74 / 97
-6-
74
しおりを挟む
「叶は、オートセクシュアルって知っている?」
距離を詰めてきた遥に身構える。しかし遥は素通りし、ベッドを占領しているぬいぐるみの隙間に座った。
床にへたり込む私と、じっと遥を睨んだまま立つ千夏。答えずに首を振る私たちに遥は「まあ当然よね」と足を組んだ。
「ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル。他にも種類はあるけれど、どれも性的指向を指す言葉よね。その中に、自分自身に性的興奮を覚えるマイノリティがあるの」
人さし指を立てながら話す遥に、千夏とそろって耳を傾けた。
「自分が好きで好きで好きで好きで……堪らなく大好きで性的興奮も覚えてしまう。ナルシストとは違う存在。それがオートセクシュアル。私みたいな人を指すのよ」
好きな食べ物を語るかのような軽さに面食らってしまう。横に立つ千夏の顔をうかがうも、眉をひそめ一言も発しようとしない。
「小さい頃から自分を愛していたわ。だけど転校してきた叶を見て変わったの。私とよく似たあなたに――いいえ。私になれるあなたに恋をしたのよ」
目を細める姿は息をのむ美しさ。魅了される前に目を伏せた。
遥によく似た私。昔からそう言われ続けてきた。髪を下ろしてワンピースを着れば双子にしか見えず、寝起きの姿は本人そっくりだと。
そう、そっくりなだけ。どれほど似ていても私は遥になんかなれない。思考も生き方も何もかもが違う。
何度かうらやんだことはある。だけど私は私に満足している。それにどうやったって遥になんかなれない。そんな物心のついた子どもでさえわかる常識を、遥は受け入れなかったんだ。
「叶を私にしたいってずっと思っていたの。私の好きなヘアピン、好きなお饅頭、好きなお花、嫌いな辛い物、嫌いな場所、嫌いな人まで全部わかってほしかった」
遥がこちらに手を伸ばした。
「難しい夢だってわかっていたわ。でも叶が事故に遭って、その夢に手が届いたのよ」
幸せそうな笑みに眩暈がする。目をそらしたくても、その歪さに目を奪われて顔を背けられない。
「あたしが呼んだから、なの?」
千夏の震えた声が耳に届いた。視界に映る遥が「そうよ」と答え姿勢を正した。
「叶のことを聞いて驚いた以上に、神様からのプレゼントだと思ったのよ」
「神、様?」
距離を詰めてきた遥に身構える。しかし遥は素通りし、ベッドを占領しているぬいぐるみの隙間に座った。
床にへたり込む私と、じっと遥を睨んだまま立つ千夏。答えずに首を振る私たちに遥は「まあ当然よね」と足を組んだ。
「ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル。他にも種類はあるけれど、どれも性的指向を指す言葉よね。その中に、自分自身に性的興奮を覚えるマイノリティがあるの」
人さし指を立てながら話す遥に、千夏とそろって耳を傾けた。
「自分が好きで好きで好きで好きで……堪らなく大好きで性的興奮も覚えてしまう。ナルシストとは違う存在。それがオートセクシュアル。私みたいな人を指すのよ」
好きな食べ物を語るかのような軽さに面食らってしまう。横に立つ千夏の顔をうかがうも、眉をひそめ一言も発しようとしない。
「小さい頃から自分を愛していたわ。だけど転校してきた叶を見て変わったの。私とよく似たあなたに――いいえ。私になれるあなたに恋をしたのよ」
目を細める姿は息をのむ美しさ。魅了される前に目を伏せた。
遥によく似た私。昔からそう言われ続けてきた。髪を下ろしてワンピースを着れば双子にしか見えず、寝起きの姿は本人そっくりだと。
そう、そっくりなだけ。どれほど似ていても私は遥になんかなれない。思考も生き方も何もかもが違う。
何度かうらやんだことはある。だけど私は私に満足している。それにどうやったって遥になんかなれない。そんな物心のついた子どもでさえわかる常識を、遥は受け入れなかったんだ。
「叶を私にしたいってずっと思っていたの。私の好きなヘアピン、好きなお饅頭、好きなお花、嫌いな辛い物、嫌いな場所、嫌いな人まで全部わかってほしかった」
遥がこちらに手を伸ばした。
「難しい夢だってわかっていたわ。でも叶が事故に遭って、その夢に手が届いたのよ」
幸せそうな笑みに眩暈がする。目をそらしたくても、その歪さに目を奪われて顔を背けられない。
「あたしが呼んだから、なの?」
千夏の震えた声が耳に届いた。視界に映る遥が「そうよ」と答え姿勢を正した。
「叶のことを聞いて驚いた以上に、神様からのプレゼントだと思ったのよ」
「神、様?」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる