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第30話 王国は、崩壊を宣言した
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第30話 王国は、崩壊を宣言した
それは、誰も望まなかった形での宣言だった。
だが――
最も雄弁な宣言でもあった。
王国・王城中央広場。
本来なら祝祭や戴冠式に使われるその場所に、
重苦しい沈黙が漂っていた。
臨時の布告が出されたのだ。
――
「王国は、当面の間、非常体制に移行する」
その一文だけで、
十分すぎるほどだった。
「……非常体制?」
集まった民の間に、ざわめきが広がる。
「戦争か?」
「反乱でも起きたのか?」
「いや……何も聞いてないぞ」
誰も、理由を知らない。
そして――
理由が説明されないこと自体が、異常だった。
王城・玉座の間。
アルノルトは、高座に立っていた。
だが、その姿に、
かつての威厳はない。
「王国は、
一部の不当な圧力と、
内外の混乱に直面している」
言葉は、抽象的だった。
「よって、
秩序維持を最優先とし、
一時的に一部の権限を集約する」
誰かが、息を呑む。
それは、
統治の失敗を認めた者の言葉だった。
「……つまり」
民の一人が、小声で言う。
「王国は、
自分で回せなくなった、
ってことか」
その囁きは、
あっという間に広がった。
説明がないとき、
人は勝手に“正しい解釈”をする。
そして今、
その解釈は一致していた。
――
この国は、もう正常ではない。
その日の午後。
商業ギルドが、
相次いで声明を出した。
「非常体制下では、
長期契約の更新を見送る」
「王国通貨での取引を、
当面停止する」
理由は、明白だ。
保証が、存在しない。
財務局では、
官僚たちが頭を抱えていた。
「……資金が、回りません」
「国庫の数字が、
毎日変わる……」
「誰が、最終判断をするんだ?」
誰も、答えられない。
責任が集約された結果、
判断が止まったのだ。
夜。
王城の一室で、
宰相は、静かに告げた。
「……殿下」
「何だ」
「これは、
“非常体制”ではありません」
アルノルトは、睨みつける。
「何が言いたい」
「崩壊宣言です」
その言葉に、
アルノルトの顔が歪む。
「……違う」
「いいえ」
宰相は、淡々と言った。
「権限を集めても、
判断できないなら、
それは統治ではありません」
沈黙。
「民は、
もう理解しています」
「……何を」
「この国が、
自分たちを守れないということを」
アルノルトは、何も言えなかった。
一方、シュタインベルク公国。
「王国、非常体制だそうです」
報告を受け、
カルヴァスは静かに頷いた。
「事実上の、統治不能だな」
セラフィナは、資料に目を通し、
淡々と述べる。
「……宣言したのは、
彼ら自身です」
「同情は?」
カルヴァスが、問いかける。
セラフィナは、少し考えた。
「ありません」
そして、続ける。
「ですが、
悲劇だとは思います」
「なぜだ」
「立て直す最後の機会を、
自分で潰したからです」
彼女は、静かに書類を閉じる。
「責任を引き受ける人間を、
排除し続けた結果ですわ」
その夜。
王国の街では、
誰もが同じことを考えていた。
――
もう、この国は頼れない。
それは、反乱ではない。
逃亡でもない。
ただの、
見切りだ。
王国は、まだ存在している。
城もある。
軍もある。
法律もある。
だが――
統治という機能だけが、消えた。
そしてそれは、
誰かに奪われたのではない。
自分で、手放した。
ざまぁとは、
誰かが笑うための結末ではない。
間違った選択を積み重ねた結果を、
静かに受け取る瞬間のことだ。
王国は、その瞬間を迎えた。
そして――
物語は、ここから後半へ進む。
崩れた国の向こうで、
新しい秩序と、新しい関係が、
静かに形を取り始めていた。
それは、誰も望まなかった形での宣言だった。
だが――
最も雄弁な宣言でもあった。
王国・王城中央広場。
本来なら祝祭や戴冠式に使われるその場所に、
重苦しい沈黙が漂っていた。
臨時の布告が出されたのだ。
――
「王国は、当面の間、非常体制に移行する」
その一文だけで、
十分すぎるほどだった。
「……非常体制?」
集まった民の間に、ざわめきが広がる。
「戦争か?」
「反乱でも起きたのか?」
「いや……何も聞いてないぞ」
誰も、理由を知らない。
そして――
理由が説明されないこと自体が、異常だった。
王城・玉座の間。
アルノルトは、高座に立っていた。
だが、その姿に、
かつての威厳はない。
「王国は、
一部の不当な圧力と、
内外の混乱に直面している」
言葉は、抽象的だった。
「よって、
秩序維持を最優先とし、
一時的に一部の権限を集約する」
誰かが、息を呑む。
それは、
統治の失敗を認めた者の言葉だった。
「……つまり」
民の一人が、小声で言う。
「王国は、
自分で回せなくなった、
ってことか」
その囁きは、
あっという間に広がった。
説明がないとき、
人は勝手に“正しい解釈”をする。
そして今、
その解釈は一致していた。
――
この国は、もう正常ではない。
その日の午後。
商業ギルドが、
相次いで声明を出した。
「非常体制下では、
長期契約の更新を見送る」
「王国通貨での取引を、
当面停止する」
理由は、明白だ。
保証が、存在しない。
財務局では、
官僚たちが頭を抱えていた。
「……資金が、回りません」
「国庫の数字が、
毎日変わる……」
「誰が、最終判断をするんだ?」
誰も、答えられない。
責任が集約された結果、
判断が止まったのだ。
夜。
王城の一室で、
宰相は、静かに告げた。
「……殿下」
「何だ」
「これは、
“非常体制”ではありません」
アルノルトは、睨みつける。
「何が言いたい」
「崩壊宣言です」
その言葉に、
アルノルトの顔が歪む。
「……違う」
「いいえ」
宰相は、淡々と言った。
「権限を集めても、
判断できないなら、
それは統治ではありません」
沈黙。
「民は、
もう理解しています」
「……何を」
「この国が、
自分たちを守れないということを」
アルノルトは、何も言えなかった。
一方、シュタインベルク公国。
「王国、非常体制だそうです」
報告を受け、
カルヴァスは静かに頷いた。
「事実上の、統治不能だな」
セラフィナは、資料に目を通し、
淡々と述べる。
「……宣言したのは、
彼ら自身です」
「同情は?」
カルヴァスが、問いかける。
セラフィナは、少し考えた。
「ありません」
そして、続ける。
「ですが、
悲劇だとは思います」
「なぜだ」
「立て直す最後の機会を、
自分で潰したからです」
彼女は、静かに書類を閉じる。
「責任を引き受ける人間を、
排除し続けた結果ですわ」
その夜。
王国の街では、
誰もが同じことを考えていた。
――
もう、この国は頼れない。
それは、反乱ではない。
逃亡でもない。
ただの、
見切りだ。
王国は、まだ存在している。
城もある。
軍もある。
法律もある。
だが――
統治という機能だけが、消えた。
そしてそれは、
誰かに奪われたのではない。
自分で、手放した。
ざまぁとは、
誰かが笑うための結末ではない。
間違った選択を積み重ねた結果を、
静かに受け取る瞬間のことだ。
王国は、その瞬間を迎えた。
そして――
物語は、ここから後半へ進む。
崩れた国の向こうで、
新しい秩序と、新しい関係が、
静かに形を取り始めていた。
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