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しおりを挟むそれから、食堂が閉まった後の後片付けの時間にフレッドに夜食を振る舞うことが続いた。
まるで密会をしているみたいで少しワクワクする反面、バイトの学生という身で軍の規則に反することをしている事実に肩身の狭さを感じていた。
こんなことをして良いのか。言い出しっぺのフレッドに苦言を呈したところ、
「ジャップは噂通り堅苦しいな。食堂でメシ食ってるだけで説教される義理なんてねぇだろうが」
と、ホワイトシチューを啜りながら、嫌味ったらしく答えた。言い分自体は筋は通っているため、何かあった時は最悪フレッドに庇って貰う心づもりをすることにした。
フレッドはというと、董哉の夜食が気に入ったらしい。週の3回はこうしてメシを食わせろとせがんでくる。元々恩返しのつもりで始めたので、料理を作ることに関しては文句はない。ただ、閉まった後の食堂で料理を作るには時間が足りないため、董哉の家で保存がある程度効くものを作ってくることしかできないのが歯痒い。
いっそ家で振る舞うというのも……と、考えたところで董哉は正気に戻った。
自分は何を考えた?いくら恩人といえど、あの差別主義でありアルファのフレッドを家に招こうなんて正気とは思えない。
治安の悪いこのアメリカでアルファを家に上げるなんて、それこそ危機感のないバカがやることだ。フレッドがそこまで最低な人間でなかったとしても、董哉の住むアパートを見たら「随分と広い犬小屋だな」等と嫌味を言われることは間違いない。自ら弱みを晒すようなこと、してはいけない。
「……おい、また耳に何か詰まったか?」
「え、あ、何?」
考え事をしている間に食事を終えたフレッドに声を掛けられていたらしい。咄嗟に返事をしようとして日本語が出てしまった。小首を傾げると、フレッドは舌打ちをして律儀に言い直してくれた。
「次の日曜日、俺の実家でパーティーがある。お前も来い」
「…………なんで?」
返答はYesでもNoでもなく、Whyだった。当然である。なんだってジェンキンス家のパーティーに赤の他人である董哉が参加しなければならないのか。それこそ親しい友達やパートナー候補でも誘えば良い。嫌いなオメガを誘う必要なんてない。
口には出さなかったが、顔に出ていたらしい。フレッドは何故か呻きながら額に手を当てて俯いた。
「…………俺の親父が日本料理を作れるヤツを探してる」
「息子がアジア差別派なのに……?」
董哉の言葉に、フレッドは気まずさを隠す為かまた舌打ちした。
……様子から察するに、どうやらフレッドも不本意なようだ。
本来はよそ様のパーティーに飛び入り参加など恐れ入るが、フレッドにはそれはそれは大きな借りがある。幸い、日曜日にも予定は入っていない。
「……それで?何を作ればいい?」
そして当日のAM9:58。
食材を詰めたビニール袋を両手に家を出ると、焼くような暑さが董哉に襲いかかった。
季節は7月下旬。もうとっくに夏も半ばである。
日本の夏と比べて湿度がない分過ごしやすいが、熱中症の危険性は変わらないため時間ギリギリまで家の中で待機していた。
フレッドは予め董哉の住所を伝えておき、予定時刻に迎えに来てくれる手筈となっている。そしてちょうど2分後の10時キッカリに、1台のスポーツカーが董哉の前に停まった。
「何突っ立ってるんだ。さっさと乗れ」
運転席の窓を開け、クイっと背後を親指で指すフレッドはサングラスが様になっている。口さえ開かなければかっこいいのになぁ、惜しいなぁ。
本人に言えばまた色々と貶されそうなことを考えながら、後部座席に食材の詰まったビニール袋をドンドンと2つ乗せる。そして董哉本人は助手席に乗り込むと、何故かフレッドはギョッと董哉を二度見した。
「何……?」
「近……いや、気にするな」
ハンドルを握り直したフレッドに若干の不安を感じつつも、董哉はフレッドに身を委ねることしかできない。
車が発進して暫く。赤信号が止まったタイミングでフレッドが口を開いた。
「それよりあのクソデカい袋はなんだ」
「なんだって、食材に決まってるだろ。デカいって言うけど足りないか不安なくらいだ」
今回の依頼はホームパーティーで日本料理を作ってほしいとのことだ。何人規模のパーティーか聞いたところ、10人は超えると答えられて思わずヒュッと喉を鳴らした。
なんでも、フレッドの父親の誕生日らしく、父方の親戚が集まるらしい。何故そんな場にフレッドが董哉を呼ぶのか、余計にわからない。
料理は他にも並ぶらしいが、どうせ食べて貰うならよりたくさん食べてもらいたい。正直よそ様の家庭に飛び込んで料理を振る舞うのは腰が引けるが、ここで気後れしていては料理人など夢のまた夢だと董哉は己を鼓舞した。
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