打ち切り少年マンガの主人公、ファンタジー世界で無双する

秋ぶどう

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正義038・再生力の化け物

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 ユゼリア達と別れて数十分後。

 エスは担当範囲の探索を進め、森の深いエリアを走っていた。

「ヴォォ――」
「ほっ!」

 ベゴオォォッ!!!

「うーん……こっちのエリアは外れかな?」

 襲い掛かってきた怪木トレントの顔面を拳型に凹ませ、エスは周囲を確認する。

 既に担当範囲の4分の3ほどを見回り、かなり奥のほうまで来ているが、怪しい何かが見つかる気配はない。

(残りのエリアも急いで確認したら、ユゼリア達のほうに戻って――)

 そう考えて、さらに走るスピードを上げた時、ふいに背後から邪悪な気配を感じる。

「――っ!! 今のは……!」

 正確な方角は曖昧だが、ユゼリア達の担当エリアがあるほうから感じられたのは間違いない。

 足を止め、引き返すべきかと思っていると、さきほどの比にならないレベルの気配がブワリと森に広がり、直後に遠くから爆発音らしきものが聞こえた。

「……戻らなきゃ!」

 エスは緊急事態だと確信する。

 さきほどまでは曖昧だった気配が鮮明に感じられ、今なお力を増しているのだ。

 また、微かではあるものの、化け物の咆哮のようなものも響いていた。

(それにこの感じ……)

 エスはジャスティス1号との間にある繋がりに意識を集中させる。

 向こう側の正義力ジャスティスパワーが高まっているので、恐らくは戦闘中だ。

 状況とタイミング的に、この気配の持ち主が相手である可能性が高い。

(気配からしてかなり強そうだし、応援に駆け付けなきゃ……!)

 エスは立ち塞がる邪獣達を全て1撃で瞬殺し、気配と音のする方向へと急ぐ。

 2、3分森の中を駆けた辺りから、かなり戦闘音が鮮明になってきた。

「グルオオオオオォォォォッ!!!」
「……かなり近いぞ!」

 大きな咆哮を聞いたエスは、遠くの様子を確認するべく近くの大木の天辺に上る。

「あいつか!!」

 2、300メートル先で蠢く巨大な黒い化け物を発見し、一直線に駆けるエス。

 近付くにつれて戦闘音は大きさを増し、時折地面が振動した。

「……いたっ!!」

 木々が薙ぎ倒されて開けた一帯に出たエスは、遠くにユゼリアとジャスティス1号の姿を見つける。

 戦況は思わしくなく、ユゼリアを守護していたジャスティス1号が化け物の腕に押しのけられたところだった。

 無防備になったユゼリアに、化け物の虫のような腕が迫る。

(……させないよ!!)

 エスはドッ!!! と地面を蹴り、一気にユゼリアとの距離を詰める。

「お待たせっ!!!!!」

 そう言いながら化け物との間に入り込み、異形の腕を全力で殴り飛ばした。

「グオオオオオォォッ……!!!」
「エス! 来てくれたのね!!」
「うん、間一髪だったね」

 喜色満面のユゼリアに親指を立てるエス。

 腕の攻撃は結構な威力だったので、間に合わなければまずかった。

「グルオオオオオォォ!!!」
「あれ? 虫みたいな腕がある? 消し飛ばすつもりで殴ったんだけど……」
「再生力が尋常じゃないの。攻撃で体を削ってもすぐに再生するわ」
「なるほど」

 エスはユゼリアの説明に納得する。

 前の世界でも時折見られた、超再生タイプの敵というやつだ。

「変わった見た目をしてるけど、こいつも邪獣なの?」
「分からないわ。でもたぶん混成体キメラ……複数の邪獣を組み合わせた人工邪獣の類だと思う」
「人工邪獣? 作られたってこと?」

 エスは化け物の攻撃をノールックでいなして訊き返す。

「す、すごいわね……」

 ユゼリアは目を丸くしながら、化け物が生まれた経緯を説明してくれる。

 なんでも、元々この場所にあった洞窟で、黒装束の怪しい男が儀式的なものを行っていたらしい。

「――こいつはたぶん、その儀式で作り出された存在。そこらの邪獣とはわけが違うわ」
「ふむふむ」
「グルオオオオオォォォォッ!!!!」

 ユゼリアの話に相槌を打っていると、化け物――混成体が一際ひときわ大きな咆哮を上げる。

 自分の攻撃をエスに悉く防がれ、苛立ちを募らせているようだ。

 2つある頭のうち1つが開いた口の中に黒い小球が形成され、バチバチと魔力マナを迸らせる。

「ブレス……遠距離攻撃が来るわ!」
「ジャス!」
「オーケー!」

 ユゼリア達の前に立ったエスは、拳に思い切り正義力を溜める。

「グオオオオオオォォォォッ!」
「はあぁっ!!」

 混成体が放ったブレスに合わせ、極大の〝飛ぶ拳〟を撃ち放った。

 ドッ!!!!!!!

 拳型の正義力が迫り来るブレスの魔力をこじ開け、そのまま片方の顔面に直撃する。

「グオォォ……ッ!」

 顔面は拳型に潰れたが、すぐに黒い魔力が覆って数秒で元通りになった。

「たしかに、かなりの再生力だね……!」
「ええ、どうするの?」
「とりあえずたくさん攻撃してみる! ユゼリアは後ろに下がってて! ジャスティス1号はユゼリアの護衛をお願い!」
「分かったわ」
「ジャス!」

 ユゼリア達が距離を取った後、エスは混成体の腕を蹴り飛ばし、正義剣ジャスティスソードを召喚する。

 正義力の消費は大きくなるが、剣のほうが与えられるダメージ量は多い。

「……ん? そっか、伸びすぎてたんだった」

 現われた正義剣を見ながら呟くエス。

 昨日地面に埋めすぎた影響で、剣身がアンバランスに長いのだ。

「そうだ! だったら……」

 エスは妙案を思い付くと、正義剣を真ん中でポキリと折った。

「何してるのっ!!? ていうか折れるの!!?」

ユゼリアのツッコミが背後から聞こえるが、気にせず混成体のほうへ駆ける。

(2本あれば、それだけ手数が増えるもんね!)

 左右の手に1本ずつ剣を握れば、双剣スタイルで戦える。

「グオオオオオオォォ!!!」
「いくよっ!!」

 次々と振り下ろされる腕を斬り飛ばしたエスは、2本の剣から飛ぶ斬撃を放ちながら混成体の懐に潜り込む。

「はあっ!」
「グオオオオォ……!」
「まだまだぁ!!」

 腹部に渾身の突きを決めたエスは、高速のステップと飛ぶ斬撃で相手を翻弄しつつ、巨体の至るところを刻んでいく。
 
 混成体も抵抗するように腕を振り回し、防御用の障壁を張るが、エスのスピードと攻撃力には敵わない。

 攻撃の隙間を縦横無尽に駆け回り、次々と腕をね飛ばしては、正義力で発光する2本の剣で障壁ごと巨体を削り取る。

「オオオォ……!」
「しぶといね……!」

 戦況は一見、圧倒的にエスの有利。

 しかし、混成体の再生力もかなりのもので、なかなかダメージが入らない。

 エスはちびちびと正義剣の先端を食べて正義力を補給するが、このままでは先に剣がなくなりそうだ。

(一気に畳みかけよう!)

 ジリ貧になると判断したエスは、大量の飛ぶ斬撃を相手に放つ。

 そうして、混成体が体を仰け反らせたところで、その首元まで高く飛び上がった。

「はあああっ!!!!」

 ズドッ!!!!!!

 2本の剣を束ねて放った重い斬撃が、正義力の奔流と共に2つの首元に炸裂する。

 首元には他より分厚い魔力の障壁が張られていたが、それをものともせずに攻撃が通る感覚があった。

「――決まったの!?」
「いや、どうかな……」
「ジャス……」

 ユゼリア達のところへ1度戻ったエスは、攻撃の衝撃で生まれた土煙をじっと見つめる。

 数秒後、煙が晴れて見えたのは、首がなくなって動きを止めた混成体の姿だった。

「やったわ!!」
「ユゼリア、それは禁句だよ!」
「ジャス!」
 喜びを露わにしたユゼリアに、エスとジャスティス1号が首を振った。

 こういった状況下における「やったか!?」や「倒したぞ!」等の台詞はまずい。

 数ある〝お約束〟の中でも基本中の基本である。

「……? 何を言って――――え?」

 困惑気味に呟いたユゼリアが、混成体を見てフリーズする。

 落とされた2つの頭に胴体側の切断面から伸びた魔力が絡みつき、ボコボコと泡立ちはじめたのだ。

「やっぱりね」
「嘘でしょ……」

 たちまち元の位置に戻った2つの頭は、不揃いで歪な4つ瞳をギョロリと動かしてエス達を捉える。

「恐ろしい再生力ね……」
「うん。それに……」

 そう呟きながら、正義剣を構えるエス。

 ただ再生するだけならマシなのだが、このタイプの〝お約束〟の場合、これだけで終わらないことが多い。

 案の定、再生を終えた混成体はブルブルと蠕動ぜんどうを始めた。

「え? 化け物の様子が……」
「パワーアップするんだよ」

 エスがそう言った直後。

 混成体の体が濃密な魔力に包まれ、激しい変貌を遂げていく。

 2つあった頭が3つとなり、背中からは1対の翼が生え、全身に纏う魔力の量が増大した。
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