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十四、お茶菓子は、愛情たっぷりマフィン・・・いびつなうえに、しっとり感皆無だけど。
1、
「な、なんかいびつになっちゃった。それに、しっとり感も皆無」
焼きあがったマフィンをオーヴンから取り出したウォルターは、そう半眼で呟いた。
確かにマフィンを作るのは初めてだった。
けれど、この出来はそれを理由にしても王子殿下はじめ、やがてこの国の中枢に立つ人々にさしあげていいものではない気がする。
「かといって、作り直す時間は無いし、他のお菓子を用意する、っていうのも約束破りになっちゃうし」
うーん、と唸って、ウォルターは、いびつなマフィンを見つめる。
しかしそうしていくら見つめていても、いびつな形は当然いびつなままで、やや斜めになって整列している、その姿は愛嬌があるようでもあるが、いびつであることに間違いはない。
「でも、でもだよ?そもそも、ぼくのお茶会主催の練習に付き合ってもらうのに、こんなお菓子っていうのもなあ」
もちろん、他にも菓子の用意はあるが、皆と約束した菓子の出来があまりに残念だと、ウォルターは肩を落とした。
「どうした?ウォルター。お、それが約束のマフィンか!」
そこへ、執務を終えたアリスターが登場し、目を輝かせて出来上がったばかりのマフィンを見つめる。
「そうなんだけど。こんないびつになっちゃって。しかも、しっとり感がまるでないんだよね。これじゃあ、お茶菓子として出すのは失礼かなって思うんだけど、みんなと約束しているから、どうしようかと悩んでいるところ」
言いながら、自分にぴったりくっついて来るウォルターを優しく抱き寄せ、アリスターは、その柔らかな髪を撫でた。
すると、ウォルターは安心したようにアリスターの肩に頭を寄せ、アリスターの着衣を掴む。
「そうか?俺には、美味しそうに見えるけど」
「そうかなあ」
「ああ。俺はそう思う」
不安に揺れるウォルターの瞳を見て、アリスターは殊更に強く言い切った。
それは、そう言った言葉が本心からであることはもちろん、近頃のウォルターの精神状態がより不安定なことにも関連している。
『アリ様。ぼく、本当に発情期来るのかな?』
ウォルターが、そんな不安を口にするようになったのは、アリスターが立太子の儀を終え、数日経った頃のこと。
初めての発情期が近づいていると、王太子妃の部屋に移動したというのに、一向に気配がないことに、自分は欠陥品なのではないかとまで言い出した。
『来る。クレイグも言っていただろう?立太子の儀があって、精神的に強い緊張を強いられたから、少々バランスを崩しているだけだって』
『確かに、クレイグ先生はそう言っていたけど』
熟練の腕をもつ医師クレイグは、精神と肉体は強く結びついているのだから、心の安寧が必要だと優しい笑みで言ってくれたけれどと、ウォルターは不安に瞳を揺らす。
『それに、母上やエアリー公爵夫人も、初めての発情期前は、そんな風だったと言っていたのだろう?』
『うん。王妃陛下も母様も、初めての発情期前は、とても不安で堪らなかったって。すごく嫉妬深くもなったって、言ってた』
そもそも発情期の頃は、己のアルファを独占したい気持ちが強くなること、それが、初めての時には経験もないことからより不安だったのだろうと、後から思うと、頼もしい先達たちは言ってくれたものの、ウォルターの気持ちは晴れない。
そこでアリスターは、ウォルターの気を逸らすため、皆の協力を得て王太子妃となった時に催す茶会の練習という名目で、ウォルターが、他のことに考えを集中するよう計らった。
茶会の主催とはいえ、気心の知れた者ばかりを招待しているので、楽しみな部分も多いだろうというアリスターの予想通り、ウォルターは、マフィンの出来を嘆きながらも悲観しているようには見えない。
「絶対に、みんな喜ぶ。先にテーブルも見て来たけど、飾られている花もテーブルクロスも趣味がとてもよかった」
部屋の装飾とも相まって、すばらしい茶会を連想させたとアリスターに言われ、ウォルターは嬉しそうに瞳を輝かせた。
「王妃陛下に、色々教えてもらいながら整えたんだよ。公爵家とは違うこともあるから」
「母上も、ウォルターがお気に入りだからな」
息子の伴侶となるウォルターを可愛がる王妃、そして、そんな王妃を慕っているウォルター。
そんなふたりの関係性に、アリスターは、心底ほっとしている。
「ありがたいよね。世間では、伴侶のお母さんに苦労するって話も、あるみたいだから」
「本当にな。ウォルが素直な性質だからこそ、っていうのもあると思うから、感謝だな」
伴侶の母親と揉めるだなんて、考えるだけで憂鬱になりそうな話だと、自分の腕を摩るウォルターの額に、アリスターは唇を落とした。
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