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ぼんやりと映る白い世界。目を閉じても、どこにいるのかすぐに理解できた。それと、あの時と違って記憶を失っていないことも。
「生きてる、の?」
その実感が湧かず腰の辺りに触れた。病院服の下がほんの少し膨らんでいる。好奇心に駆られて強めに押すも、痛みですぐに後悔した。
だけどそれ以外には特に痛みは感じない。チューブが繋がれた両手も重い両足も難なく動かせる。一年前よりましな自分に安堵のため息が漏れた。
現状を理解した後、全身を覆う倦怠感に襲われた。ひどく喉も乾いている。首を捻って床頭台を覗くと、ベッド柵に掛けられたリモコンを見付けた。これでリクライニングができるんだっけ。
どうにかリモコンを操作して体を起こしていると、病室の引き戸が開いた。
「か、叶ちゃん?」
病室の入り口であんぐりと口を開ける千夏。声を掛けようとするも、一瞬で駆け寄ってきた千夏に両頬を手で挟まれた。
「大丈夫? 生きてる? 痛くない? 大丈夫? 生きてる?」
「一応生きてるよ。ねえ、飲み物持ってない?」
千夏に小さく笑って見せる。バッグからペットボトルを取り出してくれた。つい我慢できず、奪うように手に取って垂直に傾けた。
「……ごめん、ありがとね」
「ううん。それよりもっと買ってこようか?」
「大丈夫、だと思う」
渇きにも似た喉の違和感は無視できる程度。それよりも知りたいことは山ほどある。これくらい我慢しよう。
「私、遥に刺されたよね?」
パイプ椅子に腰掛けた千夏が深く頷いた。
「刺されてから三日間眠ってたんだよ」
予想以上に時がたっていたんだ。思わず言葉を失った。
「いつ起きるかわからなくて、ずっと心配だったよ。ほんとに、起きてくれて良かった」
「それは、ごめん」
「別に謝ってほしくて言ったんじゃないよ。むしろ、あたしのせいで叶ちゃんを傷付けちゃったから」
「千夏のせいじゃないでしょ」
千夏がふるふると首を横に振った。
「あの日、心配になってあたしもはる姉のおうちに行ったの」
「来てたの?」
「叶ちゃんが行って三十分後くらいかな。心配になって屋敷に行って部屋に行ったら……叶ちゃんが倒れてた。いっぱい血を流して、死んじゃったと思った」
今にも消え入りそうな声。すうっと耳に入り、意識を失った後の光景が目の前に浮ぶ。高笑いを繰り返す遥を二人がかりで止めたのだろう。それがなければ今頃……。
「生きてる、の?」
その実感が湧かず腰の辺りに触れた。病院服の下がほんの少し膨らんでいる。好奇心に駆られて強めに押すも、痛みですぐに後悔した。
だけどそれ以外には特に痛みは感じない。チューブが繋がれた両手も重い両足も難なく動かせる。一年前よりましな自分に安堵のため息が漏れた。
現状を理解した後、全身を覆う倦怠感に襲われた。ひどく喉も乾いている。首を捻って床頭台を覗くと、ベッド柵に掛けられたリモコンを見付けた。これでリクライニングができるんだっけ。
どうにかリモコンを操作して体を起こしていると、病室の引き戸が開いた。
「か、叶ちゃん?」
病室の入り口であんぐりと口を開ける千夏。声を掛けようとするも、一瞬で駆け寄ってきた千夏に両頬を手で挟まれた。
「大丈夫? 生きてる? 痛くない? 大丈夫? 生きてる?」
「一応生きてるよ。ねえ、飲み物持ってない?」
千夏に小さく笑って見せる。バッグからペットボトルを取り出してくれた。つい我慢できず、奪うように手に取って垂直に傾けた。
「……ごめん、ありがとね」
「ううん。それよりもっと買ってこようか?」
「大丈夫、だと思う」
渇きにも似た喉の違和感は無視できる程度。それよりも知りたいことは山ほどある。これくらい我慢しよう。
「私、遥に刺されたよね?」
パイプ椅子に腰掛けた千夏が深く頷いた。
「刺されてから三日間眠ってたんだよ」
予想以上に時がたっていたんだ。思わず言葉を失った。
「いつ起きるかわからなくて、ずっと心配だったよ。ほんとに、起きてくれて良かった」
「それは、ごめん」
「別に謝ってほしくて言ったんじゃないよ。むしろ、あたしのせいで叶ちゃんを傷付けちゃったから」
「千夏のせいじゃないでしょ」
千夏がふるふると首を横に振った。
「あの日、心配になってあたしもはる姉のおうちに行ったの」
「来てたの?」
「叶ちゃんが行って三十分後くらいかな。心配になって屋敷に行って部屋に行ったら……叶ちゃんが倒れてた。いっぱい血を流して、死んじゃったと思った」
今にも消え入りそうな声。すうっと耳に入り、意識を失った後の光景が目の前に浮ぶ。高笑いを繰り返す遥を二人がかりで止めたのだろう。それがなければ今頃……。
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