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正義043・俺達の戦いは――
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【セイギ×サイキョウ】設立の2日後。
エスとユゼリアはデルバートから報酬を貰った。
混成体の討伐及び、首謀者の捕縛に対しての報酬だ。
鬼熊討伐で貰った報酬の10倍以上の金額で、想像以上の大金だった。
エス達が自発的に動いたことなので、無理に出さなくてもいいと言ったのだが、デルバート曰く「半分以上は領主様が出した」とのこと。
【朝露】に運ばれていた領主は既に衰弱状態から回復し、領主館に移動している。
自分達と町を救ってくれたエス達には感謝してもしきれないということで、館に残っていた財産の一部を出してくれたようだ。
「――2人とも、もう出発するんだったか?」
「うん! 午後には出る予定だよ」
報酬の袋を受け取ったエスは言う。
ロズベリーも良い町だったが、早く他の町も見てみたい。
ユゼリアとも相談して、報酬を貰う日に次の町へ行くことにしたのだ。
デルバートと連合の受付で別れたエス達は、そのままの足で訓練場に向かう。
「――エス、ユゼリアさん。おはようございます」
訓練場でエス達を待っていたのは、ロレア達【英霊の光】のパーティ一行。
ロレアとエンザが退院して以降、毎日ここで模擬戦を行っているのだ。
【龍の鉤爪亭】でロレアから手合わせをしたいと言われていたので、その約束を履行した形である。
また、ついでにということで、他のパーティメンバーともそれぞれ模擬戦を行っていた。
「これまではボロボロにやられましたが、今日はエス達が出発する日ですからね。簡単にはやられませんよ」
ロレアは気合いの入った声で言う。
今までに計3回の手合わせをしているが、そのどれもがエスの完勝だった。
「いいね! 全力でかかってきてよ!」
エスはニッと笑いながら、ロレア達との模擬戦を開始した。
「――はあ……はあ……やっぱりエスは、強いですね……」
「つ……強すぎだよー」
「か……勝てねえ……!」
「お、お手上げです……」
その数分後。
訓練場に転がるロレア達の姿があった。
結果はこれまでと同じくエスの完勝。
最後は4対1で戦ったが、それでもエスが圧倒した。
「やっぱり……何度見てもおかしいわよね、エスの動き」
「え……ええ、攻撃が当たったと思っても当たりません」
「うんうん。ひょいひょい避けるし、分身できるのもヤバいよね……」
模擬戦を見ていたユゼリアの呟きに、ロレアとラナが頷いて言う。
デルバートとの模擬戦でもそうだったが、エスはどんな攻撃も体をくねらせてギリギリで避けるのだ。
高速移動による分身も強力で、そもそも攻撃を当てるのが至難の業だった。
「でも、皆強くなってるんじゃない? 最初よりずいぶん動き良くなったよ!」
息1つ切らしていないエスが、ロレア達を見ながら言う。
「それはたしかに……エスと手合わせをするようになってから、1段実力が上がった気がします」
「負けっぱなしだから実感湧かないけど、たしかにねー」
「ああ。昨日受けたクエストでも調子よかったしな」
「ぼ、僕も……少し体力がついたかも? です」
各々に呟くロレア達。
「そう言われると、私もエスと会ってから強くなった気がするわ。魔力の扱いが上手くなったというか」
「ユゼリアさんもですか? ということは……」
「エス君の力……?」
皆の視線がエスに集中する。
「ん? 俺は何もしてないよ?」
エスはそう答えると、皆は「「「「「うーん……」」」」」と顔を見合わせる。
「もしかして、【主人公】とやらの力でしょうか?」
「ありえるかもねー」
「ま、何でもありなんじゃない? エスなんだし」
「だな」
「ですね」
そう言って頷き合った後、エスのほうを見る5人。
エスには何を言っているのか聞こえなかったが、納得したのならいいかと笑う。
模擬戦を終えたエス達は、連合を出て【龍の鉤爪亭】を訪れた。
エスとユゼリアの出発前最後の打ち上げだ。
1時間ほど料理を堪能し、エスのパンパンに膨れた腹を笑われながら店を出た。
それから、ロズベリーの西門――大森林とは逆側に位置する門に着いたエスとユゼリアは、ロレア達の見送りを受ける。
彼女達はあと数日町に残るとのことなので、エス達とはここでお別れだ。
「エス、ユゼリアさん。お元気で。またどこかで会いましょう」
「うん! ロレア達も元気で!」
「ふふ。私達もまだまだ未熟だと思い知りましたからね。次に会う時はAランクのクランになって、エス達に追いつけるよう頑張ります」
口角を上げながら言うロレア。
エス達のクラン【セイギ×サイキョウ】は、メンバーの冒険者ランクと功績が加味され、設立早々Aランクに認定されている。
それを聞いたロレア達も向上心を刺激されたようで、もっと強くなりたいと張り切っていた。
「ロレア達ならきっとなれるよ! 頑張って!」
「ええ。応援してるわ」
「ありがとうございます」
ロレアと握手を交わしたエス達は、他の皆とも握手を交わす。
出発の間際、執務室からエス達の姿を見たというデルバートも見送りに来てくれた。
「――それじゃあ皆、またね!!」
皆に手を振って町門を出たエスとユゼリアは、しばらく歩いたところで前を向く。
「……少し寂しいわね」
「うん。でも、いつかまた会えるよ」
「そうね」
ユゼリアは頬を緩めて言う。
「さて、次はどこに行こうか……」
「気の向くままに進めばいいんじゃない? それが冒険者というものよ」
「いいね、それ!」
エスは笑いながら、真っ青に晴れた空を見る。
今日のような旅立ちに、新しい物語の始まりにふさわしい色だ。
前の世界での物語は終わってしまったが、この世界ならきっと大丈夫。
エスはなんとなくそんな気がして、空に拳を突き上げた。
「――俺達の戦いはまだこれからだ!!」
--------------------------------------------
とりあえず、物語に一区切りがついたので、これにて完結といたします。
最後までお読みいただいた皆様、本当にありがとうございました!
エスとユゼリアはデルバートから報酬を貰った。
混成体の討伐及び、首謀者の捕縛に対しての報酬だ。
鬼熊討伐で貰った報酬の10倍以上の金額で、想像以上の大金だった。
エス達が自発的に動いたことなので、無理に出さなくてもいいと言ったのだが、デルバート曰く「半分以上は領主様が出した」とのこと。
【朝露】に運ばれていた領主は既に衰弱状態から回復し、領主館に移動している。
自分達と町を救ってくれたエス達には感謝してもしきれないということで、館に残っていた財産の一部を出してくれたようだ。
「――2人とも、もう出発するんだったか?」
「うん! 午後には出る予定だよ」
報酬の袋を受け取ったエスは言う。
ロズベリーも良い町だったが、早く他の町も見てみたい。
ユゼリアとも相談して、報酬を貰う日に次の町へ行くことにしたのだ。
デルバートと連合の受付で別れたエス達は、そのままの足で訓練場に向かう。
「――エス、ユゼリアさん。おはようございます」
訓練場でエス達を待っていたのは、ロレア達【英霊の光】のパーティ一行。
ロレアとエンザが退院して以降、毎日ここで模擬戦を行っているのだ。
【龍の鉤爪亭】でロレアから手合わせをしたいと言われていたので、その約束を履行した形である。
また、ついでにということで、他のパーティメンバーともそれぞれ模擬戦を行っていた。
「これまではボロボロにやられましたが、今日はエス達が出発する日ですからね。簡単にはやられませんよ」
ロレアは気合いの入った声で言う。
今までに計3回の手合わせをしているが、そのどれもがエスの完勝だった。
「いいね! 全力でかかってきてよ!」
エスはニッと笑いながら、ロレア達との模擬戦を開始した。
「――はあ……はあ……やっぱりエスは、強いですね……」
「つ……強すぎだよー」
「か……勝てねえ……!」
「お、お手上げです……」
その数分後。
訓練場に転がるロレア達の姿があった。
結果はこれまでと同じくエスの完勝。
最後は4対1で戦ったが、それでもエスが圧倒した。
「やっぱり……何度見てもおかしいわよね、エスの動き」
「え……ええ、攻撃が当たったと思っても当たりません」
「うんうん。ひょいひょい避けるし、分身できるのもヤバいよね……」
模擬戦を見ていたユゼリアの呟きに、ロレアとラナが頷いて言う。
デルバートとの模擬戦でもそうだったが、エスはどんな攻撃も体をくねらせてギリギリで避けるのだ。
高速移動による分身も強力で、そもそも攻撃を当てるのが至難の業だった。
「でも、皆強くなってるんじゃない? 最初よりずいぶん動き良くなったよ!」
息1つ切らしていないエスが、ロレア達を見ながら言う。
「それはたしかに……エスと手合わせをするようになってから、1段実力が上がった気がします」
「負けっぱなしだから実感湧かないけど、たしかにねー」
「ああ。昨日受けたクエストでも調子よかったしな」
「ぼ、僕も……少し体力がついたかも? です」
各々に呟くロレア達。
「そう言われると、私もエスと会ってから強くなった気がするわ。魔力の扱いが上手くなったというか」
「ユゼリアさんもですか? ということは……」
「エス君の力……?」
皆の視線がエスに集中する。
「ん? 俺は何もしてないよ?」
エスはそう答えると、皆は「「「「「うーん……」」」」」と顔を見合わせる。
「もしかして、【主人公】とやらの力でしょうか?」
「ありえるかもねー」
「ま、何でもありなんじゃない? エスなんだし」
「だな」
「ですね」
そう言って頷き合った後、エスのほうを見る5人。
エスには何を言っているのか聞こえなかったが、納得したのならいいかと笑う。
模擬戦を終えたエス達は、連合を出て【龍の鉤爪亭】を訪れた。
エスとユゼリアの出発前最後の打ち上げだ。
1時間ほど料理を堪能し、エスのパンパンに膨れた腹を笑われながら店を出た。
それから、ロズベリーの西門――大森林とは逆側に位置する門に着いたエスとユゼリアは、ロレア達の見送りを受ける。
彼女達はあと数日町に残るとのことなので、エス達とはここでお別れだ。
「エス、ユゼリアさん。お元気で。またどこかで会いましょう」
「うん! ロレア達も元気で!」
「ふふ。私達もまだまだ未熟だと思い知りましたからね。次に会う時はAランクのクランになって、エス達に追いつけるよう頑張ります」
口角を上げながら言うロレア。
エス達のクラン【セイギ×サイキョウ】は、メンバーの冒険者ランクと功績が加味され、設立早々Aランクに認定されている。
それを聞いたロレア達も向上心を刺激されたようで、もっと強くなりたいと張り切っていた。
「ロレア達ならきっとなれるよ! 頑張って!」
「ええ。応援してるわ」
「ありがとうございます」
ロレアと握手を交わしたエス達は、他の皆とも握手を交わす。
出発の間際、執務室からエス達の姿を見たというデルバートも見送りに来てくれた。
「――それじゃあ皆、またね!!」
皆に手を振って町門を出たエスとユゼリアは、しばらく歩いたところで前を向く。
「……少し寂しいわね」
「うん。でも、いつかまた会えるよ」
「そうね」
ユゼリアは頬を緩めて言う。
「さて、次はどこに行こうか……」
「気の向くままに進めばいいんじゃない? それが冒険者というものよ」
「いいね、それ!」
エスは笑いながら、真っ青に晴れた空を見る。
今日のような旅立ちに、新しい物語の始まりにふさわしい色だ。
前の世界での物語は終わってしまったが、この世界ならきっと大丈夫。
エスはなんとなくそんな気がして、空に拳を突き上げた。
「――俺達の戦いはまだこれからだ!!」
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とりあえず、物語に一区切りがついたので、これにて完結といたします。
最後までお読みいただいた皆様、本当にありがとうございました!
応援ありがとうございます!
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