ホムンクルス

ふみ

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「ちーちゃんは、いるの?」
「来たくないからって断られた」
「そう……当然よね。あんなことをしたんだもの。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「待って待って。とりあえず座ろ? ね?」
 その場で蹲った遥の肩を抱き、部屋の中へと足を踏み入れた。廊下にいた時は気付かなかった、ツンと鼻を突く匂い。あの清廉な遥でさえこうなってしまうんだ。
 支えていないと倒れそうな遥を、座卓の前に座らせた。その正面に座ろうとして遥に手を取られた。
「隣にいて、お願い。叶に触れていたいの」
「え、ああ、うん」
 大きな疑問符を隠し、遥のそばに腰を下ろした。途端にこちらにもたれ掛かる遥。まるで甘える恋人のようなしぐさに表情を曇らせる。こんなことをしに来たんじゃない。触れていた肩を遥から遠ざけた。
「私が言った条件って覚えてる?」
 拳一つ距離を取って遥に向き直った。
「それは、その」
 遥が目を泳がせる。
「両親も一緒じゃないと、話なんか聞かないって言ったよね。私にうそをついたの?」
「あの、ごめんなさい。心配を掛けたくなくて、言えなかったの」
「その気持ちはわかるけど、約束を守れないなら帰るから」
 見切りをつけるように腰を浮かせた矢先、それよりも早く遥が動いた。
「待って、お願い。ただ謝りたいだけなの。ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
 あの遥が畳に両手を突き、額をこすり付けている。
 遥を許せる理由は、まだ見付かっていない。それがいつになるのかは予想できない。ひょっとしたら、永遠に遥を恨んだまま過ごすのかもしれない。
 だけど今は、優しいうそを優先させてしまった。
「やめて」
 遥の肩をつかんで体を起こした。
「反省しているのはわかったから、土下座なんかやめてよ。遥のそんな姿見たくないよ」
「でも」
「土下座なんかより、遥の言葉で教えてよ。何が悪かったのか、どう反省したのか、これからどうするのかをさ。そっちの方が千夏もわかってくれると思うから」
 縋るような視線にうその微笑みを浮かべる。適当にうそを重ねて小さく傷付き、前へ進めるのなら喜んでやり通してみせる。
「ずっと、迷惑を掛けてごめんなさい」
「もういいってば。今日は他にもすることあるし」
「すること?」
「荷物を取りにきたの。小物が多いけど、ないと困る物が多くて」
「それなら、えっと」
 遥が振り返る。よろよろと年寄りのように立って、壁際に掛けてあった紙袋を手にして戻ってきた。
「いつか取りに来るだろうと思って、まとめておいたの」
 驚きを隠さず、紙袋を受け取って中を覗いた。印鑑、通帳、着替えに折り畳まれたメモ用紙、その他諸々がきちんと入っている。
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