【声劇台本】Late-night bus ―深夜バス―

茶屋

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【声劇台本】Late-night bus ―深夜バス―

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■登場人物 
 デニス  (♂):30代前半。既婚。語りがメインで台詞が多い。
 オズモンド(♂):大学生。彼女が居る。軽い雰囲気。
 マイケル (♂):老人。マイケル・コリンズ。アポロ11号搭乗の人物と同姓同名。
 ジャネット(♀):30代後半。娘が居る。ケンカ腰。
 レベッカ (♀):高校生。田舎へ向かう途中。少し気弱さが見える。
 エミリー (♀):少女。レベッカの妹。
 
 ※物語の性質上、テンポはゆったりとしてる。しかも語りが長い。
  声劇台本というには、物語とコンセプト重視で馴染めないかもしれません;
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■配役(3:3:0)
 デニス  (♂)[L99]:
 オズモンド(♂)[L21]:
 マイケル (♂)[L18]:
 ジャネット(♀)[L25]:
 レベッカ (♀)[L38]:
 エミリー (♀)[L27]:

  ※L**:セリフ数
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<深夜バスの中>

 デニス N:激しい目眩を伴って目を覚ました。
       眼球の奥に独特の痛みを感じる。
       何度か瞬きをし、眼球を動かして痛みをほぐそうとする。
       しかし、粘りつくような痛みは消えずに残ったままだった。

 エミリー :「お姉ちゃん。お姉ちゃん。」

 デニス N:辺りは暗い。今居る場所がどこなのか記憶を辿る。
       窮屈な感じを覚え、肌が感じ取った感触から
       自分が固い椅子に座っていることを認識する。

 エミリー :「ねぇ、お姉ちゃん。お姉ちゃんてば。」

 デニス N:遠い昔に聞いたような、そんな覚えのある少女の声が耳に入る。
       
 レベッカ :「ん…なぁに? どうしたの、エミリー?」

 デニス N:目が慣れてきた。
       辺りが暗いのは、明かりが点いていないからだ。
       左手には窓があり、見たことも無い暗い景色が流れていく。
       私は、自分が深夜バスに乗っていることを思い出した。


 (バス走行(通過))※社外からのアングル


 ジャネット:「ちょっと! 静かにしてよ!」

 レベッカ :「ごめんなさい。もう、エミリーどうしたの?」

 エミリー :「お姉ちゃん、おかしいよ。」

 レベッカ :「何がおかしいのよ?」

 エミリー :「このバス、おかしいよ!」

 ジャネット:「ちょっと!」

 デニス N:声は聞こえるが姿は見えない。
       この深夜バスは、左右の窓際に座席が2席づつ設置されている。
       座席が全部で幾つあるのかは分からないが、
       見たところ、自分が座っている座席の右前、右隣、右後ろには
       誰も座っていない。私は、座ったまま背筋を伸ばし車内を見回す。

 レベッカ :「エミリー、小さい声で話して。」

 エミリー :「お姉ちゃん、私怖い…。」

 レベッカ :「どうしたの? それじゃ分からないでしょ?」

 エミリー :「…あそこに座っていた人が居なくなったの。」

 デニス N:暗い車内で頭らしき影が揺れている。
       聞こえてくる会話のやり取りから察するに、
       どうやらその影は少女達のようだ。
       少しだけ見える頭のシルエットは、
       前方の座席を覗き見ているようだった。
       それ以外にも幾つか頭と思しきシルエットが見える。

 レベッカ :「他の席に移ったんじゃないの?」

 エミリー :「違う。」

 レベッカ :「途中で…サービスエリアで降りたんじゃないの?」

 エミリー :「そんなんじゃない。本当に消えたの!」

 ジャネット:「(ため息)」

 マイケル :「お壌ちゃん。お名前は?」

 エミリー :「…。」

 レベッカ :「あ、私はレベッカ。こっちは、妹のエミリー。」

 マイケル :「いい名前だね。」

 デニス N:不意に年老いた男性の声が聞こえてきた。
       穏やかで包み込むような話し方は、とても安心感があった。
       エミリーという少女が言葉を交わすことに躊躇っているようだ。

 マイケル :「眠れないのかい?」

 レベッカ :「ええ、ちょっと妹が。」

 エミリー :「…。」

 マイケル :「そうかい。もし良かったら、後ろの方の席で話でもしないかい?」

 レベッカ :「…ええ。でも…。」

 ジャネット:「ンン!」(咳払い)
 
 レベッカ :「…じゃあ。」

 マイケル :「よいしょっと…あいたたた。」

 デニス N:二人の少女は腰を上げて、静かに車内を後ろへと移動し始めた。
       その二人に連なって老人も後ろへ向かってくる。
       女の子が横を通り過ぎた時、目が合った。
       暗くてはっきりとは分からなかったが、
       ポニーテールを揺らした女の子は利発そうな印象を受けた。
       彼女達は、私の直ぐ後ろの席に座った。

 マイケル :「エミリーは怖い夢でも見たのかい?」

 エミリー :「…。」

 マイケル :「あぁ、自己紹介がまだだったね。
        私の名前は、『マイケル・コリンズ』というんだよ。
        聞いた事ないかい?」

 エミリー :「…ない。」

 マイケル :「『マイケル・コリンズ』と言えば、アポロ11号に搭乗して
        司令船パイロットを務めた偉人なんだがね。」

 エミリー :「知らない。」

 レベッカ :「ごめんなさい。私も…。
        アポロって宇宙船は知ってるけど…乗ってたの?」

 マイケル :「いやいや、名前が同じというだけなんだが…。
        そうかい。今の若い人には分からないもんなのか。」

 デニス N:直ぐ後ろにいるからか、先程と違い会話がはっきりと聞こえる。
       少々落胆した老人のため息。
       それに誰かは分からないが、肌を爪で掻く音。
       そこに人がいるという感覚がはっきりと伝わってくる。
       肌で感じると言うか、『気配』を感じる。
       なんとなく人がそばにいるという感覚が、安心感を与えてくれた。

 レベッカ :「エミリー。変なことばかり言ってないで、ちゃんと教えて。」

 エミリー :「ちゃんと言ってるもん。座っていた人が消えたの!」

 マイケル :「落ち着いてエミリー。
        座っていた人が消えたって…どうしてそう思うんだい?」

 エミリー :「見たんだもん。」

 マイケル :「見たっていうのは…消えたところをかい?」

 エミリー :「ええ、そうよ。」

 レベッカ :「何かの見間違い」

    (マイケルが食い気味で言う)

 マイケル :「そこに誰が居たのか覚えているのかい? どんな人だった?」

 エミリー :「ええっと…。」

 デニス N:会話の内容から、大よその話の筋が見えてきた。
       座っていた乗客が少女の見ている目の前で消えたという主張を
       ポニーテールの姉が信じずに言い争いになっていたのだろう。

    (揺れるバス)

 デニス N:声しか聞こえないが、少女の真剣さと恐れが感じ取れた。
       しかし、女の子も老人も信じていないようだ。
       もちろん私も信じてはいないのだが。
       と、その時。車内の後方から扉の閉まる音が聞こえた。  

 オズモンド:「おい。邪魔だよ。人の席で何やってんだ?」

 マイケル :「おお、失礼。君の席だったのか。 
        しかし、ちょっと訳があってね…席を替わってくれないかな?」

 オズモンド:「はぁ? 席なんていくらでも前に空いてんじゃねーかよ?」

 マイケル :「確かにその通りだね。
        だから、悪いが前の方の席に移ってもらえんだろうか?」

 オズモンド:「なんで俺が?」

 デニス N:トイレに入っていた男性が出てきたようだった。
       恐らく、彼女達が移った席に座っていたのだろう。
       
 ジャネット:「ちょっと! うるさいわよ!」

 デニス N:体格のいい中年女性が割って入ってきた。
       ちょうど私が座っている横で立ち往生している。
       横目で一瞥をくれると私は窓の外へ視線を戻す。

 オズモンド:「俺じゃない! こいつらが俺の席を取ったからだ。」

 ジャネット:「なんでもいいから、通してよ!」
  
 オズモンド:「あ、ああ…。」

 ジャネット:「まったく…!」

 デニス N:鼻を鳴らしながら中年女性は奥へ進んで行った。
       そして、恐らくトイレの扉だろう…それを開ける音が聞こえ、
       次の瞬間、空気を震わすほど乱暴に閉じる音が車内に響いた。

 オズモンド:「っ…。」

 レベッカ :「ごめんなさい。」

 オズモンド:「…あぁ。」(ため息混じり)

 デニス N:若い男が何かを言おうとしていたが、
       トイレの音に邪魔をされ勢いを失ったようだった。
       女の子が謝ると、その男は諦めたような溜息を吐いて
       前の方へ歩いていった。

 エミリー :「…今の人。」

 レベッカ :「え?」

 エミリー :「さっき消えたの、今の人。」

 マイケル :「うーむ。では、消えてなかったということになるのかな。」

 レベッカ :「はぁ。もう、エミリーってば。
        ただトイレに行ってただけだったんじゃない。」

 マイケル :「まぁまぁ。ともかく、問題は解決したようだし。
        良かったじゃないか。」

 レベッカ :「ええ…ごめんなさい。妹が変なこと言ったせいで。」

 マイケル :「いやいや。私も時々、そこに置いたと思っていた物が
        どこへ行ったのか忘れてしまうこともあるからね。
        エミリーも少し勘違いしたんじゃないかねぇ。」

 エミリー :「…。」

 レベッカ :「エミリー、もう人騒がせなこと言っちゃだめよ?
        エミリー? 聞いてるの?」

 マイケル :「さ、もうゆっくりお休み。」

 レベッカ :「ええ。ありがとう。」

 マイケル :「お休み、エミリー。」

 デニス N:そうして、小さな騒動は終わりを迎えたようだった。
       それからしばらく少女の声は聞こえなくなり。
       やがて寝息が聞こえ始めた。
       一緒にいる女の子も、老人も同じように寝息を立て始める。
       私は、また頭に不快感が戻ってきた。時折、体に痛みも感じる。
       眠ろうにもそれらが邪魔をする。
       仕方無く、私は窓の外を流れる景色をぼんやりと眺めていた。

 オズモンド:「なぁ、煙草持ってないか?」

 デニス N:私は不意に声を掛けられて体を強張らせた。
       眠っていたのだろうか? 意識が飛んでいたような感覚から覚める。
       見ると、座席の前にある背もたれに寄りかかり、
       上からこちらへ覗き込む男の顔があった。

 オズモンド:「よぉ。俺の言葉分かる?」

 デニス  :「…煙草は吸わないんだ。悪いな。」

 オズモンド:「ちっ、そーか。
        なぁ、アンタ。何処へ行くんだい?」

 デニス  :「何処でもいいじゃないか。」

 オズモンド:「そう言うなよ。俺はさ、彼女に会いに行くところなんだ。
        明日、彼女の誕生日でさ!
        二人っきりのパーティをやる予定なんだ。」

 デニス  :「そうか。愉しみな。」

 オズモンド:「アンタ、結婚してんのかい?」

 デニス N:若い男は、私がはめているリングに気付くとそう言った。
       私は鼻を鳴らし、薬指のリングをいじりながら無言でうなずく。

 オズモンド:「なぁ、やっぱり結婚っていいもんか?」

 デニス  :「相手によるだろうな。」

 オズモンド:「ま、そりゃそうか。」

 デニス N:男は落ち着かないのか、車内の後部をのぞき見ている。
       私は巻き込まれまいと眠くも無いのに目を閉じ、じっとしていた。
       しばらくすると、
       男は後部座席へ脚を引きずるような音を立てながら歩いていった。
 
 オズモンド:「あれ? なあ、爺さん居なかったっけ?」

 デニス N:不意に、私の真後ろの席から声を掛けてきた。
       少々驚いたが、それでも目を閉じたまま沈黙を守る。
       しかし、その声を聞いて少女達が目を覚ました様だった。
 
 オズモンド:「なぁ。ここに爺さん居たよな? 何処行ったんだ?」

 レベッカ :「…え? 眠っていたから分からないけど…。トイレじゃないの?」

 エミリー :「やっぱり変…。」

 レベッカ :「エミリー。」

 オズモンド:「トイレって…そういえば、
        さっきのオバさんトイレに行ったままじゃねーか?」

 レベッカ :「戻ってないの?」

 エミリー :「いやだ…怖い!」

 レベッカ :「大丈夫。大丈夫だから。」

 オズモンド:「おい、アンタ。起きてくれよ!」

 デニス N:話は聞こえていた。
       流石に様子がおかしい為、このまま無視することは出来なかった。

 オズモンド:「なぁ、さっきのオバさんが
        トイレから戻ってないみたいなんだけど…?
        いや、それに爺さんも見当たらないんだ。アンタ知らないか?」

 デニス  :「いや。分からないな。」

 オズモンド:「でも、アンタの直ぐ後ろに座ってたんだぞ。
        何も気が付かなかったのか?」

 デニス  :「眠っていたせいか分からないよ。」

 オズモンド:「ちょっと、トイレを見てくる。」

 エミリー :「お姉ちゃん!」

 レベッカ :「大丈夫よ。きっと何かの間違いだって。」

 デニス N:私の頭痛が始まった。あまりの痛みに頭を抱えて顔をしかめる。
       その上、体が痛くて重い。
       座席から立ち上がるどころか態勢を変える気すら起きないほどだ。
       
 ジャネット:「なんなのよ! うるわいわね!」

 エミリー :「っ!?」

 デニス N:怒鳴り声は、先ほどの中年女性の声だった。
       前方から聞こえてくるということは、
       知らないうちにトイレから戻っていたのだろう。私が溜息を吐くと、
       後ろからも”ほらね”と言わんばかりの溜息が聞こえた。
       
 レベッカ :「ほら、勘違いよ。大丈夫だって。」

 エミリー :「でも、お爺さんは?」

 レベッカ :「きっとトイレよ。今、見に行ってるから。」

 デニス N:女の子がそうなだめながらも不安そうにしているのが感じ取れた。
       さっき見に行くと言った男が戻って来ないのだ。
       それどころか、よく思い出してみると何の物音もしなかった。
       トイレを開けた音も、ノックする音も。
       それどころか足音すら聞こえない。

 エミリー :「さっきの人、どこ行ったの? まだ戻ってこないの?」

 レベッカ :「…うん。」

 デニス  :「私が見てこよう。」

 ジャネット:「さっきから何なのよ?!
        こっちは具合が悪いんだから、静かにしてよ!」

 デニス N:前方から詰め寄るように通路を歩いてくる中年女性。
       暗さに目がなれていたため、表情も結構見えるようになっていた。
       しかし、目に映った女性の表情は酷いものだった。
       深いしわを眉間に刻み、こちらを睨み付けている。

 レベッカ :「ごめんなさい。あの…お爺さんが居なくなったみたいで。」

 デニス  :「それに、若い男が
        アンタを探しにトイレへ見に行ったまま戻らないんだ。」

 ジャネット:「ああ…さっきここにいた子かい。」

 デニス  :「私は、ちょっとトイレを見てくるからじっとしててくれ。」

 ジャネット:「言われなくてもじっとしてるわよ。頭痛いんだから…もう!」

 エミリー :「…。」

 ジャネット:「何? 私の顔に何かついてる?」

 エミリー :「ううん。」

 ジャネット:「じゃあ、人の顔じろじろ見るんじゃないよ。」

 レベッカ :「あ、ごめんなさい。エミリー。」

 デニス N:女の子は居心地悪そうにしていたが、仕方ないだろう。
       私は、何故こんなことに巻き込まれているのかとウンザリしていた。
       とにかく、さっきの男を連れ戻せばそれで終わりだ。
       そう言い聞かせて歩を進める。
       やがてバスの後部つきあたりへぶつかったが、
       トイレが見当たらない。

 デニス  :「おい! さっきトイレに行った…」

 レベッカ :「さっき行った…男の人?」

 デニス  :「いや、その前にいった女のアンタ。」
 
 ジャネット:「私? アンタじゃなくて…ジャネットよ。何?」

 デニス  :「ジャネット。その…トイレは、どこにあるんだ?」

 ジャネット:「後ろを向いて左側よ。扉があるでしょ?」

 デニス N:ジャネットはそう言ったが…。
       そこには何もなかった。ただの壁だ。
       暗いからという訳ではない。
       手で触れてみても、ただの壁でしかなかった。
       一体、どういうことなのか理解できない。
       突然、頭痛が襲う。
       私は頭を抑えながら、念のため右側も調べてみたが…
       そこにも壁しかなかった。
       仕方なく自分の席へ戻ることにした。

 ジャネット:「あった? 左側よ?」

 デニス  :「……いや、無かった。」

 ジャネット:「はぁ? あったでしょ?」

 デニス  :「いいや、ただの壁で何もなかった。」

 ジャネット:「アンタ何を見てんのよ? まったく。」

 デニス N:ジャネットはそう言いながら、
       面倒くさそうに腰を上げると後部へと歩いていった。
       少女、恐らくこの子がエミリーと呼ばれていた子だろう。
       エミリーは姉の後ろに隠れるようにしがみ付いてた。
       その姉は、不安な顔を隠そうともせず私を見つめていた。

 ジャネット:「ほらぁ! 左側にあるじゃないの!」

 デニス N:ジャネットの苛立った声が聞こえてきた。
       そして扉の開く音がした。暗いせいか私には見えなかった。
       でも、確かに音は聞こえ…そして閉じる音が続いて聞こえた。

 ジャネット:「誰も入ってないわよ? 本当にトイレに行ったの?
        まさか…私の事、からかってるんじゃないでしょうね?」

 レベッカ :「そんな…!」

 エミリー :「やっぱり、消えたんだ…。お爺さんもさっきの人も。」

 レベッカ :「そんなことある訳ないじゃない!」

 エミリー :「じゃあ、二人ともどこへ行っちゃったの?」

 レベッカ :「それは…。」

 デニス N:ジャネットは、少女二人の様子を見て、
       嘘を言っているようには思えなかったようだ。
       彼女も確かに、このバスの中で老人と男に会っている。
       彼女の声色は戸惑っていたが、理解する事を放棄したように言った。

 ジャネット:「悪いけど、私は具合が悪いから自分の席に戻るわ…。」

 レベッカ :「…ええ。わかったわ。」

 エミリー :「お姉ちゃん、首が痛い。」

 デニス N:突然、私も目眩がした。極度の目眩は、
       まるで地震が起きているかのような錯覚に陥るほどだ。
       誰も地震だと騒ぎ立てない様子からも、地震ではない。
       かといってバスの揺れという感じのものでもない。
       自分にだけ起こっている事のようだった。
       席に座り、また目を閉じて休むことにした。

 ジャネット:「ごほ…ごほっ、ごほっ! げほ、がほっ!」

 エミリー :「お姉ちゃん、首が痛いよ…痛いよう。」

 デニス N:ジャネットの咳き込む音が車内に響き渡る。
       こちらまで息苦しくなるくらい、相当つらそうな咳だ。
       後ろではエミリーがしきりに首の痛みを訴える。
       何かがおかしい。

 ジャネット:「ちょっと…運転手さん。
        どこかのサービスエリアで停めてくれないかしら…。」

 デニス N:あまりの不調にジャネットは申し出をしたようだ。
       しかし、運転手の返答はなかった。
       私は目眩が収まらない。
       頭痛に体の痛みまで伴い、座っているだけでも辛かった。
       そして次の瞬間、悲鳴が車内に響き渡った。

 レベッカ :「いやあぁあ! エミリー! エミリー!?」

 デニス  :「…どうした?」

 レベッカ :「エミリーが、エミリーが…。何? 何なの??」

 デニス N:重い体をなんとか浮かせながら、後ろの方へ顔を出す。
       状況を把握する前に、また悲鳴が聞こえてきた。

 ジャネット:「な、なに? どういうことなの!?」

 レベッカ :「エミリーが…エミリーが消えちゃった…!!!」 

 ジャネット:「ちょっと、アンタ達! このバスおかしいよ!
        運転手が居ないんだ! なのにバスが走ってるなんて…!」

 デニス N:目の前が歪み始めた。
       もう、何が何だか分からなくなってきた。
       頭が朦朧として働かない。
       女の子が私に何かを訴えている。
       涙を流し、大きく口を動かしている。
       …だが、そんな様子も目の端から闇が迫ってくるように
       視界が狭くなり。声も段々と遠くなり…やがて、消えた。

    (事故現場:徐々に聞こえてくる喧騒)

 デニス N:突き上げられたように体が大きく揺れた。その拍子に目が覚める。
       辺りは騒然としていて、けたたましいサイレンの音が頭に響いた。
       何か滑車が回るような音。そして、流れる景色。
       不意に咳が出た。と同時に体のいたる所に痛みが走った。
       映画やニュースで見たことがある。
       これは、事故現場の様子だ。
       私はストレッチャーに乗せられていた。
       救急車に搬送されると、そこにはエミリーが横たわっている。
       すでに手当てされており、首が装置で固定されていた。
       それを見た私は、声をしぼり出すように言った。
       
 デニス :「…まだ、中に…人が…。呼び戻さないと…」 

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< END >
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