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正義014・指名依頼
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資料室からの退室後。
エスはユゼリアへのお礼として、【龍の鉤爪亭】の食事を奢る流れになった。
ユゼリアも「今日はゆっくりする」と言っていたので、「暇なら是非」と訊いてみたのだ。
「いいわよ? ひ、暇じゃないけど!!」
ユゼリアはそう言って、二つ返事で承諾してくれた。
エス達はすぐ【龍の鉤爪亭】に場所を移し、絶品料理の数々を楽しむ。
「……ひっく。そういえばエス……ひっく……私の魔法が見たいって言ってたわよね?」
そろそろ解散する頃合かと考えていた時、ユゼリアが思い出したように言う。
彼女は酒に弱いらしく、グラス1杯の蜂蜜酒ですっかり出来上がっていた。
顔全体を真っ赤に染め、目つきもぼんやりとしている。
「私は……ひっく……明日からクエストに出るから……エスも来たいなら来てもいいわよ?」
「本当? ぜひ行かせてよ!」
別れ際に切り出そうと思っていたので好都合だ。
ユゼリアのほうから誘ってくれるのは話が早い。
「ひっく……仕方ないわね……」
にんまりと笑うユゼリアと明日の待ち合わせ場所を相談する。
相談の結果、朝から連合で落ち合うことが決定した。
――そうしてやってきた翌朝。
エスはいつもの宿から連合までの道を歩く。
(少し早かったかな?)
連合のホールに到着したのは、予定していたより20分ほど早い時刻だ。
「おい、あの赤髪って……」
「ああ、噂の天才新人だ……」
「昨日魔法少女と戦ってた……」
「お前、あの戦い見てたか? ……」
(ユゼリアとの勝負でますます注目されちゃったなぁ)
冒険者達の視線を受け流しながら、隅のほうで時間を潰す。
「あのぉ……エスさん、ちょっとよろしいですか?」
2~3分が経った時だろうか。
女性の声が聞こえて顔を上げる。
一瞬、第2のユゼリアが現れて勝負を仕掛けてくるのかと思ったが、そこにいたのは制服を着た職員だった。
「たしか……いつも受付にいる」
「覚えてくれていて嬉しいです。受付嬢のカリンです」
ロレア達と邪獣素材を納品する際、担当してくれている受付嬢だ。
彼女の名乗り通り、胸元のネームプレートに『カリン』と書かれている。
「いきなりのお声がけで恐縮なのですが、少し話したいことがありまして……10分ほどお時間よろしいですか?」
「全然大丈夫だよ!」
ユゼリアとの待ち合わせ時間はまだまだ先だ。
カリンは「ありがとうございます」と頭を下げ、エスをカウンターまで連れていく。
「ところで、話って?」
「実はエスさんに頼みたいことがあるんです」
「俺に? 連合から?」
「はい。いわゆる指名依頼というやつなのですが……」
カリンはそう言って説明を始める。
依頼内容は〝謎の邪獣〟についての調査。
その邪獣はロズベリー近郊の森――『ロズベリー森林』にて何度か目撃されていて、全身から黒い魔力を発していたそうだ。
「その依頼って、ロレア達が受けてる……」
「はい。彼女のパーティが受けているとものと同一の依頼になります。昨日エスさんが戦ったユゼリアさんも調査の依頼を受けていますよ」
「そうなの?」
たしかに今日から依頼に出るとは言っていたが、まさか〝謎の邪獣〟の調査だったとは。
「なかなか調査成果が出ないので、いくつかのパーティやソロ冒険者に追加で声を掛けているんです。幸い指名依頼に冒険者ランクは関係ありませんから、エスさんさえよろしければ……」
「分かった! 受けるよ!」
「よろしいんですか?」
即答したエスに驚くカリン。
「うん! どのみち今日もユゼリアに同行するつもりだったからね。同じ依頼を受けとくのは都合がいいよ」
「なるほど、そういうことでしたか」
「っていうか、なんで昨日俺がユゼリアと勝負したこと知ってたの?」
そういえばと思いエスが尋ねると、カリンは「ああ」と苦笑する。
「相当目立ってましたからね。勝負を観戦していた者の中にはウチの職員もいましたし。エスさんに依頼を持ち掛けた理由はロレアさん達の証言もありますが、決定打になったのは昨日の戦いを見ていた職員がいたからです」
「そうだったんだ」
「はい。それではこちらにサインをお願いします」
「オーケー!」
渡された紙に依頼受諾のサインを行う。
「依頼について質問があればいつでも訊きにきてください」
「わかった!」
カリンと別れて元いた場所に戻ろうとしたエスは、ふと視界の端に見慣れた顔を見つけた。
「――ロレア! 来てたんだ!」
「エス! 2日ぶり? ですね」
ロレアの言葉に頷いていると、他のパーティメンバーもやってくる。
「ラナ、エンザ、ヴィルネも! 皆おはよう!」
「相変わらず元気だねー」
「だな!」
「ですね」
皆と挨拶を交わしたエスは、「ところで」と口を開く。
「皆揃ってどうしたの?」
「それが、昨日の調査が少し長引きまして……」
「帰ってきたのが真夜中だったんだよねー」
「ええ。ですので、こうして今報告と素材の納品に訪れたのです」
「なるほどね! ってことは、これからまた調査に出るの?」
「その予定です」
ロレアはそう答えると、ちらりと周囲に視線をやる。
「エス、昨日今日で何かありましたか……? 2日前に比べて集まる視線がどっと増えた気がするのですが……」
「ああ! それはね――」
恐らくユゼリアとの勝負が原因だ。
そう思って口を開いた時、背後からよく通る声が聞こえた。
「――いたいた! エス、早いわね…………って、アンタは【英霊の光】の……」
「あ、あなたは…………『天才魔法少女』のユゼリアさん?」
ロレア達は驚きの表情で声の主――ユゼリアを見つめる。
「「「「「………………」」」」」
しばらく沈黙の時間が流れた後、説明を求める5つの視線がエスに集中するのだった。
エスはユゼリアへのお礼として、【龍の鉤爪亭】の食事を奢る流れになった。
ユゼリアも「今日はゆっくりする」と言っていたので、「暇なら是非」と訊いてみたのだ。
「いいわよ? ひ、暇じゃないけど!!」
ユゼリアはそう言って、二つ返事で承諾してくれた。
エス達はすぐ【龍の鉤爪亭】に場所を移し、絶品料理の数々を楽しむ。
「……ひっく。そういえばエス……ひっく……私の魔法が見たいって言ってたわよね?」
そろそろ解散する頃合かと考えていた時、ユゼリアが思い出したように言う。
彼女は酒に弱いらしく、グラス1杯の蜂蜜酒ですっかり出来上がっていた。
顔全体を真っ赤に染め、目つきもぼんやりとしている。
「私は……ひっく……明日からクエストに出るから……エスも来たいなら来てもいいわよ?」
「本当? ぜひ行かせてよ!」
別れ際に切り出そうと思っていたので好都合だ。
ユゼリアのほうから誘ってくれるのは話が早い。
「ひっく……仕方ないわね……」
にんまりと笑うユゼリアと明日の待ち合わせ場所を相談する。
相談の結果、朝から連合で落ち合うことが決定した。
――そうしてやってきた翌朝。
エスはいつもの宿から連合までの道を歩く。
(少し早かったかな?)
連合のホールに到着したのは、予定していたより20分ほど早い時刻だ。
「おい、あの赤髪って……」
「ああ、噂の天才新人だ……」
「昨日魔法少女と戦ってた……」
「お前、あの戦い見てたか? ……」
(ユゼリアとの勝負でますます注目されちゃったなぁ)
冒険者達の視線を受け流しながら、隅のほうで時間を潰す。
「あのぉ……エスさん、ちょっとよろしいですか?」
2~3分が経った時だろうか。
女性の声が聞こえて顔を上げる。
一瞬、第2のユゼリアが現れて勝負を仕掛けてくるのかと思ったが、そこにいたのは制服を着た職員だった。
「たしか……いつも受付にいる」
「覚えてくれていて嬉しいです。受付嬢のカリンです」
ロレア達と邪獣素材を納品する際、担当してくれている受付嬢だ。
彼女の名乗り通り、胸元のネームプレートに『カリン』と書かれている。
「いきなりのお声がけで恐縮なのですが、少し話したいことがありまして……10分ほどお時間よろしいですか?」
「全然大丈夫だよ!」
ユゼリアとの待ち合わせ時間はまだまだ先だ。
カリンは「ありがとうございます」と頭を下げ、エスをカウンターまで連れていく。
「ところで、話って?」
「実はエスさんに頼みたいことがあるんです」
「俺に? 連合から?」
「はい。いわゆる指名依頼というやつなのですが……」
カリンはそう言って説明を始める。
依頼内容は〝謎の邪獣〟についての調査。
その邪獣はロズベリー近郊の森――『ロズベリー森林』にて何度か目撃されていて、全身から黒い魔力を発していたそうだ。
「その依頼って、ロレア達が受けてる……」
「はい。彼女のパーティが受けているとものと同一の依頼になります。昨日エスさんが戦ったユゼリアさんも調査の依頼を受けていますよ」
「そうなの?」
たしかに今日から依頼に出るとは言っていたが、まさか〝謎の邪獣〟の調査だったとは。
「なかなか調査成果が出ないので、いくつかのパーティやソロ冒険者に追加で声を掛けているんです。幸い指名依頼に冒険者ランクは関係ありませんから、エスさんさえよろしければ……」
「分かった! 受けるよ!」
「よろしいんですか?」
即答したエスに驚くカリン。
「うん! どのみち今日もユゼリアに同行するつもりだったからね。同じ依頼を受けとくのは都合がいいよ」
「なるほど、そういうことでしたか」
「っていうか、なんで昨日俺がユゼリアと勝負したこと知ってたの?」
そういえばと思いエスが尋ねると、カリンは「ああ」と苦笑する。
「相当目立ってましたからね。勝負を観戦していた者の中にはウチの職員もいましたし。エスさんに依頼を持ち掛けた理由はロレアさん達の証言もありますが、決定打になったのは昨日の戦いを見ていた職員がいたからです」
「そうだったんだ」
「はい。それではこちらにサインをお願いします」
「オーケー!」
渡された紙に依頼受諾のサインを行う。
「依頼について質問があればいつでも訊きにきてください」
「わかった!」
カリンと別れて元いた場所に戻ろうとしたエスは、ふと視界の端に見慣れた顔を見つけた。
「――ロレア! 来てたんだ!」
「エス! 2日ぶり? ですね」
ロレアの言葉に頷いていると、他のパーティメンバーもやってくる。
「ラナ、エンザ、ヴィルネも! 皆おはよう!」
「相変わらず元気だねー」
「だな!」
「ですね」
皆と挨拶を交わしたエスは、「ところで」と口を開く。
「皆揃ってどうしたの?」
「それが、昨日の調査が少し長引きまして……」
「帰ってきたのが真夜中だったんだよねー」
「ええ。ですので、こうして今報告と素材の納品に訪れたのです」
「なるほどね! ってことは、これからまた調査に出るの?」
「その予定です」
ロレアはそう答えると、ちらりと周囲に視線をやる。
「エス、昨日今日で何かありましたか……? 2日前に比べて集まる視線がどっと増えた気がするのですが……」
「ああ! それはね――」
恐らくユゼリアとの勝負が原因だ。
そう思って口を開いた時、背後からよく通る声が聞こえた。
「――いたいた! エス、早いわね…………って、アンタは【英霊の光】の……」
「あ、あなたは…………『天才魔法少女』のユゼリアさん?」
ロレア達は驚きの表情で声の主――ユゼリアを見つめる。
「「「「「………………」」」」」
しばらく沈黙の時間が流れた後、説明を求める5つの視線がエスに集中するのだった。
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