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「うそだと証明できなかったみたい」
「そんな、うそでしょ?」
「カウンセリングも受けたらしいんだけど、叶ちゃんと同じ記憶障害だって。強いストレスから自分の心を守るために、今から十一年分の記憶だけ消しちゃったみたい」
「十一年分ってことは……今の遥は十歳ってこと?」
「うん。とりあえずは精神病院で様子を見るんだって」
遥が自分の心を守ろうと過去の自分に逃げた。すぐには飲み込めないそれは、なぜかすんなりと胸の中に溶けていった。
あの遥ならそうする。自分しか愛せないことで周りを見下し、あまつさえ幼なじみもばかにした自分が捕まった。きっとプライドが許さなかったのだろう。
「あんな人の幼なじみだったんだよね」
千夏の棘のある言葉が胸に刺さる。遥を姉のように慕っていた千夏にも限界が来たらしい。それが悲しいはずなのに、涙は出そうになかった。
「あんなことをして、捕まるってわかんなかったのかな。刑務所にだって入っちゃうのに」
刑務所。遥が入所するのを想像して、胸が締め付けられるように痛んだ。
「遥はこれからどうなるの?」
「まだ警察の人が調べている途中。ネットで調べたら殺人未遂は、だいたい五年以上になるみたいだけど」
遥と五年は会えなくなる。いや、前科者になった遥は私たちと距離を置き、二度と会えなくなるかもしれない。今生の別れとなりえるかもしれない。
それが受け入れ難かった。顔を歪めてしまうほどに。
「どこか痛いの?」
心配そうな声に、とっさに自分の頬を撫でた。濡れている。まばたきをするだけで涙があふれて止まらない。
殺されかけても変わらなかった想い。やっぱり、そうなんだ。私はまだ、好きなんだ。
「大丈夫。痛みは、ないの」
目元をこすり無理に笑う。不安がる千夏には話さなければならない。こうしてそばにいてくれる千夏には、隠せない。
「隠していることがあるの」
「何を?」
千夏が不思議そうに首を傾けた。
「これを言ったら嫌われると思う。別れたいって言われてもおかしくない。それでも隠しておきたくないの。千夏には、正直でいたいから」
「ちょっと待ってよ。そんな大げさな――」
「遥を嫌いになれない。ううん。今も好きなの」
千夏のちゃかすような笑みが瞬時に消えた。ビー玉のような目玉がぎょっとこちらを捉えた。
「そんな、うそでしょ?」
「カウンセリングも受けたらしいんだけど、叶ちゃんと同じ記憶障害だって。強いストレスから自分の心を守るために、今から十一年分の記憶だけ消しちゃったみたい」
「十一年分ってことは……今の遥は十歳ってこと?」
「うん。とりあえずは精神病院で様子を見るんだって」
遥が自分の心を守ろうと過去の自分に逃げた。すぐには飲み込めないそれは、なぜかすんなりと胸の中に溶けていった。
あの遥ならそうする。自分しか愛せないことで周りを見下し、あまつさえ幼なじみもばかにした自分が捕まった。きっとプライドが許さなかったのだろう。
「あんな人の幼なじみだったんだよね」
千夏の棘のある言葉が胸に刺さる。遥を姉のように慕っていた千夏にも限界が来たらしい。それが悲しいはずなのに、涙は出そうになかった。
「あんなことをして、捕まるってわかんなかったのかな。刑務所にだって入っちゃうのに」
刑務所。遥が入所するのを想像して、胸が締め付けられるように痛んだ。
「遥はこれからどうなるの?」
「まだ警察の人が調べている途中。ネットで調べたら殺人未遂は、だいたい五年以上になるみたいだけど」
遥と五年は会えなくなる。いや、前科者になった遥は私たちと距離を置き、二度と会えなくなるかもしれない。今生の別れとなりえるかもしれない。
それが受け入れ難かった。顔を歪めてしまうほどに。
「どこか痛いの?」
心配そうな声に、とっさに自分の頬を撫でた。濡れている。まばたきをするだけで涙があふれて止まらない。
殺されかけても変わらなかった想い。やっぱり、そうなんだ。私はまだ、好きなんだ。
「大丈夫。痛みは、ないの」
目元をこすり無理に笑う。不安がる千夏には話さなければならない。こうしてそばにいてくれる千夏には、隠せない。
「隠していることがあるの」
「何を?」
千夏が不思議そうに首を傾けた。
「これを言ったら嫌われると思う。別れたいって言われてもおかしくない。それでも隠しておきたくないの。千夏には、正直でいたいから」
「ちょっと待ってよ。そんな大げさな――」
「遥を嫌いになれない。ううん。今も好きなの」
千夏のちゃかすような笑みが瞬時に消えた。ビー玉のような目玉がぎょっとこちらを捉えた。
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