いと言いますよ」 

「ほざけ。俺より先に、ウォルの手作りクッキーを食べたくせに」 

「はい。それに、仕事でもよくお会いします」 

「俺は、自室ではいつも一緒だ」 

「いつも?公務が違うこともあるのです。多少のずれはあるでしょうに、必死ですね」 

「ふふ。ふたりは、本当に仲がいいよねえ。でも不思議と、妬けちゃう感じは、しないかな」 

 そんな風に、扉付近に留まったまま火花を散らすふたりに、ウォルターがにこにこと笑いかけた。 

「私に嫉妬はしませんか?」 

「うん、しない。不思議だよね。兄様だって、あんまり親しくしてほしくないのに」 

 砕けた口調になって言うウォルターに、クライヴは穏やかな笑みを浮かべる。 

「それは私のベクトルが、ウォルター様に向かっているからでしょう」 

「馬鹿言え。それは、ブランドンだって同じだ」  

 即座に言い切ったアリスターは、クライヴを席へと案内し、皆と挨拶を交わした後に席に着くウォルターに合わせて席に着いた。 

 早速運ばれてくる、お茶にお菓子。 

 そのなかには、くだんのマフィンもあって、ウォルターは一瞬緊張するも、アリスターの言った通り、ウォルターの手作り菓子を食べられることの方が嬉しいと、皆は形など気にすることも無かった。 

 

 

「今度は、もっとおいしく作れるようになっておくからね」 

「うぉるしゃま。おいちかったれしゅ」 

 茶会の終わり。 

 次回の約束をする場面でそう言ったウォルターに、ベイジルがうっとりと答え、皆も頷いた。 

「エアリー公爵子息の手作りの菓子を食べると、気力が回復します」 

「もう、クライヴってば。恥ずかしいからやめて」 

「ああ。イーストン侯爵子息が奮起する理由となった、あれですか」 

 腐っていたクライヴをウォルターが掬い上げた、有名な話だとチェスターが口元に笑みを浮かべれば、エイベルも知っていると頷く。 

「ですが、我々兄弟も、似たような経験をしましたので」 

「皆がそれぞれエアリー公爵子息と縁を結び、こうして我らも集うことが出来たというわけですね」 

「皆。これからも、ウォルターを頼む」 

 ウォルターを中心として、人が集う。 

 それを嬉しく思いながら言ったアリスターに、その場の全員が強く、深く頷いた。 

 
~・~・~・~・
エール、いいね、お気に入り、しおり、ありがとうございます。
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感想 12

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みんなの感想(12件)

ノア吉
2025.12.05 ノア吉

こんばんは
ウォルターに何があったんでしょう...
もしかしてヒートの前兆を病気と勘違いしてとか‎🤔
悪いことじゃありませんように🙏

解除
静葉
2025.11.30 静葉

ウォルターの功績自分に置き換えてるな、精霊の愛子になったのも備蓄案を語り合ったのもウォルターだし

2025.11.30 夏笆(なつは)

ありがとうございます。

彼には、彼にしかない知識が、あるゆえに、かもしれません。

解除
静葉
2025.11.20 静葉

ん〜、にしても他国の王子か攻略キャラの可能性あるけど、こんなオメガ軽視の国で本人もオメガを下に見てる奴が攻略キャラになるか?それともバッドエンドになった時とかに追放同然に嫁がされる場所とか?

解除

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