打ち切り少年マンガの主人公、ファンタジー世界で無双する

秋ぶどう

文字の大きさ
17 / 44

正義016・不穏

しおりを挟む
 ユゼリアの話を聞きながら草原を進むこと1時間。

 調査の目的地である『ロズベリー森林』が見えてきた。

 道中ではたくさんの邪獣が出現し、ロレア達が持っていた袋を魔核と素材でいっぱいにしている。

「少し邪獣の数が多いですね……」
「だね。たまたまなのかもしれないけど、帰ったら要報告だねー」
「ええ。さきほどの土大蛇アーススネークと併せて伝えましょう」

 ロレアとラナがそんなやり取りをする。

 土大蛇というのは、Dランクの蛇型邪獣だ。

 つい5分ほど前に茂みから飛び掛かってきた。

 エスの拳1発で沈んだので特に問題はなかったが、ロレア達は妙だと言う。

 邪獣にも活動地域というものがあり、土大蛇は森林凄しんりんせい邪獣。

 つまり、本来は森にいるはずの邪獣なのだ。

 比較的森との距離が近いのでありえないことでもないようだが、それでも滅多にないはずだとロレア達は言った。

「この辺りは〝謎の邪獣〟の目撃例があるわけですから、些細な事象も無視はできません。森での調査も慎重に行いましょう」
「まあ私達はともかく、エス君達なら大丈夫だと思うけどねー」

 ラナが笑いながら言う。

「そうですね。ユゼリアさんの魔法も素晴らしいですし、エスの強さも相変わらずですから」

 道中に出た邪獣のほとんどは、ロレア達が出るまでもなく2人が片付けた。

 ユゼリアが使う魔法は多様で高威力だし、エスのとんでも戦法に関しては言うまでもない。

「ジャス……なんとかパワーだったっけか? 本当とんでもねえよなぁ」 
正義力ジャスティスパワーだよ」

 エンザにそう答えながら、エスは「あ、そうだ!」と思い出す。

「そういえばこの前、教会で職業鑑定を受けたんだった! 皆にはまだ言ってなかったよね?」
「鑑定を受けていたのですか? どんな職業なのか気になってはいましたが……」
「すっかり忘れてたよ。訊いてくれればよかったのに」
「エスの職業は明らかに特殊でしたから。無理に詮索するのもマナー違反かと思いまして」

 冒険者にとって職業というのは命綱だ。

 広く知られた職業はともかく、珍しい職業を持つ冒険者には職業を明かさない者もいる。

 エスがそのタイプでないことは明白だが、ロレアは律義なので自分から尋ねることをしなかった。

「私も気になるわ! どんな職業なのか疑問だったのよね」
「あ、ユゼリアも聞いてないんだっけ?」
「ええ、気になってはいたけどいろいろあって忘れてたわ!」

 ユゼリアはそう言って笑う。

「で、結局固有ユニークだったのか? 普通の職業じゃないだろ?」
「たぶんね。ただ、どんな職業なのかいまいち分からなくて。【主人公】っていう職業なんだけど」
「「「「「【主人公】????」」」」」

 5人は顔に疑問符を浮かべながら言う。

「……全然分からないわ。体術系の固有職業ユニークジョブかなと思ってたのに」
「うん、鑑定した人もどんな職業か分からないって言ってた」
「そうですね……【主人公】は……」
「聞いたことがないタイプの職だねー」
「名前じゃ想像がつかねえな……」
「よ……予想外すぎます」

 皆、【職業師ジョブチェッカー】のポロと全く同じ反応だ。

 想像の斜め上を行く職業名に困惑している。

「まあいいよ。謎の職業だけど、能力は問題なく使えてるし」
「それもよく分かりませんけどね……」
「エス君がいいんならそれでいいんじゃない? 結論、よく分からないけど強い! ってことで」

 ラナがそう言うと、皆諦めたように頷く。

 あまりにも想像がつかない以上、考えたところで意味がなかった。

「――さて、もう1度気を引き締めましょうか」

 ロレアがパンと手を叩き、進行方向に目を向ける。

『ロズベリー森林』までの距離は既に100メートルを切っていた。

(あれがロズベリー森林……何も起こらないといいけど)

 エスはそう思いながら、特徴的な2本の大木を見据える。

 それらは互いに向き合う形で湾曲し、まるで巨大な入り口のように真っ暗な裂け目を作っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...