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正義042・クラン設立
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混成体討伐の一件以降、エスとユゼリアは拘束した者達を入れてある牢の監視を手伝ったり、無事に退院したロレア達と会ったりしつつ、ロズベリーでの滞在を続けた。
そうして数日が経った時、デルバートから応接室への呼び出しを受ける。
なんでも、首謀者の男への尋問の結果、いろいろな進展があったのだとか。
「それで、進展って?」
「ああ、それなんだが……」
ユゼリアの質問を受けたデルバートは、紅茶をひと口飲んで説明する。
「まずは黒い魔力を纏った邪獣について……あれは混成体の実験過程で生まれた副産物だったらしい」
「偶然ってこと?」
「ああ。森に放ったのもただの戯れだと言っていた」
デルバートはユゼリアの言葉に頷く。
「んで、あとはエスとユゼリアの嬢ちゃんを襲った仮面集団だが、領主館の使用人達だったそうだ。全員が先日の領主館の捜索で捕まっている」
「よかった。逃げられたわけじゃなかったのね」
ユゼリアはほっと息を吐く。
隣で話を聞いていたエスも、うんうんと首を縦に振った。
「……とまあ、大きな話はこんなところだが、細かい部分の裏付けも尋問のおかげでだいぶ取れた。一連の問題は概ね解決したといっていいだろう。男達の処遇についても決まった。首謀者の男は極刑、残りの奴らは犯罪奴隷にする」
「そう。じゃあ私達もお役御免ね」
「ああ。2人には何から何まで助けられた。本当に感謝する」
デルバートはそう言って頭を下げる。
「現在、急ぎで報酬を用意しているところだ。ずっとロズベリーにいるわけではないだろう?」
「そうね。今度こそ一件落着だし、別の町に行くつもり」
「うん。俺もいろんな場所を旅するつもりだよ」
「そうか。それは、2人とも一緒に?」
デルバートにそう訊かれ、エス達は顔を見合わせる。
「ユゼリア、俺がロズベリーを出るなら付いて行こうかなって言ってなかったっけ?」
「そ、そそっ……そんなこと言ったかしら?」
「うん、たしか【龍の鉤爪亭】で」
エスがそう言うと、ユゼリアは赤い顔で俯く。
「付いてくるのはやめとく? 俺としては、付いてきてくれた嬉しいけど」
「そ……そう?」
「うん、ユゼリアがいると賑やかだし。相性も良いと思うんだ」
「ふ……ふーん? ま……まあ、エスが付いてきてほしいって言うなら?」
「もちろん! 一緒に行こうよ」
「う……うん。分かったわ」
笑いながら言ったエスに、しおらしく答えるユゼリア。
「2人とも、一緒に行動するのなら、いっそクランを作ったらどうだ? 面白いクランになると思うんだが」
「クラン? それって、ロレア達のやつみたいな?」
「ああ、受付で申請すれば簡単に作れるぞ。クランとして連合の依頼を受けることもできるし、この先仲間が増えた時にも便利だろう」
「なるほど。ユゼリアはどう思う?」
「いいんじゃない? 私もいつかクランに入りたいと思ってたし」
「そうなの?」
「ええ。名の売れた冒険者達のほとんどは、一流クランに入ってるものだから。エスが作るクランなら、いずれ大きくなる気がするわ」
「はは、間違いないな」
ユゼリアの言葉に、デルバートが笑って頷く。
「もしすぐに作るんなら、この場で申請を受理してもいいぞ?」
「いいの? じゃあ、どうせだし作ろうかな」
「了解。少し待っててくれ」
デルバートはそう言って部屋を出ると、1枚の紙を持って戻ってきた。
「クラン設立の申請書だ。この羽ペンで記入してくれ」
「オーケー!」
エスは申請書とペンと受け取る。
申請書にはクラン名とクランリーダー、クランメンバーを書くための欄があった。
「ユゼリア、クランリーダーは俺でいいの?」
「構わないわ。私は副リーダーね」
「オーケー!」
エスはクランリーダー欄に自分の名前を、メンバー欄の1番上にユゼリアの名前を書き入れる。
「……そうだ、メンバーの欄にジャスティス1号の名前も入れていい?」
「ジャスティス1号? ああ、エスの召喚獣……使い魔だったか」
デルバートは首を傾げた後、思い出したように言う。
巨大な鬼熊の頭部を見せられた日に1度と、領主館の捜索を行った時に1度、彼はジャスティス1号の姿を見ている。
「そう。クランメンバーに加えちゃダメかな? 普段は送還してるけど、あいつも俺の仲間だからさ」
「召喚獣をメンバーにした前例は知らないが……まあ問題ないだろう。クランは自由なものだからな」
「ありがとう!」
エスはそう言って笑うと、メンバー欄にジャスティス1号の名前を追加した。
「あとはクランの名前だけど……ユゼリアは希望とかある?」
「そうね……すぐには浮かばないわ。エスのフィーリングで決めればいいんじゃない?」
「うーん……フィーリングかぁ」
腕を組んで空欄を見つめるエス。
しばらく考えて込んでいると、ふと頭にとある文字列が浮かんだ。
「セイギ……サイキョウ……【セイギ×サイキョウ】って名前はどう?」
セイギ×サイキョウ。
なぜだかは分からないが、妙にしっくり来る響きだ。
どこか懐かしい感じがするというか、エスの体に馴染むような感覚がある。
「いいんじゃない? エスらしい感じがして」
「ああ。真ん中のやつは記号か? 変わったクラン名だが、斬新でいいじゃないか」
ユゼリア達は笑って言う。
そんなわけでクラン名が決まり、申請書の記入が終わる。
その後、エスとユゼリアの冒険者カードをデルバートに渡し、数分で手続きは完了。
かくして、エス達のクラン【セイギ×サイキョウ】が設立された。
そうして数日が経った時、デルバートから応接室への呼び出しを受ける。
なんでも、首謀者の男への尋問の結果、いろいろな進展があったのだとか。
「それで、進展って?」
「ああ、それなんだが……」
ユゼリアの質問を受けたデルバートは、紅茶をひと口飲んで説明する。
「まずは黒い魔力を纏った邪獣について……あれは混成体の実験過程で生まれた副産物だったらしい」
「偶然ってこと?」
「ああ。森に放ったのもただの戯れだと言っていた」
デルバートはユゼリアの言葉に頷く。
「んで、あとはエスとユゼリアの嬢ちゃんを襲った仮面集団だが、領主館の使用人達だったそうだ。全員が先日の領主館の捜索で捕まっている」
「よかった。逃げられたわけじゃなかったのね」
ユゼリアはほっと息を吐く。
隣で話を聞いていたエスも、うんうんと首を縦に振った。
「……とまあ、大きな話はこんなところだが、細かい部分の裏付けも尋問のおかげでだいぶ取れた。一連の問題は概ね解決したといっていいだろう。男達の処遇についても決まった。首謀者の男は極刑、残りの奴らは犯罪奴隷にする」
「そう。じゃあ私達もお役御免ね」
「ああ。2人には何から何まで助けられた。本当に感謝する」
デルバートはそう言って頭を下げる。
「現在、急ぎで報酬を用意しているところだ。ずっとロズベリーにいるわけではないだろう?」
「そうね。今度こそ一件落着だし、別の町に行くつもり」
「うん。俺もいろんな場所を旅するつもりだよ」
「そうか。それは、2人とも一緒に?」
デルバートにそう訊かれ、エス達は顔を見合わせる。
「ユゼリア、俺がロズベリーを出るなら付いて行こうかなって言ってなかったっけ?」
「そ、そそっ……そんなこと言ったかしら?」
「うん、たしか【龍の鉤爪亭】で」
エスがそう言うと、ユゼリアは赤い顔で俯く。
「付いてくるのはやめとく? 俺としては、付いてきてくれた嬉しいけど」
「そ……そう?」
「うん、ユゼリアがいると賑やかだし。相性も良いと思うんだ」
「ふ……ふーん? ま……まあ、エスが付いてきてほしいって言うなら?」
「もちろん! 一緒に行こうよ」
「う……うん。分かったわ」
笑いながら言ったエスに、しおらしく答えるユゼリア。
「2人とも、一緒に行動するのなら、いっそクランを作ったらどうだ? 面白いクランになると思うんだが」
「クラン? それって、ロレア達のやつみたいな?」
「ああ、受付で申請すれば簡単に作れるぞ。クランとして連合の依頼を受けることもできるし、この先仲間が増えた時にも便利だろう」
「なるほど。ユゼリアはどう思う?」
「いいんじゃない? 私もいつかクランに入りたいと思ってたし」
「そうなの?」
「ええ。名の売れた冒険者達のほとんどは、一流クランに入ってるものだから。エスが作るクランなら、いずれ大きくなる気がするわ」
「はは、間違いないな」
ユゼリアの言葉に、デルバートが笑って頷く。
「もしすぐに作るんなら、この場で申請を受理してもいいぞ?」
「いいの? じゃあ、どうせだし作ろうかな」
「了解。少し待っててくれ」
デルバートはそう言って部屋を出ると、1枚の紙を持って戻ってきた。
「クラン設立の申請書だ。この羽ペンで記入してくれ」
「オーケー!」
エスは申請書とペンと受け取る。
申請書にはクラン名とクランリーダー、クランメンバーを書くための欄があった。
「ユゼリア、クランリーダーは俺でいいの?」
「構わないわ。私は副リーダーね」
「オーケー!」
エスはクランリーダー欄に自分の名前を、メンバー欄の1番上にユゼリアの名前を書き入れる。
「……そうだ、メンバーの欄にジャスティス1号の名前も入れていい?」
「ジャスティス1号? ああ、エスの召喚獣……使い魔だったか」
デルバートは首を傾げた後、思い出したように言う。
巨大な鬼熊の頭部を見せられた日に1度と、領主館の捜索を行った時に1度、彼はジャスティス1号の姿を見ている。
「そう。クランメンバーに加えちゃダメかな? 普段は送還してるけど、あいつも俺の仲間だからさ」
「召喚獣をメンバーにした前例は知らないが……まあ問題ないだろう。クランは自由なものだからな」
「ありがとう!」
エスはそう言って笑うと、メンバー欄にジャスティス1号の名前を追加した。
「あとはクランの名前だけど……ユゼリアは希望とかある?」
「そうね……すぐには浮かばないわ。エスのフィーリングで決めればいいんじゃない?」
「うーん……フィーリングかぁ」
腕を組んで空欄を見つめるエス。
しばらく考えて込んでいると、ふと頭にとある文字列が浮かんだ。
「セイギ……サイキョウ……【セイギ×サイキョウ】って名前はどう?」
セイギ×サイキョウ。
なぜだかは分からないが、妙にしっくり来る響きだ。
どこか懐かしい感じがするというか、エスの体に馴染むような感覚がある。
「いいんじゃない? エスらしい感じがして」
「ああ。真ん中のやつは記号か? 変わったクラン名だが、斬新でいいじゃないか」
ユゼリア達は笑って言う。
そんなわけでクラン名が決まり、申請書の記入が終わる。
その後、エスとユゼリアの冒険者カードをデルバートに渡し、数分で手続きは完了。
かくして、エス達のクラン【セイギ×サイキョウ】が設立された。
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