打ち切り少年マンガの主人公、ファンタジー世界で無双する

秋ぶどう

文字の大きさ
40 / 44

正義039・決着

しおりを挟む
「グルオオオオオオオオオオオォォォ!!!!!!」
「ちょ……まだパワーアップするの!?」
「まだってことは、さっきも?」
「ええ……頭と腕が増えたわ」
「そっか。これが最終形態なのかもね」

 エスはそう言って、正義剣ジャスティスソードを一齧りする。

 明らかに相手の力が増したので、こちらも正義力ジャスティスパワーを補給しておきたい。

「大丈夫? 倒せそう?」
「うーん……相手の魔力も無尽蔵ってわけじゃなさそうだし、やれないこともなさそうけど……」
「そうなの?」
「うん」

 エスは正義眼ジャスティスアイで混成体を見ながら言う。

 驚異的な再生力を持つということは、それだけ魔力マナの消費も大きいということだ。

 正義眼を通して見ると、心臓と思われる部分が特に強い悪のオーラを発しているが、着実に消耗していることが分かった。

(ただ……俺も気を付けないと剣がなくなっちゃいそうなんだよね)

 さきほどまでの状態ならまだしも、相手は見たところ数段強くなっている。

 試しに牽制の斬撃を飛ばしてみるが、防御力、再生力共に上がっていた。

(この再生力を突破するのは大変だし、剣がなくなったら厳しいかな……?)

 エスは両手に握った正義剣と、目の前の混成体を見比べる。

 負けることはないにしても、剣の残量的に勝ちきれるかも微妙なラインだ。

「グルオオオオオオオオオォォォッ!!!!」
「ブレスが来るわ!」

 どう戦うべきか考えていると、混成体がブレスの準備に入る。

 3つの頭それぞれが黒い魔力の小球を生成し、高濃度の黒い光線を同時に放った。

「……おわっと!!?」

 発動が早かったため迎撃の準備が間に合わず、エスはクロスさせた正義剣で3つのブレスを受け止める。

「そのままお返しだっ!!!」

 クロスさせた剣を思い切り振り抜き、野球のようにブレスを打ち返した。

「グオォォ……!」
「やったね!」
「跳ね返せるの!!?」

 打ち返したブレスは真ん中の頭に直撃、どでかい風穴を顔面に空けるが、その傷もわずか数秒のうちに回復する。

「えぇ……これ、倒せるわけ?」
「面倒だね……」

 今のダメージでもすぐに再生するとなると、最後まで削るのは難しい。

 ブレスを受け止めた時に正義力も消費したので、持久戦では分が悪そうだ。

「最悪、撤退も……」
「心配しないで!」

 神妙な顔のユゼリアにエスは言う。

「ちまちまやっても削れないなら、超火力を叩き込めばいい」
「超火力って……当てはあるの?」
「うん、簡単な話だよ。相手がパワーアップしたんだから、こっちもパワーアップすればいい」
「……? どういうこと?」
「まあ見ててよ!」

 エスはそう言うと、ユゼリアの隣にいたジャスティス1号を呼ぶ。

「ジャスティス1号、をやろう」
「……っ! ジャス!!」

 エスの意図を一瞬で汲み取り、拳を差し出すジャスティス1号。

「いくよ!」
「ジャス!」

 エスは彼の前に片膝を突くと、鏡合わせの形で拳を差し出した。

「何を……」
「――【憑依】!!」

 首を傾げるユゼリアの前で、エスは高らかに叫ぶ。

 刹那、ジャスティス1号の全身が黄金に発光し、エスの拳にするすると吸い込まれていく。

「ええっ……!?」

 ユゼリアが目を見開く中、今度はジャスティス1号を取り込んだエスの体が発光する。

 そして光が収まった時、そこにいたのは【憑依】が完了したエスだった。

「えええええええ!? 合体した!!?」

 ユゼリアが驚くように、憑依後のエスは外見が変わっていた。

 最も特徴的なのは耳と尻尾。

 赤髪の隙間からツルンとしたグレーの耳が生え、マントの隙間から長い尻尾がはみ出している。

 また、マントの装飾も少しだけ派手になり、『S』だったブローチの文字が『SJ』に――ジャスティス1号の頭文字と合体していた。

「ジャスティス1号の力を取り込んだの……?」
「うん」

 エスは頷きながら言う。

 まるで2重になったような、エコーがかかったような不思議な声だ。

【憑依】はその名の通り、ジャスティス1号の体をエスに憑依させる技。

 両者の正義力が爆発的な相乗効果シナジーを生み、戦闘力がぐっと上がる。

 憑依状態には数段階のレベルがあり、今回は最低のレベル1だが、それでもかなりのパワーアップだ。

 高濃度の正義力が黄金の炎のようになり、エスの全身を覆っている。


「ユゼリア、危ないから離れててもらえるジャスか?」
「え? ジャス?」
「大丈夫! すぐに片付けるジャスよ!」
「喋り方大丈夫!!?」

 堪らずといった様子でツッコむユゼリアに、エスは「ああ」と笑う。

「憑依中は口調が変わるんジャス! ジャスティス1号の要素が混ざるからジャス」
「えぇー……」

 人格は100パーセントエスなのだが、お約束的に口調が変わるのだ。

「なんていうか……生々しいわね」
「そうジャスか?」
「…………」

 ユゼリアは笑みを引きつらせつつも言われた通り距離を取り、エスが全力で戦える環境を整えた。

「よーし、さっさと終わらせるジャスよ!!」

 エスは伸脚と屈伸でストレッチして気合を入れる。

【憑依】は非常に強力な技であるが、それだけ正義力の消耗も半端ない。

 特に今回はジャスティス1号の正義力残量が少ない状態で憑依したため、戦えるのは1~2分が限度だった。

「ほっ!」

 掛け声と共にエスが地面を蹴った瞬間、ドッと森の空気が震える。

「遅い!」
「グオオ……!?」

 腕を振るおうとしていた混成体の目の前に、瞬間移動顔負けの速度で移動するエス。

 まずは挨拶と言わんばかりに、敢えて正義剣を使わず相手の鼻先を蹴り上げた。

 ボッ!!!!!!!!

「えっ……!!?」

 その光景に、遠くのユゼリアが目をみはる。

 蹴りを受けた混成体の頭が、残り2つの頭を巻き込んで消滅したのだ。

「そんなもんジャスか?」

 余裕の表情で呟いたエスは、光のように移動して混成体のあちこちを蹴りと斬撃で消し飛ばしていく。

「オ……ォ……」

 これには驚異的な再生力を持つ混成体も堪らない。

 攻撃が削るスピードに再生速度が間に合わず、全身が穴だらけになりはじめる。

 完全にフルボッコの状態だ。

「グオオ……!!」
「……っ!? 逃げるつもりジャスか?」

 エスには敵わないと悟ったのか、翼をはためかせて宙に浮き上がる混成体。

 全てのリソースを再生と飛翔に集中させ、強引に飛び去るつもりのようだ。

 エスの攻撃を受けつつも、構わず翼をはためかせる。

「逃げられるわ……!」
「小物ジャスね!!」

 エスは焦ることなく混成体と同じ高さまで飛び上がると、回転しながら全力の踵落としお見舞いした。

 3つある頭のうち真ん中の頭に直撃した踵落としは、円状に正義力の波を発生させて、混成体の巨体を高速で突き落とす。

 ズドオオオオオォォォッ!!!!

「これで決めるジャスよ!!」

 轟音を鳴らして地面にめり込む相手の鼻先に降り立ったエスは、2本の正義剣を正義力で1本に繋げる。

 普通に戦ってもほぼ間違いなく負けないが、せっかく正義剣を持っているのだ。

 憑依状態でのみ使える〝奥義〟で決着をつけることにした。

「グオオ……オォ……!」

 もはや混成体に戦意はない。

 ただ逃げることだけに必死で、地面にめり込んだ体を起こす。

 そうして再び羽ばたいたが、半端に浮いた状態は恰好の的だ。

 エスはスゥッと息を吸い込むと、跳躍と共に正義剣を振り抜いた。

「奥義――――正義斬ジャスティス・スラッシュ!!!」

 ズババババババ――!!!

 奥義・正義斬。

 それは文字通り、正義の形を模した計13画の斬撃だ。

 目まぐるしい速度でヒットした斬撃が、黄金の線となって『正義』の2文字を刻んでいく。

 そして最後の1撃――『義』の『、』部分を突きで刻んだ瞬間、2文字の傷跡から黄金の炎が発生し、混成体の巨体を内側から焼き尽くす。

「グオ……ォォ……ッ!」

 悪そのものを滅する奥義の前には、高い再生力も無意味である。

 核となっていた心臓ごと正義の炎に成敗され、混成体は跡形もなく消滅した。


 §


「ば……ば……馬鹿なぁぁぁぁっ!!」

 エスが混成体キメラを消滅させた直後のこと。

 小鳥の視界を共有していた黒装束の男が叫ぶ。

(奴がやられた……!? そんな……そんなわけが……!)

 今しがた見た光景に動揺が隠せず、手元にあった黒い宝珠を見る。

 男の血を染み込ませることで混成体とのリンクを結び、ある程度ながら行動を操っていた重要な宝珠だ。

 ついさきほどまでは黒く発光していたのだが、今は光が消えている。

(馬鹿な……本当に死んで……?)

 あの混成体は男が長年をかけて生み出した最高傑作だった。

 特に防御面、再生力においては絶対的な自信があり、どんな敵が立ちはだかろうと問題なく進めると踏んでいた。

「くそ……っ!! 余計なことをしたばかりに!!」

 男は思い切り壁を殴り付け、血が出んばかりに歯を食い縛る。

 絶望の第1犠牲者になってもらおうと、魔法少女と謎生物の相手をしたのが間違いだった。

 さっさと無視して空に移動させていれば、あの珍妙なマント少年が来ることもなかったのだ。

(全てあいつのせいで――――――っっ!?)

 再び小鳥の視界を覗いた男が、びくりと肩を震わせる。

 マント少年の視線がほんの一瞬、はっきりとこちらを見た気がしたのだ。

(いや……大丈夫だ、問題ない。鳥には念入りな気配隠蔽の魔法をかけてある)

 男は首を横に振りながら、小鳥との視界を切る。

(どうする……? あいつのせいで全ての計画が台無しだ!!)

 混成体は完全な状態で生み出せたし、SSS級の冒険者でも現われない限り問題はなかったはずなのだ。

 あの、意味不明な力を持ったマント少年イレギュラーさえいなければ、計画は万事上手くいっていた。

(もはやこの町でできることは何もない……天災に当たったと考えて、早急に場所を移すのが吉か……)

 男は気持ちを切り替えて思案する。

 あのトンデモ少年がいる場所で、これ以上の行動を起こすのはまずい。

(転移用の魔法陣を用意して脱出するか。下手にここを出るのは危険だからな)

 男はそう考えて、さっそく魔法陣の準備を始める。

 長距離転移の魔法陣は準備に時間と魔力が必要だが、男の居場所が割れる心配はない。

(くくく……誰も俺がここにいるとは思うまい)

 男は窓から覗く青空を見ながらほくそ笑む。

 その下に広がるロズベリーの街並みは、男の存在等知らないように平和そのものだった。

(待っていろ……! 今回の儀式でノウハウは完璧に揃った。次はもっと早く、より強力に……絶望の花を咲かせてやろう……!!)

「くくく……」と再び訪れる絶望の日を夢想しながら、男は魔法陣を用意していく。

 しかし、男は知らなかった。

 彼の命運は既に尽きており、終幕の時はすぐそこに来ているということを……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...