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投げやりな言葉に胸が痛む。無責任に生きてと願った私に思うところがあったのだろうか。思考の範囲外の反応に不安が募っていく。
「たとえ会えなくなっても、また死ぬなんて言ったら駄目だからね」
「杏さんがいないと私なんて」
「私のためなんかじゃなくて、自分のために生きなよ」
杏さんが止まり、ようやく視線が交差した。
「私やご両親がいなくても、一人で生きていけるくらい強くね」
一人。それはずっと感じていた孤独を指すのだろうか。誰にも頼らず助けを求めず生きていく。杏さんがそばにいるならまだしも、たった一人であの地獄を生き抜くなんて無理だ。それが嫌で死を選んだのに、また戻れと言っているのだろうか。
「私には無理です。杏さんがいないと私には生きる価値すら――」
「あんちゃんが私を想うくらい、私もあんちゃんをすごいと思ってる。それに世界は広いもの。きっとどうにかなるよ」
視線の外から聞こえた、穏やかな声。振り返ると杏さんが足を止め、優しく微笑んでいる。
「あんちゃんが言ったでしょ? 私が生きる世界は広いって。それと同じ、ううん。若いあんちゃんが生きる世界はもっと広いよ。私よりすてきな人もごまんといる。嫌な人もたくさんいるけれど、あんちゃんならきっと大丈夫だから」
「どうして、そう言えるんですか」
「だってあんちゃん、面白いから」
何の根拠もないただの勘。それだけを置いて杏さんは歩きだした。にわかには信じられないけれど、親友に言われたとなれば信じてみる価値は大いにある。けれども言わずにはいられない。
「私、杏さんのために生きますから。もしも死刑になったら私も死にます」
横についてそう宣言すると、杏さんが肩をすくめた。
「またそんなこと言って。あっ、見えた」
「あっ……」
小さな驚きの声が二つ。視界を遮っていた木が十メートルほど前方で途切れている。ついに、着いてしまった。散策コースへ戻ればそこでお別れなのだろうか。いや、最後までついて行こう。杏さんと離れる直前まで一緒にいなきゃ。
「なんとか帰ってこられたね。えっと、車どっちだっけ」
「ここから左の方です」
「さっすが。それじゃあここでお別れかな。いつまでも一緒にいて、あんちゃんに迷惑をかけるわけにはいかないし」
「嫌です。私も行きます」
「警察署に行く途中で捕まったらどうするの。あんちゃんも死体遺棄で捕まるよ?」
「なんとかなりますよ、多分。今までなんとかなりましたし」
自分らしくない適当で強引なやり方。けれどこうでもしないと一緒にいられない。
「もう。途中までだからね」
「はいっ」
天を仰ぐ杏さんに大きく頷いた。警察署までとはいえ、まだ一緒にいられる。それが何より嬉しくて、険しい樹海を往復したはずの足取りはやけに軽かった。
杏さんが戻ってくるのはいつになるだろう。五年か十年か、それとももっと長いのか。けれども死にさえしなければ希望はある。杏さんのために生きるという希望が胸に宿り、ただ歩いているだけなのに体中に力が漲るようだった。
まるで明るい未来へと進むように歩き、散策コースを抜けて駐車場へとたどり着いた。日が傾き、到着した頃より人の数は明らかに減っている。
「あんちゃん、先に車に乗ってて」
「へ?」
森の駅を指さす杏さん。ついすっとんきょうな声で答えた。
「警察署に行く前にトイレに寄っておきたいの。すぐに戻るから待ってて」
にかっと微笑み、車から遠ざかる見慣れた背中。人の数が減ったとはいえ、相変わらず混雑している森の駅に吸い込まれていった。
なぜかその姿を目に焼き付けるように見つめて動けない。胸の中に嫌な予感が広がっていく。
まさか、そんなわけ。
あれこれ考える前に体は動いていた。リュックを背負いながら人の波に飛び込み、体をぶつけながらトイレを目指す。謝ることなんて忘れてたどり着くも、トイレには長蛇の列ができていた。ついさっき別れたはずの杏さんも並んでいたのだろう。そこにいさえすれば。
最悪の予感が脳裏をよぎる。だけどまだ確定したわけじゃない。ひょっとしたら売店に行ったのかもしれない。日陰で休んでいるのかもしれない。散策コースに落とし物を取りに行ったのかもしれない。
「杏さん! 杏さんっ!」
全ての可能性を、声を荒らげながら潰していく。何度も目にした栗色のポニーテールを必死に探す。周囲に奇異な目で見られてもいい。私には杏さんがいればいい。杏さんさえいればいい。
そう熱くなった頭で結論を叩き出し、もう一度トイレから見て回ろうとした。
けれどもすぐに声かけ隊と警備の人に事情を聞かれ、しどろもどろに答え、不審がられて荷物を見られ、あっさりと警察署へ補導された。
それが私の旅の終わり。
一緒に歩んできたはずの人は、もう、どこにもいなかった。
「たとえ会えなくなっても、また死ぬなんて言ったら駄目だからね」
「杏さんがいないと私なんて」
「私のためなんかじゃなくて、自分のために生きなよ」
杏さんが止まり、ようやく視線が交差した。
「私やご両親がいなくても、一人で生きていけるくらい強くね」
一人。それはずっと感じていた孤独を指すのだろうか。誰にも頼らず助けを求めず生きていく。杏さんがそばにいるならまだしも、たった一人であの地獄を生き抜くなんて無理だ。それが嫌で死を選んだのに、また戻れと言っているのだろうか。
「私には無理です。杏さんがいないと私には生きる価値すら――」
「あんちゃんが私を想うくらい、私もあんちゃんをすごいと思ってる。それに世界は広いもの。きっとどうにかなるよ」
視線の外から聞こえた、穏やかな声。振り返ると杏さんが足を止め、優しく微笑んでいる。
「あんちゃんが言ったでしょ? 私が生きる世界は広いって。それと同じ、ううん。若いあんちゃんが生きる世界はもっと広いよ。私よりすてきな人もごまんといる。嫌な人もたくさんいるけれど、あんちゃんならきっと大丈夫だから」
「どうして、そう言えるんですか」
「だってあんちゃん、面白いから」
何の根拠もないただの勘。それだけを置いて杏さんは歩きだした。にわかには信じられないけれど、親友に言われたとなれば信じてみる価値は大いにある。けれども言わずにはいられない。
「私、杏さんのために生きますから。もしも死刑になったら私も死にます」
横についてそう宣言すると、杏さんが肩をすくめた。
「またそんなこと言って。あっ、見えた」
「あっ……」
小さな驚きの声が二つ。視界を遮っていた木が十メートルほど前方で途切れている。ついに、着いてしまった。散策コースへ戻ればそこでお別れなのだろうか。いや、最後までついて行こう。杏さんと離れる直前まで一緒にいなきゃ。
「なんとか帰ってこられたね。えっと、車どっちだっけ」
「ここから左の方です」
「さっすが。それじゃあここでお別れかな。いつまでも一緒にいて、あんちゃんに迷惑をかけるわけにはいかないし」
「嫌です。私も行きます」
「警察署に行く途中で捕まったらどうするの。あんちゃんも死体遺棄で捕まるよ?」
「なんとかなりますよ、多分。今までなんとかなりましたし」
自分らしくない適当で強引なやり方。けれどこうでもしないと一緒にいられない。
「もう。途中までだからね」
「はいっ」
天を仰ぐ杏さんに大きく頷いた。警察署までとはいえ、まだ一緒にいられる。それが何より嬉しくて、険しい樹海を往復したはずの足取りはやけに軽かった。
杏さんが戻ってくるのはいつになるだろう。五年か十年か、それとももっと長いのか。けれども死にさえしなければ希望はある。杏さんのために生きるという希望が胸に宿り、ただ歩いているだけなのに体中に力が漲るようだった。
まるで明るい未来へと進むように歩き、散策コースを抜けて駐車場へとたどり着いた。日が傾き、到着した頃より人の数は明らかに減っている。
「あんちゃん、先に車に乗ってて」
「へ?」
森の駅を指さす杏さん。ついすっとんきょうな声で答えた。
「警察署に行く前にトイレに寄っておきたいの。すぐに戻るから待ってて」
にかっと微笑み、車から遠ざかる見慣れた背中。人の数が減ったとはいえ、相変わらず混雑している森の駅に吸い込まれていった。
なぜかその姿を目に焼き付けるように見つめて動けない。胸の中に嫌な予感が広がっていく。
まさか、そんなわけ。
あれこれ考える前に体は動いていた。リュックを背負いながら人の波に飛び込み、体をぶつけながらトイレを目指す。謝ることなんて忘れてたどり着くも、トイレには長蛇の列ができていた。ついさっき別れたはずの杏さんも並んでいたのだろう。そこにいさえすれば。
最悪の予感が脳裏をよぎる。だけどまだ確定したわけじゃない。ひょっとしたら売店に行ったのかもしれない。日陰で休んでいるのかもしれない。散策コースに落とし物を取りに行ったのかもしれない。
「杏さん! 杏さんっ!」
全ての可能性を、声を荒らげながら潰していく。何度も目にした栗色のポニーテールを必死に探す。周囲に奇異な目で見られてもいい。私には杏さんがいればいい。杏さんさえいればいい。
そう熱くなった頭で結論を叩き出し、もう一度トイレから見て回ろうとした。
けれどもすぐに声かけ隊と警備の人に事情を聞かれ、しどろもどろに答え、不審がられて荷物を見られ、あっさりと警察署へ補導された。
それが私の旅の終わり。
一緒に歩んできたはずの人は、もう、どこにもいなかった。
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