ホムンクルス

ふみ

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「千夏が助けてくれたんだ」
「そんなんじゃない」
 俯いていた千夏と目が合った。
「初めからあたしも一緒に行けば、こんなことにはならなかった。あたしが悪いの。あたしが、叶ちゃんを傷付けたの」
「そんなことないって。千夏が助けてくれたから私は生きてるんだよ。死んだわけじゃないし、すぐに良くなるって」
 場を和まそうと笑ってみるも、千夏の表情は暗くなるばかりだった。
「その、お腹だけじゃないの」
 千夏が申し訳なさそうに自らの頬に触れた。そのしぐさに最初は首をかしげる。けれどようやく理解できた。
 まねをするように右頬に手をかざせば、右目のすぐ下から顎の辺りまでガーゼで覆われている。まるで、大きな傷を隠すように。
「あたしがもっと早く来ていたら、顔に傷なんか……ごめんなさい」
 拙い言い方に全てを察した。きっと大きくてひどい跡なのだろう。そうわかった上で、千夏の前で悲しみたくない。涙を流すのは一人になった時でいい。
「おそろいだね」
「え?」
「千夏の傷とおそろい。だから気にしないで」
 千夏が目を見張った後で悲しそうに顔を伏せた。
「そういえば遥はどうなったの?」
 傷から目をそらすように話題も変えてみた。あの遥なら、捕まっても反省せずに大暴れしていそうだけれど。
「はる姉は、えっと」
 今日一番の困り顔。まさか後を追うように命を絶った、とか。
「二人で取り押さえた時は元気だったけど、警察の人が来た後で倒れちゃったの」
「倒れた? ひょっとして自分を刺したの?」
「ううん。こう、貧血を起こしたみたいに意識を失った感じ。それで昨日、目が覚めたって聞いて様子を見に行ったんだけど……」
 奥歯にものが挟まったような言い方。きっといい状態ではないにしろ、ここまで千夏がためらう理由が気になってしょうがなかった。
「はる姉、子どもに戻っちゃった」
 理解が追い付かない。冗談だとしても笑えなかった。
「中身だけ子ども……記憶が小学生の頃に戻ったみたいなの。話してみたんだけど、ここ最近のことは全部忘れてた。叶ちゃんを刺したことも、全部」
「それってただの演技とかうそじゃないの?」
 顔をしかめる。あの遥なら反省もせずやりかねない。
「あたしもそう思ったよ」
 千夏が短くため息を漏らした。
「警察の人も一応、ポリグラフ検査にかけてみたんだって」
「ポリ?」
「うそ発見器のことなんだってさ。それではる姉を調べたら、どうなったと思う?」
 首を振った。
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