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正義010・教会と職業

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「では、連合ユニオンに向かいましょうか」

 ロズベリーへと帰還したエス達は、そのままの足で連合に向かう。

 調査初日の進捗報告と邪獣の素材売却のためだ。

 邪獣の素材というのは魔核がメインだが、中にはその他の物もある。

 黒蟷螂ダークマンティスの巨大な鎌や槍兎スピアラビットの鋭い角、毒怪蝶ポイズンバタフライの毒袋等々……。

 これらの素材は武具や薬の材料に使えるということで、ある程度回収しておいたのだ。

 連合の受付に並び、やり取りはロレア達に丸投げする。

 素材売却を含めた諸々の手続きは15分ほどで終了し、連合の受付前で解散した。

「――じゃあ、また明日ね!」

 ロレア達に手を振ってエスは連合をあとにする。

 4人はもうしばらく連合に残るということだ。

 謎の邪獣に関する件で少し支部長と話すらしい。

 ちなみにエスも一瞬であるが、支部長と顔を合わせている。

 新人ながらに高い実力を持つ者としてロレア達が受付嬢に紹介したところ、「今後の活躍に期待している」と挨拶に来てくれたのだ。

 その際、どうせならということで冒険者登録もしてもらった。

 ひとまずはGランクからのスタートだが、自分だけの冒険者カードを手に入れられたのは嬉しい。

(さて、それじゃあ……)

 懐の冒険者カードを一瞥して微笑んだエスは、ロレア達の情報をもとにロズベリーの教会へと向かう。

 邪獣や職業の知識を得るべく連合にあるという資料室に行く手もあったが、帰還中ヴィルネにも言われたように念のため職業を見ておきたい。

 ……というのはあくまで建前で、勉強じみたことには気が向かなかった。

 連合から歩くこと約5分、情報にあった教会らしき建物を見つける。

 全体的に赤茶がかった周囲の屋根とは一線を画す空色の屋根と、色とりどりのステンドグラスが嵌められた建物だ。

 屋根の形も周囲のそれとは違っていて、天を突きさすように先端が細くなっている。

「あのー、ここって教会で合ってる?」

 入口前を掃除していた青服のシスターに尋ねたところ、教会で間違いないと言う。

 職業の鑑定を受けたい旨を伝えると、快く中に通してくれた。

 中はとても天井が高く、光を通したステンドグラスが美しく地面を照らしている。

 その光景に見惚れていると、シスターが笑顔で話しかけてきた。

「ふふ、教会にはあまり来ないんですか?」
「初めて来たよ!」
「え!? 初めてなんですか?」
「うん。教会もないような遠いところから来たから」
「教会もない……そんな場所が……」

 シスターは驚きの表情を浮かべながらも、教会初心者のエスに鑑定のやり方を教えてくれる。 

 鑑定が行われるのは、教会の奥にある小部屋。

職業師ジョブチェッカー】という、『職業を見るための職業を持った人』が常駐しているらしい。

 また、鑑定に際して寄付の名目で5,000ギル以上の鑑定代が必要となる。

 お金については問題ないので適当に相槌を打っておいた。

 昨日貰った犯罪者の引き渡し代に加えて、ついさきほど貰った邪獣素材の売却金もあるのだ。

「エスの活躍が大きかったので」とのロレアのげんにより、全体の3分の1にあたる結構な額の報酬を貰った。

「それでは鑑定部屋にお連れしますね」

 説明を終えたシスターはエスを奥の鑑定部屋に案内する。

 部屋の中央には立派な机が置かれており、正面に【職業師】と思わしき女性が座っていた。

 シスター服のベールから明るい金髪が覗いており、顔の前には薄い半透明の布が掛かっている。

「ポロさん、こちらの方なのですが――」

 案内役のシスターはそう言って、【職業師】の彼女――ポロさんとやらにエスを紹介する。

「えっ、初めての鑑定なのですか!?」

 ポロさんは軽く目を見開くが、気を取り直したように咳払いすると、「任せてください!」と頷いた。

「【職業師】をしているポロです。どうぞそちらにおかけください」
「オーケー!」

 座るように促されたエスは、ポロの正面に腰掛ける。

 続けて案内役のシスターが退室し、部屋にはエスとポロだけが残された。

「さきほどの話……職業鑑定が初めてというのは本当なんですか?」
「うん! 教会のない辺境の国から来たからね。洗礼? ってやつも受けてないし、何の職業も持ってないかもしれないけど」

 エスがそう伝えると、「大丈夫ですよ!」とポロは笑う。

「この部屋で鑑定を行えば、洗礼と同じ効果を得られますから。それに〝無職〟の人なんていないんですよ? この道に就くこと10年、何千何万という数の人達を見てきましたが、皆さんちゃんと職業を授かっていましたから」
「へえ、10年かぁ。ベテランの職業師なんだね!」
「ふふん。ですので、どうぞご安心ください!」

 ベテランと言われたのが嬉しかったのか、上機嫌に言って胸を叩くポロ。

「どんな職業でもどんと来いです! 10年の経験がありますからね! レア職業でも説明できる自信がありますよ!」

 彼女はそう言いながら、机の端にあった謎の道具を手前に持ってくる。

 複雑な紋様の入った石台の上に、半透明の板が埋め込まれた形の道具だ。

「それは?」
「職業師用の魔道具です。この半透明の部分にあなたの職業が浮かび上がります。まずは魔力を流し込んで、と……」

 ポロは魔道具の土台部分に手を触れる。

 たちまち紋様部分が淡い青緑の光を放ち、半透明の板にも光が灯った。

「おお!」
「さあ、手のひらを見せてください」

 言われたままに手を見せると、ポロはそこに彼女の手を重ねる。

 そうして待つこと20~30秒。

 ポロが「むむ!」と声を発し、板の部分にモワモワと文字が浮かびはじめる。

「あれ? 俺に職業があるの……?」
「ふふん。言った通りでしょう?」

 ドヤ顔でエスを見るポロ。

 板にモワモワと浮かんだ文字は次第に輪郭を表していき、くっきりとした文字になっていく。

「さあさあ、職業が見えてきましたよ! あなたの職業は……ってええええええぇぇぇぇっ!!!!? 何ですかこの職業っ!!!?」

 ポロはガタリと椅子を鳴らして目をみはる。
 
 何らかの職業は表示されたようだが、彼女にとっても予想外の結果だったようだ。

「俺も見ていい?」
「ええ……どうぞ」

 呆然と呟くポロの横に行き、半透明の板を覗き込むエス。

 そこには炎のように燃えるフォントで、【主人公】の3文字が浮かんでいた。
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