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「叶のスマートフォンに入れたアプリのパスワードを、メモ用紙に書いてあるから」
伏し目がちな遥。これで用件は終わり。とっとと帰った方がいい。それなのに、何かに繋がれたように体は動こうとはしない。自分でも嫌になるほどの単純さに天を仰いだ。
「本当は、すぐに帰ろうとしていたの」
「そう、なの?」
遥が目を丸くしている。
「私も千夏も、遥をまだ許してない。あんなことがあった上に恋人を罵倒されて怒ってる。だけど、やっぱりさ」
こちらをじっと見つめる遥の冷たい手を取った。
「あんなことがあっても遥は幼なじみなんだよ。ちゃんと反省して罪を背負った遥に、笑顔でおめでとうって言ってほしいの。千夏と幸せにねって言ってほしいんだよ」
まるで魅入られたように固まっていた遥も、千夏の名前が出た途端に顔を伏せた。まだ心残りがあるらしい。それもどうにか諦めてもらわないと。
「遥は――」
――まだ私のことが好きなの?
残酷な問いを投げようとして言葉が詰まる。そんなの聞かなくてもわかる。未練があるからこそ、遥は荒れたんだ。そうわかっていても遥から直接聞きたい。不確かなままでいたくなかった。
「まだ、好きなの?」
弱気になって主語を抜いた。それを聞いた遥は俯いたまま。きっとそれが答えなのだろう。だけどまだ受け止めてはいけない。その口から聞くまでは。
「そうだと言ったら、どうするの?」
聞き逃してしまいそうなほど小さな答え。その弱さに諦めてとは言えそうになかった。
「諦めてほしいのよね。わかっている。わかっているわ」
口の中で漂っていた言葉が外から聞こえた。泳がせていた視線を遥に向ければ、真剣な目つきでこちらを見ている。
「ちーちゃんを愛しているから、邪魔な私には諦めてほしい。そういうことよね」
「それは、うん」
下手にごまかすのを止めてぎこちなく頷いた。
伏し目がちな遥。これで用件は終わり。とっとと帰った方がいい。それなのに、何かに繋がれたように体は動こうとはしない。自分でも嫌になるほどの単純さに天を仰いだ。
「本当は、すぐに帰ろうとしていたの」
「そう、なの?」
遥が目を丸くしている。
「私も千夏も、遥をまだ許してない。あんなことがあった上に恋人を罵倒されて怒ってる。だけど、やっぱりさ」
こちらをじっと見つめる遥の冷たい手を取った。
「あんなことがあっても遥は幼なじみなんだよ。ちゃんと反省して罪を背負った遥に、笑顔でおめでとうって言ってほしいの。千夏と幸せにねって言ってほしいんだよ」
まるで魅入られたように固まっていた遥も、千夏の名前が出た途端に顔を伏せた。まだ心残りがあるらしい。それもどうにか諦めてもらわないと。
「遥は――」
――まだ私のことが好きなの?
残酷な問いを投げようとして言葉が詰まる。そんなの聞かなくてもわかる。未練があるからこそ、遥は荒れたんだ。そうわかっていても遥から直接聞きたい。不確かなままでいたくなかった。
「まだ、好きなの?」
弱気になって主語を抜いた。それを聞いた遥は俯いたまま。きっとそれが答えなのだろう。だけどまだ受け止めてはいけない。その口から聞くまでは。
「そうだと言ったら、どうするの?」
聞き逃してしまいそうなほど小さな答え。その弱さに諦めてとは言えそうになかった。
「諦めてほしいのよね。わかっている。わかっているわ」
口の中で漂っていた言葉が外から聞こえた。泳がせていた視線を遥に向ければ、真剣な目つきでこちらを見ている。
「ちーちゃんを愛しているから、邪魔な私には諦めてほしい。そういうことよね」
「それは、うん」
下手にごまかすのを止めてぎこちなく頷いた。
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