打ち切り少年マンガの主人公、ファンタジー世界で無双する

秋ぶどう

文字の大きさ
38 / 44

正義037・絶望と声(sideユゼリア)

しおりを挟む
「たた…………癒したまえ――【回復ヒール】」

 かなりの距離を吹き飛ばされたユゼリアは、自分に応急処置的な魔法をかける。

「ジャスティス1号は大丈夫?」
「ジャス!」

 近くに立っていたジャスティス1号に尋ねるが、特に問題はないようだ。

 彼はユゼリアに親指を立てた後、険しい表情で上方に視線を向ける。

「何で上を見て…………え?」

 彼の視線の追ったユゼリアは、その先にいた化け物の姿に瞠目どうもくした。

(これは……邪獣なの?)

 その化け物はとにかく巨大だった。

 体長は40~50メートル、頭部だけでも先日の岩人形ロックゴーレムに迫る大きさだ。

 さきほどの黒い柱と共に生まれたものだと思われるが、そこに現れただけで洞窟は綺麗さっぱりなくなっていた。

(それにこの外見……あまりにもにいびつすぎる)

 ユゼリアは冷や汗を流して唾を呑む。

 ぱっと見で判断できるのは、黒い魔力マナを纏った四足の化け物だということだけだ。

 頭部は鼻の潰れたドラゴンのような、あるいは獅子のような奇妙な形状。

 胴体は複数の獣型邪獣と虫型邪獣が混ざったような、おぞましく不気味な形状。

 どう見ても、全身の釣り合いが取れていない。

(まさか……混成体キメラ? いや、でも混成体の実験は……)

 あまりの迫力に立ち尽くしていたユゼリアを、不揃いな双眸がギョロリと睨んだ。

「グルォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
「「…………っ!!」」

 化け物はビリビリと空気を震わせる咆哮を上げ、虫のような歪な前脚を振るう。

 大振りな攻撃のため咄嗟に避けることができたが、攻撃が掠めた周囲の大木は虫けらのように吹き飛ばされる。

「グルォォォォォォォッッ……!!!」
「くっ……! なんて威力!!」
「ジャス!」

 攻撃の余波を腕でいなすユゼリアの隣で、ジャスティス1号が前に飛び出す。

「グルオオオォォッ!!」
「ジャス!」

 化け物は虫のような前脚ともう一方の獣のような前脚でジャスティス1号を捕えようとするが、彼のスピードに付いていけない。

「ジャスッ!!」

 ドゴオオォォォッ!!

 懐に潜り込んだジャスティス1号の飛び蹴りが、化け物の腹部を捉える。

 黄金の光が炸裂し、化け物を覆う黒い魔力ごと腹の一部を削り取った。

「グオオォォッ……!!」
「ジャス!」

 シュタリと着地したジャスティス1号は、そのまま2度目のアタックを仕掛ける。

「ジャス!」

 ズガアァァァッ!!

「グオオォ……!」

 今度は化け物の肩付近に強烈な踵落としが決まり、化け物がぐらりとよろめいた。

「すごい! 戦えてる……けど……!」

 ジャスティス1号の強さに驚きつつ、化け物の肩を見るユゼリア。

 既にえぐれた部分の再生が始まっており、腹部については完全に再生が終わっている。

「私は再生されないよう、傷口を魔法で攻撃するわ! ジャスティス1号は攻撃を続けてもらえる?」
「ジャス!!」

 ジャスティス1号は頷いて鳴き、再び化け物に向かっていく。

 1度目と同じ腹部を飛び蹴りで削ってくれたので、ユゼリアはすかさず【炎弾ファイヤー・バレット】を連射し、抉れた傷口を燃やす。

「グオオ……!!」
「この調子よ!」
「ジャス!」

 ユゼリアは次々と【炎弾】を放って、ジャスティス1号の攻撃に合わせていく。

 ジャスティス1号も後ろに退かず、どんどん攻撃を仕掛けてくれるので、少し化け物の体が削れていった。

「いける……!!」

 ジャスティス1号による攻撃と、魔法による迅速なサポート。

 そのやり方に勝機を見出したユゼリアは、手を緩めずに連続で【炎弾】を撃っていく。

 が、有利に進んでいた戦いも、思惑通りにはいかない。

「――グオオオオッ!!!」
「くっ……!! 対応されはじめたわね……!」

 戦いを始めて1分ほど。

 損傷を上回る速度で再生しはじめた化け物に、ユゼリアは歯を食い縛る。

(さっきまでは生まれたてで本調子じゃなかったっていうの……? 冗談じゃない!!)

 化け物は単純な再生速度だけではなく、動き全般が最初よりも良くなりはじめていた。
 
 攻撃の精度が上がっているのはもちろん、ジャスティス1号の蹴りを受ける際に魔力の障壁を張ることも覚えたようだ。

 障壁のせいで化け物本体を思うように削れず、あっという間に再生されてしまう。

「グルオオオッ!!」
「え!!?」

 そしてさらに30秒ほどが経った時、化け物が開いた口に黒い魔力が集結する。

(ブレス……!? しまっ――)

 ユゼリアは咄嗟に横移動するが、放たれたブレスは扇形に広がった。

「……くっ!!」
「ジャス!!」

 ブレスが直撃する寸前、ジャスティス1号がユゼリアを突き飛ばす。

 代わりにブレスを受けたジャスティス1号は、木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされた。

「ジャスティス1号!!」

 そう叫び、ジャスティス1号のもとに駆け寄るユゼリア。

「ジャス……」
「よかった……無事だったのね」
「ジャス!」

 ジャスティス1号はむくりと起き上がると、胸を叩いて無事をアピールする。

「癒したまえ――【回復】」

 ユゼリアは念のため回復魔法をかけながら、ちらりと化け物のほうを見る。

「グルオオオオオオォォォォッ!!!!」
「まずいわね……」

 叫び狂う化け物は、いまだ健在といった様子だ。

「あの尋常じゃない再生力……どうやったら倒せるの?」
「ジャス!」

 ぼそりと呟くユゼリアの隣で、ジャスティス1号が地面に『S』の文字を書く。

「S……エスが来るのを待つってこと?」
「ジャス!」 

 力強く鳴くジャスティス1号。

 エスへの信頼が表れた鳴き声に、ユゼリアはふっと口角を上げる。

「そうね」

 異常な再生力の化け物――間違いなくSSランク級の相手だが、不思議とエスが負ける姿は浮かばない。

 心を覆いかけていた絶望に、一筋の光明が差しこんだ。

「グオオオオオオォォォォッッ……!!!!」
「エスが来るまで耐えるわよ!」
「ジャス!」

 視線を交わして頷き合ったユゼリア達は、再び戦いに集中する。

 化け物の動きは刻々と良くなっているので、油断すればあっさり攻撃を貰いかねない。

 戦法はさきほどまでと変わらないが、さらに攻撃の密度を上げて化け物をその場に留める。

(くっ! 魔力の消費が多すぎる……けどっ!)

 甘い魔法攻撃は意味がないので、ユゼリアは1撃ごとに大量の魔力を籠めていく。

 減った分の魔力は持参していた魔力ポーションで補うが、まるで湯水のようにポーションが消えていった。

 それからの数分、怒涛の攻撃で何とか化け物を封じ込めていたが、ついに戦いの均衡が崩れる。

「グルオオオオォォォッ!!」
「ぐぅっ……!! そんなのあり!!?」

 化け物の腹部から突然生えてきた腕を、咄嗟に発動した【風壁ウィンド・ウォール】で防ぐユゼリア。

 無詠唱で発動したので一気に魔力が底を尽きたが、素早くポーションを呷って体勢を整える。

「グオオオオオオオオォォォォォ!!!!」
「まだ強くなるっていうの……!?」

 化け物はさらに両肩から異形の腕を生やし、あろうことか頭部まで2つに分裂させた。

 全身を覆う魔力の量も一気に増え、第2形態だと言わんばかりの変わり様である。

(これは絶体絶命だわ……!!)

 予備の魔力ポーションは既に残り僅かとなり、数発の攻撃を防ぐだけで尽きてしまう。

 ジャスティス1号が与えてくれたダメージも、今の形態変化で完全に回復された。

「ジャス!」
「ええ、ヤバいわね……!」

 着地したジャスティス1号に言いながら、ユゼリアは化け物を睨む。

 新たに生えた複数の腕が振り上げられ、ユゼリア達に振り下ろされた。

「グルオオオオオオオオォォォッ!!!」

 ドガアアァァァッ!!!!

「ジャス……ッ!!」
「ぐぅぅっ……!!!」

 変貌した化け物の攻撃力は、さきほどまでの数倍強い。

 ユゼリアは余波だけで20メートルほど吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面に転がる。

「オオオオォォォッ!!!」
「ジャス!」

 さらに追撃の腕が迫るが、ジャスティス1号がなんとか蹴りで弾き飛ばす。

「オオオオオォォォッ!!」
「……ジャ……ジャス!!」

 追撃の腕は止まず、完全に防戦一方の状況に持ち込まれた。

 ユゼリアも【風壁】でサポートするが、まるでガラスのように叩き壊され、魔力がごっそりとなくなった。

「グオオオオォォ!!!」
「……っ!? ジャス……!!」

 そんな限界の状況の中、ジャスティス1号が3本の腕から同時に攻撃され、ユゼリアのもとから遠ざけられる。

 そして、それらの腕の死角から現れた4本目の腕が、真っすぐにユゼリアへ迫った。

「あっ……」

 短い叫びと共に固まるユゼリア。

 魔力は底を尽き、ポーションを呷る暇もない。

(……っ! ここまで――)

 高速で迫る異形の腕に、ユゼリアは思わず目を瞑り――

「――お待たせっ!!!!!」

 場違いなほどに明るい声が、彼女の耳元で響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...